エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムは、財務、在庫管理、製造、販売、プロジェクト管理、人事(HR)などのコア・ビジネス機能を単一の統合プラットフォームと統合し、重要なデータへのアクセスを一元化することで、計り知れない価値をもたらします。これらの機能の可視性が向上することで、ビジネス・リーダーは効率性を高め、コストを削減し、新たな成長の機会を開くことができます。
その価値、つまりERPの投資収益率(ROI)を定量化することは、第一に、ERP投資を正当化するビジネス・ケースの構築にとって非常に重要です。さらに、ERPのROIの定量化を含めた分析は、企業が組織へのERPの影響を評価および予想するために役立つとともに、ERPが企業にもたらす価値が高まり続けるようにERPアプローチを徐々に改善するためにも有用です。
しかし、ERPには企業の非常に多くの異なる側面に影響を及ぼす能力があるため、それらの影響(したがってROI)を定量化することは、複雑になる可能性があります。これは特に、クラウドERPに移行する企業に当てはまります。クラウドERPでは、そのROIを金額で定量化しにくい無形のメリットが提供されます。この記事では、ERPの数多くのメリット、そのROIを正確に計算する方法、および企業がERP投資から最大の価値を得るために役立つヒントについて詳しく説明します。
ERPのメリット
ERP導入のROIを計算する前に、自分の企業がなぜERPに投資し、何を実現しようとしているかを明確にすることが非常に重要です。ERPが企業にもたらすことができるメリットと、それらのメリットをERPがどのように生み出すかについての次の概要は、これらの期待を明確に表すために役立ちます。
- 共通のデータベースに格納されたデータ。 ERPは、組織全体からデータを収集し、そのすべてを共通のデータベースに格納します。これにより、一般の従業員と、特に主要なビジネス・リーダーは、財務プロセスや倉庫オペレーションからリード生成や営業の成功まで、単一かつ正確で統合された事業運営のビューを使用して、ビジネスの動向をモニターできます。
- ビューが統合されることでサイロが減少します。 組織の統一されたビューを使用することで、データ・サイロが解消され、情報に基づいたビジネス上の意思決定を行う際に時間が大幅に節約されます。例えば、サプライ・チェーン、在庫生産能力および予測される顧客需要についてのリアルタイムの洞察は、製造業者がチームの能力を超えることなく生産高を最大化するために役立ちます。
- 企業が迅速に拡大できるようにします。 特にクラウドベースのERPは、とりわけ業務の複雑化を管理するために迅速に規模を拡大する必要がある企業に対して、魅力的な成長プラットフォームを提供します。生鮮食品の迅速な配送に特化したサプライチェーン・ロジスティクス・プロバイダーGreen Rabbit社(opens in a new tab)を例にとります。Green Rabbit社は、クラウドベースのERPを採用して、スタートアップから全国規模の事業へと急速に拡大しました。顧客が全米からの数万件の注文を毎日、遅延や在庫管理ミス無く配送することを支援しています。
- 人的ミスを軽減します。 ERPは、合理化された請求書作成により、企業が注文および支払の適時性を改善するためにも役立ちます。対照的に、手動の簿記は時間がかかり、人的ミスが起こりやすいため、不要なコストや遅延につながる可能性があります。ことわざにもあるように、時は金なりです。企業の注文の処理、配送および請求が速くなればなるほど、顧客にすばやく届き、企業への支払が早くなります。
- タスクを完了するために必要な人員を削減します。 企業がERPから得る価値の多くは、複数の部門に関係するプロセスをERPが統合することによってもたらされます。販売から倉庫業務、配送まで、多くのチームおよびタッチ・ポイントが関係する、標準的な調達から支払までのプロセスについて考えてみます。
ERPでは、このチェーン全体の利害関係者が、単一のシステムからプロセス全体を追跡および管理できます。例えば、大きな取引をまとめたばかりの営業担当は、他の誰かを頼る必要なく、いつでも注文のステータスを確認して、顧客に最新情報を提供できます。このプロセスにより、効率性が向上し、費用が節約されて、説明責任と信頼に基づくより強力な顧客関係の構築に役立ちます。
ビデオ: ERPのROIの算出(英語)
ERPのROIを計算する方法
ERPのメリットは十分に文書化されていますが、特定のERP導入の投資収益率(opens in a new tab)を計算することは微妙に異なるプロセスです。計算例について見ていく前に、3つの重要な区別について見てみましょう。それは、オンプレミスとクラウドのデプロイメント・モデル、「ハード」な収益と「ソフト」な収益、初期導入と継続使用です。
デプロイメント・モデルの選択は、ERPのROIの計算に重要な影響を与えます。厳密には、「ROI」という用語はクラウドベースのシステムには適用さえされません。これらのシステムは一般に、月次または年次のサブスクリプション料金で支払われ、これは会計目的では運営費用(opens in a new tab)として扱われるためです。ROIの「I」は資本投資を指し、資本支出(opens in a new tab)にはより複雑な会計処理が必要です。ROIはオンプレミス・システムには適用され、これらのシステムは通常、ソフトウェアを動かすために必要なライセンス、コンピュータ・ハードウェアおよびインフラを購入するために先行資本支出を必要とします。それにもかかわらず、クラウドERPをデプロイする組織は、ERPがもたらす価値を理解するためにROIの原則を使用します。
「ハード」ROIと「ソフト」ROIを区別することも有用です。ハードROIは、獲得した増分収益や削減したコストなどの定量化できる財務的価値に簡単に割り当てることができる従来の収益を指します。例えば、NetSuite ERPの顧客は、システムの実装以来、注文処理の効率性が40%から60%向上し、レポート時間が40%から55%短縮されました。これらはどちらも金額で簡単に定量化できるため、ハードROIのカテゴリになります。一方、ソフトROIは、従業員の士気の向上や顧客とのブランド・エクイティの向上など、無形の利益を指します。これらのメリットはどちらも企業の最終損益に多大な影響を与えますが、それらが寄与している正確な金額はそれほど明確ではありません。
ERPの導入には、2つの主要な段階があります: 初期導入と、新しいテクノロジを最大限に活用しようとする従業員による継続使用です。これらにおいて、企業は一般的に導入の支援をERPベンダーに依頼し、ほとんどの場合、以前のシステムから新しいERPにデータを移行します。しかし、新しいERPのROIを最大化するには、従業員のトレーニングと使いやすさが不可欠です。そのため、導入が成功した多くの例では、新しいシステムがどのようにニーズを満たし、それを超えるものであるかを詳しく学習する従業員の初期トレーニングと、ユーザー・エクスペリエンス(他の基準の中でも、システムを長期にわたって使いやすくするシンプルなインターフェースとモバイル機能)を重視しています。
ERPのROIの計算式
次に、ERPの基本的なハードROIの計算式を取り上げ、実例に取り組みましょう:
ROI = (投資総額 - 総投資コスト) / 総投資コスト x 100%
計算式を平易な言葉に翻訳すると、ERPのROIは、ERP投資(金額で表される)によってもたらされる利益の、総所有コスト(TCO)つまり投資に対する比率です。その比率はパーセントで表されます。ERPのTCOには、ソリューションの先行コストと、そのライフ・サイクル全体で予想されるコストが含まれます。従来、この計算式はオンプレミスのERPにのみ適用されていました。定義上、TCOは購入した資産の資本支出と、関連する継続的な運営費用を指すためです。したがって、厳密には「TCO」ではありませんが、クラウドベースのシステムの場合、同等のコストにERPソフトウェアを使用するための月次または年次のライセンス料金が含まれます。TCO (またはクラウドの同等のもの)に対する利益の比率が高いほど、投資収益率(ROI)は高くなります。
年次のサブスクリプションで支払うクラウドベースのERPを導入した消費財製造業者の例について考えます。この企業は、先行する導入コスト50,000ドルと年次料金100,000ドルに基づいて、稼働後の3年間、その新しいソリューションのROIを計算する必要があります。これにより、3年間のクラウドの同等のTCOは350,000ドルになります。もちろん、この例はこの記事に合せて単純化されています。製造業者の総コストには、特定のユース・ケースおよびERPデプロイメント・モデルに応じて、先行するインストールや年次のライセンス料金に加えて、新しいERPソリューションを使用するための従業員のトレーニングのコスト、導入パートナーの料金なども含まれる場合があります。
収益については、この製造業者はハード・コストに焦点を当てることを選択したため、次の表に示すように、ERPによると考ミスれる売上成長、マージンの増加および生産コストの削減を計算しました:
メリット | 0年目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
売上成長 | 0ドル | 50,000ドル | 80,000ドル | 100,000ドル | 230,000ドル |
生産性の向上 | 0ドル | 30,000ドル | 40,000ドル | 90,000ドル | 160,000ドル |
コスト削減 | 0ドル | 60,000ドル | 100,000ドル | 115,000ドル | 275,000ドル |
合計 | 0ドル | 140,000ドル | 220,000ドル | 305,000ドル | 665,000ドル |
この3年間でソフトウェアによってもたらされる価値は(インフレを無視すると) 665,000ドルです。
ERPによると考ミスれる利益の総額および製造業者の単純化された総コストをERPのROIの計算式に当てはめると、(665,000ドル - 350,000ドル) / 350,000ドル x 100となり、これは90%の投資収益率になります。
この例の利益も単純化されていることを強調することが重要です。企業がERPによると考えることができる総額はその企業の性質によって異なり、製品、輸送または在庫保管費の改善、受注量の増加、人員の削減および管理コストの低下が含まれる場合があります。これらのハードな収益に加えて、企業は、従業員の士気の向上など、ERP導入から無形のメリットを得る場合もあり、これもROIの計算に織り込む必要があります。
注意すべき最後の微妙な違いは、一部の組織は、ERPのROIをシステムの存続期間全体ではなく、前年比で測定することを好むということです。そのための1つのアプローチは、前述の計算式を使用し、その年の収益または貯蓄(あるいはその両方)のみを適用することです。しかし、先行コストの多くは以降の年では繰り返されないため、これは必ずしも理想的ではありません。例えば、従業員のトレーニングはインストール後の最初の数か月に最も集中し、以降の年はそれほどではありません。同様に、ERPの収益は、実装後の最初の数年間に増加する傾向があります。これは、新しい効率性と機会が明らかになり、収益が押し上げられた後、横ばいで安定した状態になるためです。
ERPのROIを向上させるための5つのヒント
ERP導入のROIを最大化するための汎用的な方法は存在しません。それは、すべての企業に具体的な目標および使用するリソースがあり、業界固有の考慮事項があるからです。例えば、マーケティング代理店のようなサービスベースのビジネスは、製造業者と同じサプライ・チェーンの問題の影響を受けません。
それでも、次の5つのヒントは、オンプレミス、クラウドベースまたはハイブリッドERPソリューションのいずれを選択するかに関係なく、ERPから特別な価値を引き出すために役立ちます。
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トレーニングを優先します。 新しいERPが収益をもたらすことをほぼ保証する唯一の方法は、従業員が新しい仕事のやり方を受け入れて、ソフトウェアを最大限まで活用することです。従業員トレーニングにより、初期には新しいERP導入のコストが増加し、一見するとROIは低下しますが、この先行投資はすぐに報われ、その率をプラスの方向に戻す長期にわたる収益をもたらし始めます。それに対し、トレーニングを受けず、新しいERPを使用するよう奨励されない従業員は、スプレッドシートや手動のプロセスを使用し続けることが知られ、そのような状態ではこの大規模なソフトウェア投資の影響が大幅に低下します。
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上層部の同意を得ます。 ERP導入の成否は、新しいソリューションの使用への企業のビジョンとコミットメントの広がりにかかっています。すべての役員、部門長および管理職の人たちが、新しいERPに賛同し、成長と成功を促進する上でのその重要な役割を理解している必要があります。これは、変革および従業員をその道のりに導くことの鍵となります。男性用グルーミング製品の大手小売業者Fulton & Roark社(opens in a new tab)を例にとります。人員を増やすことなくわずか20日間で新しいERPを稼働させ、売上は前年比で50%増加しました。その成功の多くは、プロジェクトが共同創業者によって開始され、その熱意とビジョンがすべてのチームおよび従業員に伝わったという事実によります。
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評価することを継続する。 ERPのROIを最大化するもう一つの鍵は、アプローチを絶えず評価して改善することです。ビジネス・リーダーには、少なくとも年に一度、ERPソリューションからのコストと収益を評価し、それらを基準と比較して、コストを削減してシステムおよび提供されるデータから価値を引き出す新しい方法を検討することをお薦めします。NetSuiteのクラウドベースのERPを使用すると、企業は部門別または会社全体の主要業績評価指標(KPI)を設定し、それらを厳密に追跡して、業績が常に向上していることを確認できます。重要な点として、これは企業がコストと時間の幅広い節約に加えて、具体的な目標の達成に向けて順調に進むために役立ちます。
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コストとメリットを現実的にする。 特に、中小規模の企業がより洗練された働き方に移行する場合、新しいテクノロジ導入のコストの見積は、難しいことで知られています。多くの企業が、タイムライン、コストおよび効果的かつ効率的な従業員のトレーニング方法のガイダンスについて、ERPベンダーまたは導入パートナーを頼ります。新しいERPのメリットを正確に測定して、ROIの全体像を把握することも同様に重要です(有形と無形の両方のメリットを含みます)。例えば、N&N Moving Supplies社(opens in a new tab)は、給与処理時間を84%短縮して、スタッフがより付加価値のある活動に集中できるようになったことが従業員の士気の向上につながり、パフォーマンスが高まりました。
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ERPの一般的な問題を回避する。 企業がERPの潜在能力を完全に実現することを妨げる、一般的な多くの問題があります。従来のテクノロジ・デプロイメントは先行コストが単一で回収期間が短期間ですが、ERP導入をそれと同様に扱うことが最も一般的な間違いです。実際には、ERP導入は、時間をかけて段階的にロールアウトし、ROIをマイルストーンごとに計算することが、最も成功につながります。
特にクラウドベースのERPの場合、ROIの測定をいつやめるかを知ることも重要です。予想される寿命が10年の機械のような資本支出の場合、コストと収益を毎年定量化し、機械の使用が終了したらその計算をやめることは簡単です。しかし、クラウドベースのソフトウェアの場合は、特にアップグレードおよび更新が自動的に行われるため、時間枠はほとんど設定されません。ある時点で、新しいERPは単純に企業の標準的な運用手順の一部になるため、ROIは測定されなくなります。
最後に、指標を設定してROIを計算するときは、自己認識と厳格さを持つことが非常に重要です。すべての企業に内部収益率(IRR)やハードル・レートなどの指標を計算する余力や専門知識があるわけではありません。コア戦略と成長に集中し、そこまで手が回らない場合もあります。ビジネス要件を設定し、部門の目標(サイロの解消やプロセス間の統合など)と連携させることから開始するというアプローチが賢明です。そのために、NetSuiteはビジネス・ニーズ評価スコアカードとTCOスコアカードを顧客に提供して、この活動を支援し、ROI計算に厳格さをもたらします。
まとめ
ERPは大規模かつ複雑で、財務からカスタマー・サービスまで、企業組織のあらゆる部分に関係します。これらの業務すべてにわたってERPの影響を分析するだけでも十分に困難であるのに、ERPのライフ・サイクルの異なる時点で異なる形式で発生する、異なる事業部門にわたる収益を計算するとなればなおさらです。
しかし、ERPの導入に成功すると、業績に関する比類のない洞察が企業に提供され、コストを削減し貴重な時間を節約しながら収益を向上させる新たな機会が開かれます。これがERPの真のROIであり、前述のアドバイスによって最大限の収益が確保されます。 これが、多くの企業がクラウドベースのERPを選択する理由でもあります。ITインフラやリソースの変更を管理することなく、企業は業務全体の可視性を実現し、コア管理プラットフォームを拡張し、実装から実現しようとするROIの明確なビジョンを獲得できます。
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ERPのROIに関するFAQ
ERP導入のROIをどのように計算しますか?
ERP導入のROIの計算は、デプロイメント後のメリットとコストの詳細な分析を含む複雑なプロセスです。ROIの計算式は次のとおりです: (投資総額 - 総所有コスト) / 総所有コスト x 100。率が高いほど、ROIは高くなります。
ERPのビジネス価値は何ですか?
ERPは、数多くの方法でビジネスに価値をもたらします。とりわけ、リーダーおよび重要な意思決定者は、企業の業務全体のエンドツーエンドの可視性が提供されるため、事業戦略、成長機会および将来の投資について、情報に基づいた選択を行うことができます。
クラウドERPへの投資の収益が得られるまでにどのくらいかかりますか?
ERP投資の収益には決まった時間枠はありませんが、導入を成功させ、従業員トレーニングによってチームがソリューションを十分に活用できるようにすることで、影響はすぐに現れます。これらの収益には、売上成長、運用コストの低下および従業員の生産性の向上が含まれる場合があります。とはいえ、オンプレミス・システムは導入が難しいことで知られ、価値をもたらすとしても、それまでに1年以上かかることがあります。
ERP導入のROIとは何ですか?
ERPのROIは、導入によって得られる有形と無形の両方のメリットの組合せです。有形のメリット(「ハード」なメリット)は簡単に定量化でき、収益成長や間接費削減などの指標が含まれます。無形のメリットは定量化するのは簡単ではありませんが、影響力は劣りません。従業員の士気の向上や顧客の信頼などの指標が含まれます。
ERPの統合の平均失敗率はどれくらいですか?
いくつかの推定によると、ERP導入の50%(opens in a new tab)が最初の試みで失敗します。しかし、これらの失敗から学習した教訓によって以降の導入で成功の可能性が高まることは注目に値します。
標準的なERPの5つの要素は何ですか?
ERPを特徴付けるものは、企業が複数の部門からの情報を一元化できるようにする共通のデータベース、部門や役割間で一貫したユーザー・エクスペリエンス、既存のビジネス・プロセスおよびワークフローとの統合、繰り返しのタスクを自動化する機能、および効率性を高め組織全体のコミュニケーションを改善するために部門のサイロを解消する能力です。