事業開発では、財務予測と財務モデリングを同じ意味で使用することがよくあります。両者の間には共通点もありますが、予測とモデリングは異なる機能です。

財務予測と財務モデリングに関する誤解は、それらの相補的な性質から生じています。どちらの目標も、企業の将来の業績を予測するための情報を収集し、企業の関係者による重要な意思決定を支援するという点で類似しています。

財務プランニングと分析(FP&A) を担当する従業員は、収益と経費を予測する財務予測を作成し、将来の特定の期間におけるキャッシュ・ポジションを推定するのをサポートします。これは大企業では独立した職務である可能性がありますが、規模の小さい企業では、財務部門の従業員の責任に組み込まれていることがよくあります。

予測を作成したら、チームは 財務モデリング・ツール を使用して、さまざまな シナリオと条件 に基づいて意思決定の効果をシミュレーションできます。実際、財務モデリングは、財務部門が将来のビジネス・パフォーマンスに対する意思決定の影響を完全に理解するのに役立ちます。

ツールを使用することで、FP&A以外の関係者が製品開発、マーケティング、人事、サプライチェーンなどの分野でモデルをますます簡単に作成できるようになりました。

主なポイント

  • 財務予測は、将来の財務報告期間中における企業の業績を予測するプロセスです。
  • 財務モデリングは、予測やその他のデータから情報を収集し、個別のシナリオをシミュレーションして、企業の 財務状態に与える影響を分析するプロセスです。
  • 多くの場合、ビジネス・プランニング・チームはビジネス予測とモデルを組み合わせて、より詳細な予測の作成 、予算の編成、資金需要の評価、投資の分析を行います。

財務予測とは

財務予測は、 ビジネス・プランニング、予算編成、および業務管理 に必須の機能です。ビジネス・リーダー、投資家、資金提供者は、これらの予測をレビューして、予測される収益と経費を評価し、会計期間全体にわたる企業のキャッシュ・フローを推定できます。財務予測では、外部および内部の履歴データの傾向を考慮して、今後の傾向を予測し、将来のある時点における企業の財務実績の可能性に関する情報を意思決定者に提供します。

企業の主要な関係者は、財務予測を使用して、購入、採用、および資本的支出に関する意思決定を行います。各マネージャーは予算を編成するために財務予測が必要です。

多くの場合、企業は翌四半期または翌年度の財務予測を発表します。予測が複数の財務報告期間を対象とすることがよくあります。企業は、想定外の要因によって売上が予測と異なる方向に向かっていると判断した場合、財務報告期間中に修正した予測を発表することもあります。

予測が重要な理由

予測は各会計期間が始まる際の重要なステップであり、企業は予測に基づいて、財務負債をカバーするために必要なキャッシュ・フローをどのように維持するかを決定します。また、予測は経営幹部が予算を編成する際に必要とするデータも提供します。同様に、財務予測は、主要な資本的支出、採用、その他の重要な投資に関する財務上の決定に大きく影響します。価値のある予測は、どのリソースがいつ必要で、それらのリソースの経費をどのように支払えばよいかを示してくれます。

企業が見積財務諸表に予測結果を含める場合があります。見積財務諸表は、標準的な財務諸表と似ていますが、仮説的な条件に基づいて過去と将来の結果を示すものです。見積財務諸表は、多くの場合、投資家や資金提供者に提供され、投資家や資金提供者は、その企業に追加資金を提供するかどうかを判断する際に、この財務諸表を考慮します。また、見積財務諸表は、最近のまたは計画されている買収または合併の影響を説明するためにも使用されます。

また、財務予測は新しい事業計画の立案者にとっても重要です。

財務予測の方法

財務チームは、売上、人件費、資材コストなど、予測の改善につながる可能性ある入手可能なデータを収集して予測を作成します。それらの情報の多くは以前の財務報告期間から取得されますが、財務担当者は、経費や収益に影響を与える可能性のある内部および外部の情報も考慮します。ビジネスの特性に応じて、外部データには、経済に関するレポートや業界レポート、異常気象や地政学的影響などの他の変動要因が含まれる場合があります。将来的に顕在化する可能性がある要因を調査することも、収益と経費を正確に予測するために重要です。

財務部門は従来、Excelスプレッドシートを使用してシンプルな予測を作成してきましたが、現在でもその多くが同じ方法を使用しています。しかし、従業員はかつてないほど多くのデータやツールにアクセスできるようになり、多くの企業では、予測のための エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP) モジュールや予測、予算編成、モデリングを統合する専用ソフトウェアを使用しています。

財務予測には4つの異なる方法 があります。

  1. 直線法: 予測に対する最もシンプルなアプローチであり、計画担当者は過去の数値と傾向を使用して収益の拡大を推定し ます。この方法を使用する財務予測では、通常、開始日と終了日が定義されています。財務アナリストはスプレ ッドシートを使用してこれらの予測を作成できますが、予測用に設計されたツール(新しいタブで開きます)を使用すると、急速に変化す る市場での対処が容易になります。
  2. 移動平均: 移動平均では、過去の実績と内部パターンに基づき、予測を繰り返し使用して推定値を 求めます。最も一般的な移動平均モデルは、3か月から5か月です。
  3. 単純線形回帰/多重線形回帰: これは、従属変数と独立変数の間の関係を 分析する方法です。単純線形回帰法を使用すると、売上(x軸)と利益(y軸) の傾向線が上昇する場合、企業にとってすべてが順調であり、利益率が高く なります。売上が増えているが利益が減っているために傾向線が下降する場 合は、何らかの問題が起きています。たとえば、供給コストの上昇や利益率 の低下が考えられます

    線形回帰は、傾向を表すグラフ線を使用して従属変数の変化を示します。基 本的なパターンを特定し、そのパターンを収益、利益、売上成長率、株価など の一般的な財務指標を評価するために使用できます。移動平均の増加は上 昇傾向を示し、移動平均の減少は下降傾向を示します。より複雑なシナリオ の場合、企業は多重線形回帰を使用して、複数の独立変数の結果を調べる ことができます。その後、これらの要素が業績にどのように影響するかを分 析できます。

  4. 時系列: 時系列法では、過去数か月などの特定の期間の数値を使用して、短期的な将来の業績を 予測します。たとえば、ディストリビューターは、過去3か月の収益と月次成長率を調 べて来月の結果を予測したできます。また、エネルギー会社はこの方法を使用して今後 2か月の石油価格を予測できます。

重要な財務KPI

ビジネスに適したKPIを絞り込むことは、短期的および長期的な成功を実現するために重要なことです。金融会社のKPIの設定を初めて担当する場合でも、既存のKPIの改善に関するベストプラクティスの検討を新たに行う場合でも、この簡潔でシンプルなガイドが役立ちます。

財務モデリングとは

予測では、特定の会計期間における企業業績の基本的な推定値が得られますが、モデリング では、アナリストがそれらの予測を使用して、さまざまな潜在的なシナリオが短期的および長期的な業績にどのように影響するかを評価できます。財務モデリング・ツールを使用すると、アナリストは、必要な数だけ予測を選択し、予測を変更することで、検討中の意思決定や投資のリスクを評価できます。

財務予測は、損益計算書、貸借対照表、およびキャッシュ・フロー計算書に基づいています。財務部門は、これら3つの財務諸表を結び付けて、いわゆる3ステートメント・モデルを作成できます。このモデルに対する変更は、3つの財務諸表に反映されます。その他のよく使用されるモデルには、割引キャッシュ・フロー(DCF)モデル、合併・買収モデル、連結モデル、予算モデル、予測モデル、価格設定モデルなどがあります。

モデリングが重要な理由

財務チームでは、財務予測を作成または修正するときにモデルを構築する場合があり、それが2つの機能が頻繁に混同される理由となっています。しかし、財務モデルは、他の目的にも役立てられており、現在の業務の分析と長期的な予測のどちらにも使用されます。事業開発チームは、買収の可能性、売却、または資本配分を検討する際に、多くの場合、モデルを使用して、それが収益と経費にどのように影響するかをより適切に理解します。また、どの施設を稼働または閉鎖するか、特定の業務をアウトソーシングするか、人員を追加または削減するかを決定する際にも、モデルを使用する場合があります。モデルは、さまざまな製品やサービスの価格の上昇または低下による影響の判断にも役立ちます。

2020年の新型コロナウイルス・パンデミックの間、多くの計画担当者は、急激な景気後退に基づいて短期的な予測を調整するために、新しい財務モデルを作成する必要がありました。多くの企業は、統合された予算編成ツールとプランニング・ツールを活用して、この状況に迅速に適応し、新型コロナウイルスの影響を軽減することができました。また、モデリングはパンデミックに関連するさまざまな結果の影響を確認するのにも役立ちました。

これらのツールがより強力になり、使いやすくなったため、モデリングは財務以外の分野にも利用が拡大しています。マーケティング、販売、サプライチェーン、調達の担当者は、戦略、意思決定、推奨事項を経営幹部に伝えるためにますます多くのモデルを作成しています。

財務予測と財務モデリング

共通点

  • 財務担当者は、ビジネスの状況についての合理的な推定値(収益と経費の両方を含む)を提供する目的で、予測とモデルを構築します。この推定値は、過去の要素と推定される将来の要素に基づいて決定されます。
  • 通常、予測とモデルは、同じ履歴データと変動費の予測を使用して、企業の収益を予測します。
  • 財務予測と財務モデルのどちらの結果についても、投資家、金融業者、自社の計画立案チームおよび予算編成チームなど同じようなオーディエンスが分析します。

相違点

  • 財務予測は、特定の会計期間に対して予測されたキャッシュ・フローと経費のベースラインを示しています。財務予測は、見積貸借対照表、貸借対照表、およびキャッシュ・フロー計算書に記載されます。
  • 財務担当者は、社内外のさまざまなイベントがキャッシュ・フローや経費にどのように影響するかを理解するのに役立つ分析ツールを使用して財務モデルを構築します。
  • 財務モデルを作成する担当者は、多くの場合、投資家を探すためや、制約のあるビジネス上の意思決定の影響とそれぞれの意思決定に関連するリスク要因を分析するためなど、特定の理由からモデルを作成します。予測は、計画立案と予算編成に役立てるために定期的に実施されます。

財務モデリングと財務予測の比較

財務予測 財務モデリング
ビジネス上の目的 通常、財務部門が、より正確で現実的な予算を編成するために予測を作成します。 モデルは、予算編成プロセスで計画担当者やアナリストが最善のシナリオと最悪のシナリオを検討するのに役立ちます。
オーディエンス 予測は損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、および貸借対照表に記載されます。 通常、内部意思決定者向けであり、必ずしも投資家や資金提供者と共有されるわけではありません。
使用データ 予測は、履歴データと将来のデータに基づいて構築され、今後の会計期間(通常は四半期または会計年度)に期待される収益と費用を推定します。 モデルは、予測やその他のデータを使用して、特定の意思決定がビジネス・パフォーマンスに与える影響をシミュレーションします。
担当者 通常、業務チームとFP&Aチームが、予想される経費と収益を報告するために予測を作成します。意思決定者は、予測により得られた数字を考慮して、期待事項の決定や意思決定を行います。 スキルがあり、ツールを利用できれば誰でも、予測の調整や修正から調査の実施まで、さまざまな理由でモデルを作成できます。