世界中の消費者は毎日、原材料からメーカー、そして自分の手元に届くまでの過程をほとんど考えることなく、玄関先で注文したものを受け取り、陳列棚から商品を選んでいます。このような手軽さと予測可能性は、企業が長年かけて丹念に構築してきたサプライチェーンの賜物です。
ビジネスは、時間、資金、知恵といった多くの資源を費やして、適切な製品を適切なタイミングで生産・提供しています。サプライチェーン・マネジメントには、このような膨大な量の計画、調整、コラボレーションが伴われます。これは、リーダー、研究開発、業務、財務、マーケティング、販売、ロジスティクスに関わり、顧客満足、ひいてはビジネスの成功に不可欠な業務です。
サプライチェーン・マネジメント(SCM)とは
サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)とは、原材料を完成品・サービスにするために必要となるすべての活動、そしてそれらの製品やサービスをパートナー、さらに最終的には顧客に流通および提供するために必要なすべての業務を指します。
SCMは、サプライチェーン全体で発生する情報や資本の受け渡しと管理に加え、計画段階も対象となります。この分野は、計画、調達、製造、納品、返品という5つの主要な要素で構成されています。

極めて効率的なサプライチェーンを有する企業は、SCMに統合的なアプローチを活用しています。計画、製造、納品といった構成要素を個別のビジネス部門として扱いません。むしろ、プロセスが相互につながり合うすべての方法を検討します。
また連携しているのはプロセスだけではありません。トップクラスのサプライチェーン・プロフェッショナルは、自らの境界を超えた視野を持ち、製品に重要な要素を提供したり、重要なセールス・チャネルとして機能する、アップストリームならびにダウンストリームのパートナーと協調し、常にコミュニケーションを取りながら仕事をすることがますます増えています。そのような優れた企業は、バリューチェーンのあらゆるつながりをそれぞれ理解することで、コスト削減やスピードアップを実現し、混乱に迅速に対応できる柔軟性を得たいと考えています。
SCMの背景には、サプライチェーンがビジネスに価値をもたらし、競争上の優位性を高めることができるという考え方があります。これは、このネットワークをコスト・センターとみなす従来の見方とは対照的です。
サプライチェーンとは
サプライチェーンは、商品またはサービスの生産、輸送、販売、提供において役割を果たす人、ビジネス、リソース、テクノロジーの連携したネットワークです。別の言い方をすれば、サプライチェーンとは、目標を共有することでつながっている組織のグループを指します。それぞれの役割は、製品やサービスをダウンストリーム(小売業者や最終顧客)へ、あるいはアップストリーム(最初の仕入先)へと運ぶことに関係することがあります。
すべての企業にはサプライチェーンがあり、サービスベースのビジネスもこれに含まれます。たとえば、ソフトウェア・プロバイダーは、まずユーザーの需要に基づいて次に開発すべき製品を決定し、次にそのアプリケーションの構築を開始するためにオープン・ソース・コードを「調達」する場合があります。そこから、アプリケーションの品質評価、バグやセキュリティ不足の修正、マーケティングプランの策定、セールス・チャネルや販売チャネルの設置などを行う必要があります。仕入先はまた、そのアプリケーションと統合する必要のある他のシステムを検討し、そうしたソフトウェアのプロバイダーと提携してコネクタを構築することもあります。
基本的に、サプライチェーン・ネットワークは、サブコンポーネントや材料を顧客が求める完成品にするまでのすべてのステップをカバーします。SCMとは、そのネットワークを管理し、改善する方法を見出すことです。
拡張サプライチェーンとは
サプライチェーンには、企業が直接取引する個人、組織、リソースだけでなく、より広範な関係も含まれます。そこには、重要なレアメタルを供給する鉱山企業のような仕入先の仕入先や、顧客の顧客が含まれることもあります。たとえば、販売先がディストリビューターであるメーカーの場合、そのチェーンには、メーカーが生産したアイテムを最終的に購入する購入者も含まれます。
コンポーネントや原材料を供給し、ビジネスに直接販売するわけではないパートナーは、「ティア2」や「ティア3」の仕入先と呼ばれることがよくあります。
企業は、自社の拡張サプライチェーンを理解し、モニターする取り組みを強化しています。たとえば、アパレル小売業者の多くは従来、自社が販売する衣料品の素材を提供する生地工場についての知識がほとんどありませんでした。しかし近年、このネットワークに関わるすべてのステークホルダーが情報を共有することが、大きなメリットをもたらすことが明らかになっています。サプライチェーンの全体像を把握できるビジネスでは、顧客に影響が及ぶ前に遅延や混乱を発見できることが多く、仕入先と直接コミュニケーション・ラインを確立できる可能性さえあります。そのような関係により、より多くの情報を収集し、解決策を策定することができます。
サプライチェーン・マネジメントが重要な理由
サプライチェーン・マネジメントは、ビジネス・リーダーによる効率的で耐障害性の高いサプライチェーンの最終損益に対する重要性への認識が強まる中、ますます最優先課題となっています。サプライチェーンは企業にとって最大の経費の一つであるため、製品やサービスを最終顧客に届けるまでのすべてのプロセスを評価および最適化することは理にかなっています。長期的には、ロイヤルティが育まれ、競合企業との差別化が図れます。
先進的な企業は、適切に実行されたサプライチェーンが需給を一致させることで無駄を削減することを理解しています。仕入先からメーカー、小売業者、計画担当者に至るまで、すべての関係者が一致することで、不必要なコストの発生、顧客の不満、売上の損失につながる過剰在庫や在庫切れの状況を回避することができます。
サプライチェーン・マネジメントの仕組み
SCMでは、個別の製品やサービスのサプライチェーンを形成するすべての事業体間に関係を構築することが必要になります。ほとんどのアイテムは、1つの企業によって調達、設計、製造されるのではなく、多くのビジネスが協力して完成品やサービスを生産し、流通させています。
物理的な流れと情報の流れを分けて考えることで、SCMの内容をより適切に理解しやすくなります。
物理的な流れ
製品を販売する企業は、材料、部品または完成品を受け取り、チェーンの次の段階に移動させる最適な方法を考える必要があります。商品の物理的な流れは、仕入先による原材料の調達に始まり、メーカー、ディストリビューター、小売業者、そして最終顧客へと進みますが、特定のサプライチェーンでは、これらのステップの一部を省略したり、統合することもあります。
それぞれのステップにおいて、物理的なアイテムは次の目的地まで輸送される必要があり、また、ある程度の期間保管されることも多いため、計画と調整を要します。
情報の流れ
商品やサービスがサプライチェーンを通過していくにつれ、すべてのステークホルダーによる状況の詳細情報の可視化が必要になります。仕入先は、メーカーからの発注書をもとに生産実行を計画し、在庫を割り当てます。ディストリビューターは、今後の出荷に含まれる製品の種類と数量、到着予定日を知る必要があります。
サプライチェーンの円滑な運営を維持するには、遅延、欠品、その他の変更に関する最新情報を含む、関係するすべての組織間の絶え間ないデータ・フローが必要となります。サプライチェーン・マネジメント・ソフトウェアは、このようなすべての情報を追跡および共有する上で中心的な役割を果たします。
SCMの6つのメリット
効果的なSCM戦略には、従業員、トレーニング、テクノロジーへの投資に見合うだけの多くのメリットがあります。SCMの主なメリットは以下の通りです。
- コスト削減: SCMの包括的な目標は効率性の向上であり、これはコスト削減につながります。需要を正確に予測できる企業は、在庫に過剰な支出をすることはありません。その結果、キャッシュフローが向上し、倉庫に滞留する製品にかかる資金が減り、企業は生産コスト、出荷コスト、在庫管理コストの削減を実現します。より効率的なプロセスを導入することで、ビジネスは生産性を上昇させ、人件費を削減することもできます。
- カスタマー・エクスペリエンスの向上: SCMは、企業が人気製品の品切れになる状況を最小限に抑えます。そうすることで、顧客の満足度を維持し、将来的に競合他社ではなく自社からの購入を促進できる可能性があります。また、サプライチェーンを最適化することで、製品をより早く、より低コストで出荷する方法が見つかることもあります最後に、透明性が高まることで、顧客はいつでも自分の注文の状況を追跡することが可能になります。
- 品質問題の減少: 商品やサービスの品質向上は、SCMの主要な目標のひとつです。企業は、より良い品質保証(QA)手順を考え出したり、特定の仕入先や宅配業者の破損率が非常に高いことに気づき、パートナーと協力してその是正に取り組むことがあります。顧客は、明らかな品質改善を評価し、サービス・チームは、品質関連の問題解決に費やされていた時間とコストが取り戻されることを歓迎するでしょう。効果的にSCMを行うことで、ブランドの評判に長期的なダメージを与える製品リコールや訴訟を最小限に抑えることができます。
- より強固で耐障害性の高いサプライチェーン: SCMを適切に実行している企業は、サプライチェーンを可視化することができ、すべてのステークホルダーと情報を共有することができます。CFOは、仕入先が主要コンポーネント不足に直面した場合や、小売業者で特定の製品の売上が減少した場合の財務的影響を定量化できます。重要なのは、迅速に対応し、パートナーに情報を提供しながら、収益の落ち込みや顧客への発注漏れの増加を避けることができるように、ビジネスが事前通知を受けていることです。このように迅速にギアをシフトする機能を持つことで、自然災害、疾病の発生、経済不安、または同様の事象がサプライチェーンに影響を及ぼした場合、明確なSCM戦略を持つ企業ははるかに優れた立場を確保することができます。
- サステナビリティの向上: 購入および製造を最適化するサプライチェーンでは、無駄が少なくなります。正確な需要予測により、購入担当者は必要なものだけを購入することができるため、廃棄する在庫が少なくなります。 サプライチェーンおよび製造のサステナビリティをマスターすることで、不要なアイテムの製造や出荷を減らすことができます。つまり、ビジネスの環境フットプリントは、顧客にとってますます重要になっており、Nielsenのサステナビリティ調査に回答した世界の消費者の81%が、企業が環境への影響を減らすことが非常にまたは極めて重要であると回答しています。
- 競争上の優位性の創出: SCMの取り組みの最終目標は、企業に明確な競争上の優位性をもたらすことです。上記のメリットにより、低価格、卓越したカスタマー・エクスペリエンス、より耐障害性の高いサプライチェーン、またはそのすべてを通じて、組織を競合他社から差別化することができます。そして、いったんビジネスがトップまたはそれに近いポジションを確保すれば、市場シェアが拡大し、最終損益が伸びていきます。
SCMの5つの要素
SCMには広範な活動が含まれますが、通常は計画、調達、製造、配送、返品という5つの要素のいずれかに分類されます。各要素をさらに詳しく見てみましょう。
- 計画: SCMは計画から始まります。企業はまず、正確な予測と詳細な分析の提供を支援するサプライチェーンおよび在庫管理ソフトウェアを使用して、必要な物資や製品の数量を決定する必要があります。このプロセスの一環として、SCMは予想される需要を満たすために必要な労働力、資本、パートナーを把握する必要があります。
- 調達: ビジネスが、その計画に基づいて、必要な商品やサービスを提供できる仕入先、メーカー、ディストリビューターを特定する段階です。サプライチェーンの耐障害性の高さを構築する取り組みとして、メーカーは、仕入先の1社が操業停止になったり、容量が減少した場合に備えて、重要なコンポーネントの仕入先を複数確保することがあります。そうすれば、より複雑になる可能性はあるものの、冗長性が増すことになります。冗長な関係の管理も、SCMのこの部分に該当します。
- 製造: 製造をアウトソーシングする企業や完全または部分的に完成品を購入する企業にとっても、これは重要なステップです。企業は、需要予測に基づき、完成品または商品の生産に必要なすべての部品や材料を入手し、品質検査を行い、直接出荷または流通のためにアイテムを梱包する必要があります。
- 納品: 納品とは、フォワード・サプライチェーンの最終ステップであり、他のビジネスであれ消費者であれ、顧客に商品やサービスを届ける指します。企業は、約束した納期に確実に守り、需要の高いSKUが在庫切れとなるようなダウンストリームの問題を回避するために、注文を整理し、優先度を設定する必要があります。この要素には、顧客への請求書発行や顧客からの支払い回収も含まれます。
- 返品: 製品ライフサイクルは、エンドユーザーがアイテムを受け取った時点で必ずしも終了とは限りません。顧客の不満、欠陥、過剰在庫、保証の請求など何らかの理由で製品が返送されることがあります。返送されたアイテムは、返金や交換の責任を負う企業に届くまで、リバース・サプライチェーンを通過します。その後、当該企業はそのアイテムを廃棄するか、修理するか、利用可能な在庫に戻します。
最近の傾向として、オンライン販売担当者が、アイテムを引き取るには回収可能なコストよりも多くのコストがかかると判断し、返金のみを行い、顧客に製品を保持するよう伝える「返品なし返金」(新しいタブで開きます)があります。
8つの主要なSCMプロセス
SCMは、原材料の調達から最終的な納品および返品まですべてを網羅するため、多数の異なるプロセスが含まれます。
- 購入: ビジネスは何かを製造または販売する前に、材料や商品を購入する必要があります。そこで購入、つまり購買が行われます。需要予測に基づき、企業は仕入先に発注書を送り、数量と期限に関する要件が満たされるようにします。
- 製造: 組織がモノを作るビジネスをしているのであれば、そのプロセスは明らかにSCMの基本的な部分です。メーカーは生産実行を予測し、需要に対応するために必要な容量を確保する必要があります。また、仕掛品や完成品の追跡も必要です。
- 在庫管理: 企業は、すべてのコンポーネントやアイテムの入荷、使用、出荷の状況を綿密に監視する必要があります。施設に出入りするあらゆる在庫の詳細と場所を把握することが必要です。在庫管理は、在庫水準を最適化し、在庫回転率の向上と保有コストの削減を実現することに重点を置いています。
- 注文管理: 企業(特に小売業者)は、多くのチャネルから注文を受け、それらを整理する方法が必要な場合があります。注文管理では、注文の分類と優先度設定を行い、地域の倉庫や小売業者のような適切な配送拠点にルーティングします。また、注文管理システムは、注文が処理され、顧客に出荷されるまでの追跡も行います。
- 倉庫管理: 在庫管理と似ていますが、倉庫管理は倉庫内での商品の移動と関連するワークフローに重点を置いています。たとえば、ピッキング、梱包、出荷など、入荷した製品の保管や顧客注文の処理を従業員に指示することで、効率が向上する可能性があります。
- カスタマーサービス: ビジネスは、顧客からの注文がサプライチェーンを通過する際に、顧客に絶えず情報を提供する必要があります。顧客とのコミュニケーションは、顧客の要望を実現できるかを伝えることから始まり、顧客がリアルタイムで注文を追跡できる方法を提供します。パフォーマンスの高いサプライチェーンには、パートナーと顧客との頻繁かつ一貫したコミュニケーションが求められます。
- リバース・ロジスティクス: 顧客からの返品は、オンライン購入の平均30%、一部のアパレル・ブランドでは50%にも上ると専門家は述べます。企業は返品された製品を効率的に処理する方法を考える必要があります。このプロセスは、小売業者やディストリビューターなどのサプライチェーンパートナーや最終顧客から開始される可能性があります。SCMチームは、返品が認められる時期に関する明確な方針と、商品を在庫に戻す時期、修理する時期、破棄する時期に関する詳細なルールを定める必要があります。
- サプライチェーンのパフォーマンス追跡: リーダーは、サプライチェーンのKPIやその他の指標を設定し、 組織が運用パフォーマンス基準を満たしているかを把握する必要があります。これらの指標はリアルタイムでモニターし、問題が水面下で発生しないように頻繁に確認する必要があります。企業は、生産性、コスト、充填率、定時搬送率、顧客満足度を測定することがあります。
仕入先のためのトレーニングと教育、サプライチェーンのプロ
サプライチェーンのレベルアップを目指す企業が取得できる認定資格は数多くあります。ここでは、最も人気のある5つをご紹介します。
発行者:Association for Supply Chain Management
- Certified Supply Chain Professional(CSCP)(新しいタブで開きます)は、サプライチェーン・マネジメントとエンタープライズ・リソース・プランニングに不可欠なテクノロジー、コンセプト、戦略に精通していることを証明します。
- Certified Supply Chain Professional (CSCP)(新しいタブで開きます)は、組織内部の運用に精通し、資材管理、マスター・スケジューリング、予測、生産計画およびそれがサプライチェーン全体で適用される方法について深く理解していることを証明します。
- Certified in Logistics、 Transportation and Distribution(CLTD)新しいタブで開きます)は、注文管理、流通在庫管理、倉庫管理など、ロジスティクス、輸送、流通の効率化と最適化に関するプロフェッショナル・ナレッジを有することを証明します。
発行者:Institute for Supply Management
- Certified Professional in Supply Management(CPSM)(新しいタブで開きます) は、サプライ・マネジメントの現実、グローバル化、テクノロジーの活用、購買とサプライチェーンのプロフェッショナルが組織のバリュー・チェーンを推進するために採用するコンピテンシーの拡大など、職場の複雑さに対処します。
- ISM Certified Professional in Supplier Diversity(CPSD)(新しいタブで開きます) は、仕入先の多様性が、最終損益の改善と、効率性の向上や新たな顧客基盤を獲得することによりイノベーションを加速できる方法を組織に示すためのナレッジとトレーニングを提供します。
SCMの例
SCMに注力した結果、企業がコスト削減、効率化、ひいては競争上の優位性を享受している例は数多くあります。いくつか例を挙げてみましょう。
Walmart
小売大手のWalmartは2010年から、製品をディストリビューターに頼らない仕入先からの直接調達に切り替えました。まず青果物に着目し、2013年までに販売する果物や野菜の約80%(それ以前は20%)を生産者から直接購入するようになりました。この取り組みは、購買コストを15%も削減し、同社の製品入手の迅速化と在庫切れの回避を支援しました。
戦略の一環としてWalmartは、仕入先が商品を納入し、その商品が地域の倉庫に配送される「マーチャンダイジング・ポイント」を戦略的にいくつか設置しました。また、特定の戦略的仕入先と長期契約を結び、大量購入を行うことで、価格の引き下げ交渉を行いました。Walmartはその低価格を顧客に還元し、大口顧客として、購入する商品のデザインや品質について一定の意見を持つようになりました。
Tesla
電気自動車メーカーのTeslaは、垂直統合的なサプライチェーンを構築しているため、多くの自動車メーカーのように外部のパートナーに依存することはありません。Teslaはバッテリーを含む多くのコンポーネントを自社で製造し、ディーラーやサービス・センターも自社で所有しています。これにより、自動車の製造、販売、メンテナンスに関わるプロセスをより詳細に管理することができます。
Teslaは、米国を拠点とするサプライチェーンのコストを下げるため、自動化とロボット工学を活用しています。このビジネスは、調達と製造の大半を自社で行っているため、付加価値があると考えられれば、どこにでも自動化を追加することができます。Teslaはまた、競合他社よりも迅速にプロセスを調整したり、車両に変更を加えることができます。
Zara
アパレル企業のZaraは、サステナビリティの向上を目標としたSCM戦略を採用しました。同ブランドは、オーガニック・コットンをはじめとする環境フットプリントの少ない素材を使用するようにシフトしました。また、同社はバイオディーゼルを燃料に走る車両を保有し、製品を倉庫や店舗に輸送しています。
Zaraは販売する衣類の多くを自社で製造しており、製造に伴う廃棄物の削減を目指していました。そこで同社は、特定の衣料品に使用する生地を、可能な限り無駄のない方法で採寸および裁断できるように支援するテクノロジーを導入しました。このスペインの小売業者は、衣料品のリサイクル・プログラムも開始しました。Zaraは2025年までに、埋立地から出る廃棄物をゼロにし、店舗、配送センター、オフィスで使用するエネルギーの80%に再生可能エネルギーを使用することを約束しています。
SCMソフトウェア
現在、サプライチェーン・マネジメント・ソフトウェアは、多国籍サプライチェーンを支えるプロセスの計画、設計、管理において中心的な役割を果たしています。これらのソリューションは、SCMの5つの要素(計画、調達、製造、配送、返品)すべてを支援し、各ステップに関連するタスクの多くを自動化することができます。
企業は、これらのタスクを処理するために、ERPソフトウェア・プロバイダのSCMモジュールを使用することがよくあります。一般的なモジュールには、需要計画、購入、製造、在庫管理、注文管理および倉庫管理(WMS)などがあります。それぞれがサプライチェーンの特定のステップ専用です。たとえば、購入モジュールは、承認された仕入先のリストを保持し、在庫が特定のしきい値に達すると自動的に発注書を提出することができます。WMSモジュールを使用すると、倉庫の従業員は携帯デバイスで注文を取得し、1つないし複数の注文に含まれるアイテムの最も効率的なピッキング・パスを確認することができます。
ERPベンダーによるモジュールを使用する利点は、サプライチェーン・データと、財務、顧客、人事などビジネス全体にわたるその他の重要な情報を、単一のプラットフォーム上で統合的に可視化できることです。これらのモジュールを使用することで、企業は、サードパーティのシステムをERPにリンクすることでしばしば生じる統合の課題を回避することもできます。
しかし、企業によっては、SCMソフトウェア・スイートを採用する場合もあり、コア・ビジネス・システムとの統合方法を確実に理解する必要があります。
SCMの歴史
Booz Allen Hamilton ConsultantのKeith Oliverが「サプライチェーン・マネジメント」という言葉を初めて使ったのは1982年のことでした。翌年、ドイツの企業が世界初のSCMプロジェクトを立ち上げましたが、この手法が多くのビジネス・リーダーの注目を集めるようになるまでには、少なくともあと10年はかかることになりました。
90年代半ばから後半にかけて、多くの企業がサプライチェーンを詳しく調べ、コスト削減と運用の最適化を図る方法を考案し始めました。そして、計画、製造、配送といった、従来はサイロ化されていたサプライチェーン機能を統合し、ネットワーク内で他のビジネスと情報を共有する方法を模索し始めたのです。
その後数十年で、遠く離れたグローバル・サプライチェーンが標準となったため、SCMはより重要性を増し、広く実践されるようになりました。このようなバリュー・チェーンは、さらなるリスクと複雑性をもたらし、増大するパートナー間の戦略的計画と調整があって初めて円滑に運用することが可能でした。
主要企業は現在、サプライチェーンをさらに最適化する新たな方法を求めて、新たなテクノロジーを模索しています。
SCMテクノロジー
新しいテクノロジーを検討する際に重要なことは、ERPシステムやSCMソフトウェアとの通信が可能であることの確認です。どの企業にとっても、データサイロの増加は最も避けたいことです。
3つの興味深い投資分野を見てみましょう。
モノのインターネット(IoT) デバイスは、企業や一部の中小企業の間で普及し始めています。これらの接続されたデバイスには、役立つ情報を収集し、ERPに送り返すことができるセンサー、スキャナー、カメラが含まれます。たとえば、メーカーはトラックにトラッカーを取り付け、注文の出荷状況をリアルタイムにモニターできるようにすることがあります。倉庫の自動化機器にセンサーを取り付ければ、その状態をモニターでき、通常レベルのパフォーマンスが得られない場合には、マネージャーに警告を発して予防メンテナンスを要請することができます。リニアであれマトリクスであれ、バーコードやRFIDタグの高度な利用は在庫管理を支援します。
ブロックチェーン もサプライチェーンの世界では話題のテクノロジーです。ほとんどの企業にとっては、まだ現実というよりも概念に近いものですが、ブロックチェーン・テクノロジーは、サプライチェーンを通過する商品やサービスの信頼できる詳細な記録を維持することが可能です。ブロックチェーン・ネットワークは、自動的に更新され、改ざんされず、すべてのステークホルダーが見ることができる記録に情報を保存します。このような監査証跡は、製品やサービスの調達、製造、提供において役割を果たすさまざまなエンティティ間の透明性を高めます。
クラウドベースのアプリケーショ ンもSCMの目標をサポートおよび実現します。サービスとしてのソフトウェア・システム(SaaS)は特に、仕入先から定期的なアップデートを受けられるため、ニーズ拡大に合わせてインフラストラクチャを追加構築する必要がなくなり、より小規模なビジネスが最先端の機能を活用することを支援します。IoT、ブロックチェーン、クラウド・テクノロジーは、サプライチェーンがよりデータドリブンで相互接続されるようになるにつれて、その重要性は増す一方です。
アワード受賞
クラウド型
在庫管理ツール
SCMのトレンド
高度なサプライチェーン・マネジメントに関しては、テクノロジーはその一部でしかありません。2020年に世界的なパンデミックによりネットワークが混乱した際、多くの企業が突如としてグローバル・サプライチェーンの脆弱性に気付きました。
その結果、多くの企業がこの広大なネットワークの詳細な調査に着手しました。その取り組みの一環として、仕入先のパフォーマンスとカスタマー・ニーズをリアルタイムに近い形で可視化し、サプライチェーンの全体像を把握する取り組みに重点を置いたデジタル・サプライチェーンに再び注目が集まっています。それぞれのつながりを理解し、常に可視化しておくことで、企業はより適切なバックアップ・プランと強力なコミュニケーション・ラインを構築し、危機や市場環境の変化に直面した際には迅速に適応することができると考えられています。
パンデミックはまた、サプライチェーンの特定の部分を現地化することの利点を多くの企業が検討するきっかけにもなりました。北米での調達や製造はコストがかかる可能性がありますが、メーカーが求める柔軟性や対応力を得ることができます。過去30年間はアウトソーシングがトレンドでしたが、それも変わりつつあるという見方もあります。ただし、ビジネス・リーダーは、オンショアリングをSCM戦略の一環とすべきかを判断するために、移転にかかる莫大な資本コストを考慮した徹底的な評価を行う必要があります。
上記のZaraの例からもうかがえるとおり、サステナビリティもSCMに影響を与えるもうひとつのムーブメントです。一部の購入者は、購入する製品が環境に与える影響に関心を持つようになり、環境に配慮する取り組みを協調して行っている企業を求めるようになっています。これは、直線的なサプライチェーンで一般的な、使用済みアイテムの廃棄ではなく、再利用やリサイクルに努める循環型サプライチェーンの台頭と密接に関係しています。しかし、循環型サプライチェーンの利点は消費者へのアピールだけにとどまりません。特に、部品を再利用したり、未来の商品の原材料にすることができれば、既存の製品を再利用する方が、新しい製品を製造するよりもコストを抑えることができます。このモデルのその他の利点のひとつは、ビジネスが排出物や廃棄物に関する拡大する規制を遵守することを支援することです。
プロセス領域とテクノロジー領域をつなぐもうひとつの注目すべきSCMトレンドは、自動化です。倉庫や工場の自動化は目新しいものではありませんが、自動化の量とレベルの高さが増しています。より複雑なタスクを処理できるロボットや、商品を運搬する自同運転車が、多くの施設で活躍の場を広げています。自動化が生み出す省力化により、米国企業がサプライチェーンをより身近な場所に移動させることがより現実的になる可能性があります。
宅配業者や小売業者は、顧客の玄関先まで注文を届けることができる自動運転車やドローンの導入さえ試みています。
サプライチェーン・マネジメントが企業の収益性と長期的な成功と切っても切れない関係にあることを認識している経営者は、より優れた商品やサービスを生産し、より迅速に、コストを抑えて顧客に届けることを可能にする新しいプロセス、人、テクノロジーを求めています。さまざまな業界にわたり、組織はカスタマー・エクスペリエンスの向上を重視する中、SCMがそうした分野でも成果を上げることができることに気づくでしょう。高パフォーマンスでコスト効果が高く、耐障害性も高いサプライチェーンは、あらゆるビジネスが求める競争上の差別化要因となり得ます。