エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムの選択は、企業にとって重要な決定事項の1つです。そこには考慮すべき要素がたくさんあります。ERPシステムの機能やコスト、導入形態に加えて、今後長く付き合うことになるシステムのベンダーのことも考慮する必要があります。その投資に対する評価には時間がかかりますが、運用とコストの効率化の早い実現や、高度なデータの統合と分析から得られる情報に基づいたリアルタイムの意思決定、今後の成長へのサポートといった点から、その価値が十分にあることは間違いありません。

このガイドは、ERPとベンダーを評価する基準を十分に網羅しており、会社にとって正しい決定をするために役立ちます。

ERPの要件の評価と確定

ERPでは組織の多くのビジネス機能およびプロセスを単一の統合されたシステムで管理し、アクティビティとデータを統合することで、ビジネス全体が馴染みのある同一ページから作業できるようにします。また、部門間のコラボレーションも促進します。ERPが及ぼす幅広い全社的な影響を考えると、システムまたはベンダーを実際に考慮する前に、社内の様々な分野の利害関係者で構成されるチームの声に耳を傾けてERP要件のチェックリストを具体化する必要があります。この評価チームには一般的に、経営幹部、プロジェクト・マネージャー、会計や営業、調達、マーケティングおよびその他の部門の部門長と、システム担当者が含まれます。チーム・メンバーの最初の仕事は、それぞれのチームとミーティングを行い、それぞれの目標と、それを達成するために必要な機能の種類およびユース・ケースを評価することです。

それぞれが希望する内容のリストがまとまったら、社内チームは再度集まり、意見を集約したうえでERP要件の全体リストをまとめることができます。また、予想される投資収益率(ROI)と、このようなメリットを実感できるまでにどのくらいかかるかもこのときに明確にして文書化しておきます。評価の段階でこれを行うことで、ROIを後から簡単に測定できます。

ERPの機能

主要なERPシステムでは、サプライ・チェーン管理からマーケティングといった多数の重要なビジネス機能が統合されています。また、拡張性もあります。個別の機能をERPシステムにモジュールとして追加できるため、成長企業はニーズの拡大に応じて新しい機能を購入できます。ERPソリューションの購入を検討している企業を対象にした2020年の調査では、10社中ほぼ9社の割合で、最も重要なERP機能として会計を挙げ、それに続いたのが在庫と配送でした。包括的なERPシステムには、財務や製造、調達、eコマース、マーケティング・オートメーション、および在庫や注文、顧客関係管理(CRM)、ワークフォースなどの各種管理機能のためのモジュールも含まれています。

新しい機能の導入を検討するにあたっては、自動化によって改善できる現在のビジネス慣行やプロセスを考慮し、効率の向上およびコスト削減につなげます。また、引き続き使用される他のレガシー業務システムとERPとの統合が容易かどうかも判断材料になります。

予算とタイムラインの決定

要件がまとまったら、次のステップは、ERPベンダーの評価やデモ、導入、トレーニングのための予算とスケジュールを決定することです。クラウドベースのERPは一般に、特に先行支出について考えた場合、オンプレミスのシステムほどコストはかかりません。また、導入検討チームが費やした時間もコストとして考慮する必要があります。ERPシステムの最終的なコストが、導入によってもたらされるコスト削減および効率の向上によって相殺されることを確認してください。ERPを選択してからそれが実際に使用されるまでは、導入および導入形態の複雑さにもよりますが、30日から1年以上かかります。クラウドベースのERPの設定にかかる時間は、通常はずっと短いです。

ERPの主要な10の選択基準

ERPシステムが長期にわたってビジネスを支える基盤の一部となることを考えると、軽率な決定はできません。会社が選択肢を評価するにあたって留意すべき10の主要な基準を次に紹介します。

  1. ビジネス要件: ERPシステムで何を実現したいですか?この質問は基本的なものに思えるかもしれませんが、答えるには入念な検討が必要です。この質問に対する答えを持つのは、ビジネスの様々な分野から指名された社内の利害関係者のチームメンバーです。

    各メンバーはまず、新しいシステムをどのように使用したいか(望ましい機能など)についてのフィードバックを自分のチームから集める必要があります。その後、社内チームでフィードバック内容を調整し、システムが企業の各部門にどのように価値、つまりROIをもたらすかについての全体的なビジョンをまとめ、見込まれるROIを測定するためにどの指標を使用するかを定義し、その結果をビジネス要件分析文書として作成できます。この文書は、様々なシステムを評価する際の、そして究極的にはERPシステムのROIを測定するためのガイドやチェックリストとして使用できます。

  2. ERPの機能: 様々な企業と部門が、それぞれに特化したプロセスをサポートする機能を必要とします。しかし一方で、すべてに共通するニーズとして、部門をまたいだ管理とコラボレーションを拡張する直感的なインタフェースとダッシュボードに、理解しやすい主要業績評価指標(KPI)とレポート作成機能が求められています。また、高度なビジネス・インテリジェンスやデータマイニング機能、データ・セキュリティも共通の要件です。ERPシステムには、既存システムからのデータをスムーズに移行できることやカスタマイズ性も求められます(詳細については後述)。

  3. 総所有コストとROI: これは選択された導入形態により異なります。ERPがオンプレミスでインストールされている場合、企業はすべてのハードウェアおよびソフトウェアの先行コストに加えて、導入やカスタマイズ、ビジネスの成長に伴うアップグレード、セキュリティに関連する費用を負担します。さらに、従業員のトレーニングや継続的なメンテナンスおよびサポートなどのコストも発生します。コストには1回かぎりのものと継続的なものがあり、ユーザー数も影響する場合があります。通常、総所有コスト(TCO)は高いため、ビジネス・クリティカルでないシステムに比べ、一般的にERPのROIが現れるまでには時間がかかります。

    クラウドベースのERPの場合は、クラウド・ベンダーによって設定、ホスティング、および管理されるため、これらのコストの多くを削減、排除、または償却し、TCOを引き下げられる可能性があり、ROIはほぼ確実に早まります。これが、クラウド・デプロイメント・モデルが成長企業の間で人気がある主な理由です。ERPはインターネットを介してアクセスし、セキュリティはクラウド・ベンダーが管理し、ソフトウェアはサービスとして提供されます。ソフトウェアの更新やアップグレード、保守もベンダーが行います。

  4. システム統合: ERPは異種のビジネス・プロセスを統合するだけでなく、主要なソリューションを、企業が継続使用を望む既存システムやアプリケーションとも統合します。その場合、新しいベンダーは、システム間のデータが常に最新となるようにリアルタイムの同期を可能にするコネクタを備えている必要があります。

  5. サポートとトレーニング: ERPは、初期導入、継続的な日常業務、および従業員のトレーニングのためにサポートを必要とします。ベンダーがこれらすべてのタイプの導入サポートを提供しているかどうか、自社のビジネス・セグメントにおけるそのベンダーの特定のスキル、自社のビジネス・ニーズに対応したエスカレーション・レベルのサポートがどの程度まで提供されているか、およびどの程度の応答時間が保証されているかを判断します。管理サポートが月額料金によるオプションである場合もあります。

  6. 導入: ERPの導入にかかる期間は、システムがオンプレミス、クラウド、ハイブリッドのどの形態でデプロイされているかに応じて、1か月から1年以上まで様々です。一般的に、クラウドベースのERPシステムの場合は内部リソースが関わるのではなくベンダーが導入を処理するため、最も早く稼働できます。新しいERPは、通常は段階的に実装され、データ品質を確保するためのデータ・クレンジングを必要とするデータの移行を伴います。実稼働の前には厳密なテストが不可欠です。

  7. ベンダーの業界専門知識: ERPソフトウェアの評価に加えて、自社の業界における各ERPベンダーの専門知識を評価することもお薦めします。同業界の、ほぼ同じ規模の企業にERPを成功裏に導入した経験があるなら理想的なベンダーといえます。また、満足した(また不満足な)顧客のリファレンスを入手して確認することも有効です。また、財務的実行可能性も、将来のサポートを確保するうえで重要になります。

  8. テクノロジー: 先進的なテクノロジーが次々と登場し、ERPに活用よるメリットもいっそう高まっています。クラウドや人工知能(AI)、そして特に機械学習は、ビジネス・プロセスを改善し、より深く、より高い予測能力で分析およびインサイトを提供するとともに、パーソナライズされた体験を可能にするといった利点をもたらします。システムによっては、ERPに情報をフィードバックするセンサーやカメラなどのIoTデバイス、トランザクションの処理やデータの透明な流れを実現するブロックチェーン、拡張現実などをサポートするものもあります。

  9. ベンダーの製品ロード・マップ: ビジネスが成長するにつれ、ERPシステムの要件に、初期要件には含まれていなかったものが追加される可能性があります。そのため、ベンダーが今後どのように製品を改善、機能追加、およびサポートしていくのか(新しいバージョンや機能)、そしてそれらの機能が既存のソフトウェアにどのように統合されていくのかを確認することが重要になります。また、更新やパッチの頻度も考慮が必要な項目の1つです。

  10. カスタマイズ: カスタマイズの必要性は、ビジネス・プロセスの複雑さによって異なります。また、ERPの選択時には必要なくても、ビジネスの成長に伴ってそれが重要になってくる場合もあります。また、これはシングル・テナントかマルチ・テナントかというクラウド・デプロイメントのタイプを選択する際の指針ともなります。前者の場合は、後者のモデルのようにERPを共有するのではなく、その企業1社専用となるため、より多くのカスタマイズが可能です。

ERPシステムを選択するための10の主要な基準

基準 考慮事項
ビジネス要件
  • ERPシステムが自社のビジネス市場セグメントをしっかりとサポートしていますか?
  • ERPシステムが自社の要件にマッチしていますか?
ERPの機能
  • ユーザー・インタフェースは直感的で、モジュール間で一貫性がありますか?
  • ERPソフトウェアにモバイル・アプリからアクセスできますか?
  • ビジネス・インテリジェンス・ツールは含まれていますか?
  • ビジネスの成長に応じて新しい機能/モジュールを追加できますか?
総所有コストとROI
  • ERPシステムのコストはどのくらいですか?
  • ソフトウェアのライセンスはどのようになっていますか?
  • 価格設定には何が含まれていますか?
  • ROIを得られるまでにどのくらいかかりますか?
システム統合
  • ERPシステムは他のビジネス・システムと統合できますか?
  • ERPシステムへの既存データの移行はどのくらい簡単にできますか?
サポートとトレーニング
  • 導入時、および導入後にどの程度のサポートが提供されますか?
  • 保証される応答時間はどのくらいですか?
  • 従業員へのトレーニングは提供されますか?
導入
  • 導入にはどのくらいの時間がかかりますか?
  • ソフトウェアにテスト・ツールは付属していますか?
ベンダーの業界専門知識
  • ベンダーは業界のことをどの程度知っていますか?
  • 導入の成功例となるインストール・ベースはどのくらいですか?
  • ベンダーは顧客事例を提供できますか?
テクノロジー
  • ビジネスの成長に応じて新しい機能を追加できますか?
  • ERPはAI/機械学習、IoT、ブロックチェーンなどの先進技術を活用していますか?
ベンダーの製品ロード・マップ
  • どんな新機能が予定されていますか?いつごろリリース予定ですか?
  • ベンダーは、所定のスケジュールで更新を公開していますか?新機能へのアップグレードに追加料金はかかりますか?
カスタマイゼーション
  • ERPシステムはカスタマイズ可能ですか?
  • カスタマイズについてどのようなサポートが提供されていますか?

ERPベンダーの評価 — ERPベンダーに尋ねる30の質問

評価チームがERPシステムの候補となる短いリストをまとめたら、今度はより詳細な質問で掘り下げていきましょう。その答えによって各ベンダーの違いがはっきりし、どのシステムが自社の業務に適しているかを見分けるのに役立ちます。

  1. ビジネス要件
    • ERPシステムが自社のビジネス市場セグメント(たとえばeコマースやプロフェッショナル・サービスなど)をしっかりとサポートしていますか?
    • ERPシステムは自社の要件すべてを網羅していますか?
  2. ERPの機能
    • ユーザー・インタフェースは直感的で、すべてのモジュール間で一貫性がありますか?
    • ビジネス成長など必要に応じて新しい機能/モジュールを追加できますか?
    • ERPソフトウェアにモバイル・アプリからアクセスできますか?
    • レポートの作成やデータマイニング用のビジネス・データ分析ツールは含まれていますか?
  3. 総所有コスト
    • オンプレミスとクラウドベースを比較して、ERPシステムのコストはどのくらいになりますか?
    • ソフトウェアのライセンスはどのようになっていますか?1回限りの支払ですか?月単位のサブスクリプションですか?ユーザー単位の課金ですか?
    • 価格にはセキュリティや保守、更新の費用が含まれていますか?
    • ROIを得られるまでにどのくらいかかりますか?
  4. システム統合
    • 既存のデータはシステムにどのようにロードされますか?
    • レガシー・システムおよびデータとのブリッジとなるのはどのようなゲートウェイやミドルウェア・ソフトウェアですか?
    • ERPシステムは他のビジネス・システムと統合できますか?
  5. サポートとトレーニング
    • 導入時にどの程度のサポートが提供されますか? 週7日、24時間ですか?これは価格に含まれていますか?
    • 継続的なサポートにはどのようなパッケージが用意されていますか?オンサイトですか?電話ですか?各タイプのサポートの保証される応答時間はどのくらいですか?
    • トレーニングはどのような提供方式ですか?オンサイトですか?教室形式ですか?サード・パーティによる提供ですか?
  6. 導入
    • 導入にはどのくらいの時間がかかりますか?
    • ベンダーの導入パートナーはどんな会社で、専門知識はどのくらいありますか?
    • ソフトウェアにテスト・ツールは付属していますか?
  7. ベンダーの業界専門知識
    • ベンダーは業界のことをどの程度知っていますか?
    • ベンダーの事業継続年数はどのくらいですか?
    • 導入の成功例となるインストール・ベースはどのくらいですか?自社の市場セグメントにおける顧客数はどのくらいですか?
    • ベンダーは顧客事例を提供できますか?
  8. テクノロジー
    • ソフトウェアの拡張性はどうですか?ビジネスの成長に応じて新しい機能を追加できますか?
    • ERPシステムでは、高度なデータ処理および分析、パーソナライズやプロセス改善のためにAIや機械学習テクノロジーを活用していますか?
    • ERPシステムではIoTやブロックチェーン、拡張現実をサポートしていますか?
  9. ベンダーの製品ロード・マップ
    • どんな新機能が予定されていますか?いつごろリリース予定ですか?
    • ベンダーは、所定のスケジュールで更新を公開していますか?新機能へのアップグレードに追加料金はかかりますか?
  10. カスタマイズ性
    • カスタマイズ可能ですか?
    • カスタマイズについてどのようなサポートが提供されていますか?アプリケーション・プログラミング・インタフェース(API)は提供されていますか?

ERP ベンダーの比較

無料のERPベンダー比較表を使って、主要な基準でベンダー候補を評価しましょう。このテンプレートは、評価対象となるベンダーや製品の数に合わせて拡張することができます。各ベンダーが各基準をどの程度満たしているかを、1~5の数値で評価します。各項目内のスペースにコメントを記入できます。一番下では、各ベンダーの合計スコアを計算します。

無料のERPベンダー比較表を手に入れる

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適切なERPベンダーの選択

適切なERPベンダーとシステムは各企業によって異なり、その目標、要件、および予算はいずれも、意思決定プロセスにおける要素となります。成長企業は、オンプレミスで利用する場合に必要となる初期コストなしで多くのコア・プロセスを自動化および統合できる、NetSuite ERPのようなクラウドベースのERPにますます注目するようになっています。NetSuite ERPでは会計や在庫、発注、製造、サプライ・チェーン、倉庫などの業務を1つのアプリケーションで管理でき、業務やデータを全社的に可視化できます。NetSuite ERPは、eコマースやCRMなど、他のNetSuiteビジネス・アプリケーションとの統合も可能です。

無料のERP選定基準チェックリスト

このチェックリストは、各ERPシステムを評価するために使用します。各要素について、製品がどの程度ビジネス要件に合致しているかを記入します。

無料のERPの選択基準チェックリストを手に入れる

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結論

ERPのメリットはビジネスのあらゆる分野に影響します。そのため、適切なものを選択することが重要で、慎重な考慮と徹底的な評価が必要となります。ERPソリューションは機能、コストおよび導入形態の点でいろいろ違いがあります。最初から明確な目標と正しい評価基準を確立することで、今後長年にわたって大きなROIをもたらしてくれる理想的なERPシステムを正しく選択およびデプロイメントできます。

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ERPベンダーの選択基準に関するFAQ

ERPベンダーを選択する基準にはどのようなものがありますか?

ERPベンダーを評価するにあたっては様々な基準があります。その中でも、ERPのノウハウに加えて、業界の複雑さをどの程度理解しているかなど、ベンダーの専門知識のレベルについて確認してください。価格、導入にかかる期間、提供される(事前のおよび継続的な)サポートやトレーニングのレベル、システム・アップグレードがどのように行われるか、製品のロード・マップはどのようなものかについて質問してください。さらに、顧客事例についても質問してください。

ERPベンダーの選定プロセスにおける最初のステップは何ですか?

最初のステップは、社内の様々な分野の利害関係者で構成されるチームを結成し、各チームのビジネス要件やERPのニーズをまとめたビジネス要件分析文書を作成することです。この評価チームには通常、経営幹部、プロジェクト・マネージャー、会計や営業、調達、マーケティングおよびその他の部門の部門長およびIT担当者が含まれます。

ERPのベンダーやソフトウェアの選定はどのように行われますか?

ERPシステムの評価は、体系的かつ慎重に行う必要があります。市場には、クラウドベースとオンプレミスの多くのERPソリューションがあります。自社の要件を満たすと思われるシステムについては、ベンダーと話し、デモを見せてもらい、顧客事例を確認して、さらに深く検討する必要があります。

ERPの選考プロセスはどのようなものですか?

ERPシステムの選定にはいくつかのステップがあります。これには、ビジネス要件と目標の評価と設定、予算とスケジュールの策定、コストや導入形態、及び期間、サポートとトレーニング、ベンダーの専門知識、カスタマイズ性などの要素について候補となるシステムを評価することなどが含まれます。