2025年7月23日、日本オラクル株式会社主催のイベント「SuiteConnect Tokyo 2025」が開催されました。クロージング基調講演では、「DXは情シスだけの仕事ではない―経営が旗を振る“現実的”業務変革」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。
パネリストとして登壇したのは、株式会社デジタルシフトウェーブの代表取締役社長・鈴木康弘氏と、株式会社トリドールホールディングスのCIO兼CTOの磯村康典氏です。モデレーターは日本オラクルの渋谷由貴が務め、両氏の対話からDXの本質と実践的なアプローチが深く掘り下げられました。
DXは『やらないと生き残れない』もの。その本質は「業務改革」
DX(デジタルトランスフォーメーション)の今と本質を深掘りするセッションは、渋谷の「DXを今から始めても間に合うのか?」という問いかけから始まりました。
丸亀製麺を海外でも展開している磯村氏は、「欧米では、すでに当たり前の取り組みとして進んでいます。一方、アジアはDXの概念が浸透していない」と地域ごとの差を指摘。「日本は今すぐDXに取り組んだ方が良い」と話しました。
一方、鈴木氏は「DXは農業革命や産業革命と同じスケールで捉えるべきもの。100年後には『あの時代がDXだった』と語られるでしょう」と述べます。もはや「やるか、やらないか」ではなく、企業の生存戦略として「やらないと生き残れない」ものだと強調しました 。
加えて鈴木氏は「業務変革」という目的を達成するための「手段」として、デジタルを活用するという考え方が重要だと話します。また、「業務変革」と「業務改善」との違いを次のように説明しました。
- 業務改善:過去の延長線上にある思考で、既存の業務の壊れた部分を直すようなもの。
- 業務改革:未来志向の思考で、将来の理想像を目指し、社会やマーケットの広い視野で根本から業務を再設計すること。
DXを成功させるには、まずこの「改革」の視点を持つことが不可欠だと述べていました。
DX推進の旗振り役は経営者。トリドールが描く「人×デジタル」の理想形
では、DXの旗振り役は誰が担うべきでしょうか。鈴木氏は「DXはITの専門家だけの仕事ではなく、経営者の仕事である」と話し、その上で、DXができる会社とできない会社の違いは、トップがどれだけDXを理解しているか、そしてデジタル社会における自社のビジネスやサービス提供の方向性を描けるかにかかっているといいます。
そして「経営者主導のDX」を実践している事例としてトリドールの磯村氏を紹介しました。トリドールでは「食の感動で、この星を満たせ。」というスローガンを掲げており、その中でDXを「お客様の感動体験を支える基盤」と明確に位置づけているのです。
また磯村氏は、人が携わるべき業務とDX化する業務の線引きを慎重に行っていると説明します。この線引きは、お客様からの期待を常に注視し、変化に対応することで初めて可能になるものだと話しました。
180以上のシステムを刷新。トリドールが示した「所有から利用へ」の転換
改革を行う上でトリドールは、DX戦略を2段階に分けて推進しました。第一段階では、DXの基盤整備に重点を置き、第二段階では経営理念を実現するビジネスプランの推進に焦点を当てました。
この第一段階の取り組みとして、同社では180以上のシステムを刷新する大規模な業務変革に着手します。例えば、手作業でのデータ照合を不要にするため、会計データフローを自動化し、経理担当者がより価値の高い業務に集中できるようにしました。会計システムにはNetSuiteを採用し、取引データ処理を自動化。さらにバックオフィス業務はBPO(Business Process Outsourcing)センターを活用し効率化を実現しました。
鈴木氏も「今後、人手不足が進む中でBPOは一つの流れ。(トリドールは)経営方針と業務配置の中でうまく活用している」と評価。システムの導入(ITのコントロール)についても、「現場業務にシステムを合わせる独自思考のスクラッチ開発よりも、標準システムに業務を合わせるクラウドを利用した方が、時間とコストを削減できる。トリドールはこの転換がうまくできている」と論じました。
さらにNetSuiteなどのクラウドサービスを利用するメリットとして、法改正への対応やAIなどの新技術の活用もアップデートでスムーズに対応できる点も挙げています。
磯村氏は、トリドールのビジネス基盤はAPIで連携できることを条件としていると述べた上で、「NetSuiteをはじめ、複数のクラウドサービスを組み合わせて、ひとつのシステムのように使うことができます」と説明しました。
AI時代に生き残る人材と「覚悟」──業務改革を成功させる鍵
セッション終盤には「AIの進化により置き換えられる人材と置き換わらない人材」について議論が交わされました。鈴木氏は、AIに代替される可能性が高い仕事として、単純作業や専門知識を活用した問題解決を挙げる一方で、0から1を創造する仕事や、人間関係を構築する仕事は今後も重要であるとの見解を示しました。
最後に、会場から「業務改革を成功させるために必要な要素は?」という質問が寄せられました。鈴木氏は、25年ほど前に磯村氏と7〜8年間共に働いた経験に触れ、「当時から磯村さんには強い覚悟があった」と振り返りました。そして、業務改革を成功に導くのは、まさにこの「強い覚悟」を持った人だと力説。会場は大きな拍手に包まれ、セッションは幕を閉じました。
今後もNetSuiteは、日本市場におけるビジネスパートナーとして、進化を続けてまいります。オフラインイベントとして好評のNetSuite相談会に加え、オンラインイベントも広く展開していく予定です。ぜひ、こうした機会をご活用いただき、皆様の課題やお悩みについてお気軽にご相談ください。