発生主義会計は、2つの主要な会計処理方法の1つであり、企業の事業に関する正確な財務状況を示すために推奨される経理方法です。

発生主義会計では、実際に現金が授受されるときではなく、ビジネス収益やそれに対応する費用が発生したときに、それらを収益や費用として認識します。つまり、収益を記録するのは、現金を回収したときではなく、収益が発生したときです。また、費用が認識されるのは、企業がその費用を支払ったときではなく、企業がその費用に対する責任が発生したときです。

主なポイント

  • 発生主義会計では、収益が発生したときに収益を記録し、費用が発生したときに費用を記録することで、企業の財務ステータスをより正確に把握でき、収益と費用が効率的に対応付けられます。
  • この方法では、企業は売掛金、買掛金、前払い資産、未払費用などの貸借対照表勘定を使用して収益と費用を記録します。
  • 現金主義会計は、一部の小規模な企業にとって有効な方法です。この場合、一般的に経理処理が簡単になります。

発生主義会計とは

発生主義会計では、「費用収益対応の原則」と「収益認識の原則」の2つの主要な会計原則を組み合せています。費用収益対応の原則は、費用によって生み出された収益と同じ期間の中で、その費用を認識する必要があるとする原則です。収益認識の原則は、収益が発生または実現するとき(つまり、企業が収益に対する権利を得るアクションを実行したとき)に収益を認識する必要があるとする原則です。

発生主義会計では、通常、収益と費用の関係がより明確になり、収益性に関する優れたインサイトが得られます。また、貸借対照表で企業の資産と負債をより正確に把握できます。これらの理由から、発生主義会計は、米国の一般に公正妥当と認められた会計基準(GAAP)で許されている唯一の方法であり、上場企業に対して、米国証券取引委員会(SEC)により、その使用が義務付けられています。

発生主義会計の仕組み

発生主義会計の場合、企業は、収益が発生した期間内の収益と、発生した費用を認識します。このとき、多くの場合、発生の前または後に、実際に金銭を受け取ったり、支払ったりしています。

発生主義会計は、キャッシュ・イベントのプレースホルダのように機能する貸借対照表に発生額を記録することで機能します。たとえば、売掛金は、企業が得たが、まだ支払われていない収益を反映する資産勘定です。同様に、買掛金は、企業が支払う必要があるが、まだ支払っていない金額を反映する負債勘定です。

発生主義会計と現金主義会計

発生主義会計とは別の会計方法として、現金主義会計と呼ばれる方法があります。

現金主義会計とは

現金主義会計は、事業所有者の個人的な納税申告を介して税金を支払う小規模な企業や組織によって使用される傾向があります。現金主義会計では、収益と費用はキャッシュ・フローのみに基づいて記録されます。収益は、企業が顧客から現金を受け取ったときに反映し、費用は現金を支払ったときに記録します。これにより、現金主義会計処理方法での経理が非常に簡単になり、キャッシュ・フローの追跡も簡単になります。

現金主義会計と発生主義会計の主な相違点を次の表にまとめます。

  発生主義 現金主義
収益の認識 発生したとき 現金を受領したとき
費用の認識 発生したとき 支払ったとき
支払うべき税額 発生したすべての収益に基づく 回収した現金のみに基づく

収益と費用が記録されるタイミングによっては、報告期間から次の報告期間までの収益が大きく変動する可能性があります。発生主義会計では、現金が実際にいつ授受されたかを考慮しないため、企業の財務記録に対するタイミングの影響が軽減されます。たとえば、あるソフトウェア企業が、同社のソリューションに対する5年間のサブスクリプションを販売し、サブスクリプションの開始時に現金合計額として全額の支払いを受け取る場合を考えてみましょう。現金主義会計では、最初の期間中にすべての収益を記録し、今後5年間は何も記録しないため、連続する2つの報告期間で数字が大幅に異なる可能性があります。発生主義会計では、その収益をサブスクリプション期間にわたって分散し、その取引の影響を均一化します。

納税の影響

発生主義会計と現金主義会計の違いは、納税にも大きな影響をもたらします。たとえば、発生主義会計の潜在的な税務上の影響により、企業が一部の取引に対する現金をまだ受け取っていない場合でも、認識された収益に対して納税が必要になる可能性があります。

発生主義会計の例

収益の例: 収益についての発生主義会計の簡単な例は、企業が企業間信用で顧客に販売を行う場合で、顧客は取引後の一定期間内に企業に支払いを行います。この場合、収益は、現金が受領される前、主に商品が引き渡されたり、サービスが実行されたりしたときに発生します。

Tom's Servicesは、2月10日に顧客のSmith’s Computersに対して5,000ドル相当のITサービスを提供しました。Tom's Servicesは、月末の2月28日に請求書を作成する際に、Smith's Computersに請求書を送付しました。また、クラウドベースの会計システムを使用している場合は、取引が記録されるときに収益が認識されます。

Tom's Servicesの請求条件では、30日以内に支払いが必要です。Smith’s Computersは、3月15日にTom's Servicesに小切手を送り、同日に入金されました。

この取引の場合、Tom's Servicesの売掛金と現金の仕訳は次のようになります。

2月

  借方 貸方
売掛金- Smith’s Computers 5,000ドル  
売上   5,000ドル

2月分のサービス収益を記録。

3月

  借方 貸方
現金 5,000ドル  
売掛金- Smith’s Computers   5,000ドル
受領した現金を記録し、Smith’s Computersが支払った金額を消し込み。

経費の例: 経費に関する発生主義会計の一般的な例は、企業が掛けで在庫を購入する場合です。

スポーツ用品店であるSport's Worldは、サッカー・シーズンに先立って、3月1日にメーカーのSoccer Expertsから5,000ドル相当のサッカー・ボールを受領し、在庫として保管しました。Sport's Worldは、4月5日にSoccer Expertsから請求書を受け取り、4月10日に支払いを行いました。

この取引に対するSport’s Worldの買掛金と現金の仕訳は、次のようになります。

3月

  借方 貸方
在庫 - サッカー・ボール 5,000ドル  
買掛金 - Soccer Experts   5,000ドル
サッカー・ボールの在庫の受領を記録し、Soccer Expertsへの負債を設定。

4月

  借方 貸方
買掛金 - Soccer Experts 5,000ドル  
現金   5,000ドル
Soccer Expertsに対する負債額が解除され、現金を消し込み。

その他の例: 発生主義会計で収益と費用を認識する方法は、他にも多数あります。その他の例をいくつか挙げます。

  • 1年または複数年の契約、メンバーシップ、またはサブスクリプションが一括払いで支払われる場合、その収益または費用は、契約またはサブスクリプションの存続期間にわたって複数の期間に分散されます。
  • 給与計算サイクル間で累計される給与計算、休暇、または従業員の福利厚生の場合、企業は、費用を後で支払う場合でも、費用を適用した期間中に各費用を認識します。(2024年4月時点日本未対応)
  • 水道光熱費または賃料が、それらの利用期間より後に請求される場合、企業は電気、ガス、水道、または賃貸物件を使用した期間中に費用を計上します。
  • 収益に対する法人税または売上税の場合、企業は、米国内国歳入庁(IRS)などによって要求された時期に税金を支払うとしても、収益を認識したのと同じ期間内に税金を認識します。
  • 融資に対する利息は、元金を後日支払う場合でも、元金の未払い期間中に記録します。

発生主義と現金主義を使用する場合

日本の企業会計原則では一部要件を満たす小規模事業者以外、費用は発生主義で計上し、収益は実現主義で計上することが定められています。全ての投資家、資金提供者、金融機関は、企業を評価する際に企業会計基準、又は国際会計基準に則った財務諸表を要求します。

ただし、一部要件を満たした場合、現金主義によって計算することが可能です。前々年の事業所得及び不動産所得の金額合計が300万円以下の小規模事業者であること等、複数の条件を満たした個人事業主に現金主義が認められます。個人事業主、パートナーシップ、S法人も現金会計を使用できます。現金主義の適用を受けるには条件を満たしたうえで、申請を行う必要があります。

企業会計原則に基づいた適切な会計処理

発生主義会計は、企業の財務状況をより正確に表すことができるため、ほとんどの企業にとって望ましい会計方法です。現金主義では企業の経営実態を把握出来ない為、上場を目指す会社または上場会社は現金主義から、企業会計原則に基づいた適切な会計処理である発生主義への変更が必要になります。発生主義を採用することによりビジネスの安定性がより明確になり、投資家や資金提供者から資金を獲得する可能性が高まります。さらに、発生主義会計を採用することで、GAAPに準拠できます。これはベストプラクティスであり、将来的に重要になる可能性があります。

そのシンプルさから最初は現金主義会計を使用するスタートアップ企業であっても、外部資金を申請するようになると、発生主義に変更する必要があります。したがって、現時点では、この方法を採用していない場合でも、将来的には必要になる可能性が高いでしょう。

発生主義会計がビジネスに適しているか

ビジネスが収益と経費の両面で現金払いに完全に依存している場合、発生主義会計がビジネスに適していない可能性があります。他のほとんどのビジネス(顧客に掛けで販売したり、仕入先に掛けで支払ったりするビジネス)では、発生主義会計を使用することで、総合的な財務健全性をより正確に把握できます。一般に、支払いまでの期間が長いほど、発生主義会計を支持する意見が強くなります。在庫を保有する製品ベースのビジネスは、たとえ小規模であっても、現金主義会計では商品販売コストを正しく考慮(新しいタブで開きます)できず、売上総利益が減少するため、通常は発生主義会計を使用します。

日本の企業会計原則では一部要件を満たす小規模事業者以外、費用は発生主義で計上し、収益は実現主義で計上することが定められています。そのため、ビジネスが特定の段階に達すると、この会計処理方法が必要になります。

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発生主義会計での会計ソフトウェアの活用

企業が発生主義会計の使用を躊躇する最大の理由の1つは、帳簿と記録を管理するために必要な時間と労力にあります。売掛金、買掛金、前払い資産、または繰延資産を管理することは、現金主義会計で単に現金の出入りを追跡するよりも複雑です。また、発生主義会計では、企業は帳簿をより頻繁に(つまり、毎年ではなく毎月)締める必要があります。さらに、企業は通常、売掛金や買掛金などの補助元帳を週次または隔週でより頻繁に管理します。

処理を自動化および効率化し、エラーや人件費を削減できる会計ソフトウェアを導入することで、発生主義会計の導入に対する潜在的な障害を大幅に軽減できます。発生主義会計の主要な要素である定期的な仕訳、補助元帳の照合、および貸借一致は、ほとんどの会計ソフトウェアのコア機能に含まれており、発生主義会計を簡素化します。