ERP導入の“その後”を制する鍵とは? 現場のリアルと成功のヒントが集結するOracle NetSuite エグゼクティブ・ラウンドテーブル

2025年3月5日(水)、日本オラクル株式会社本社(東京都港区)にて、「Oracle NetSuite エグゼクティブ・ラウンドテーブル」が開催されました。企業のDX推進をテーマとした本イベントには、製造業、医療機器、再生可能エネルギーなど多様な業界から、IT責任者やDX担当役員、経営企画担当など、自社でのDXやNetSuiteの活用を担うリーダーたちが集まり、課題や成功事例を共有しながら意見交換が行われました。

進行役は、日本オラクル株式会社 NetSuite事業統括シニアディレクターの福宮友和が務め、日本オラクル バイスプレジデントでNetSuite日本代表の渋谷由貴も参加しました。

各社が抱えるDX推進の課題と背景

冒頭では参加者による自己紹介が行われ、各社のDX推進状況や直面している課題が率直に共有されました。業種は異なるものの、多くの企業が似たような悩みを抱えていることが浮き彫りになりました。

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※写真はイメージです

たとえば、4年にわたりDXに取り組んできた製造業のDX担当役員は、「社員のITスキル習得に苦労している」と、人材育成の難しさを語ります。「ビジネスユニットが15部門あり、全く別のことをしている企業体」という複雑な組織構造の企業からは「若い社員はDXに積極的だが、会社全体ではDXが遅れている」という世代間での意識差という課題も。同社では、数年前まで紙ベースの業務が主流で、二重三重の作業が発生していた状況からの脱却を目指しているとのことです。

さらに、複数の参加企業に共通していたのが、「ERP導入後の運用定着」という壁です。ある企業では、導入フェーズ後に運用を根付かせるためにプロジェクトチームを編成したものの、チームの解散とともに定着が止まってしまったという問題が共有されました。

セッション1:Digital Transformation "DXレポートの本質"

自己紹介後には、日本オラクル株式会社 常務執行役員 コンサルティングサービス事業統括 副統括 兼 プロフェッショナルサービス統括本部 本部長兼 ビジネスイノベーション本部 本部長の小守雅年が「DXレポートの本質」と題し、セッションを行いました。小守は1999年からOracleのデータベースコンサルタントとしてキャリアをスタートし、ERPの導入支援やコンサルティングチームのリードを歴任。2019年には経済産業省のDX推進委員として活動し、「DXレポート」の策定にも携わるなど、多角的な視点を持っています。今回のセッションでは、自身が関わった「DXレポート」が示す本質に踏み込みながら、表面的なIT導入にとどまらない“真のデジタルトランスフォーメーション”とは何かについて、深い考察が語られました。

セッション冒頭で小守は、「DXとは何か」について「データや顧客の情報をもとに行うただの改善活動でなく、“儲ける”活動である」と定義。「改善が最終的に利益へと繋がっていればDX」という言葉は、多くの参加者の共感を呼んでいました。

また、DXを進める上での心構えとして「毎日ラジオ体操のように習慣づけることが改善活動には大切」と語り、継続的な取り組みの重要性を強調しました。

さらに7年前に経済産業省が発表した「2025年の崖」については、当時指摘された3つの危機が現在でも解決されていないと指摘しました。

  1. データ活用の未成熟
    「データを使いこなせないと、いわゆる『猫に小判』状態になる」と述べ、多くの企業がデータを収集しても分析・活用のフェーズに進めていない現状を指摘しました。
  2. レガシーシステムの負担
    システムが多くの技術的負担を抱え、維持継承が困難になっている状況になっていると指摘しました。
  3. サイバーセキュリティリスクの高まり
    サイバーセキュリティの自己リスクが高まっている」と指摘しました。「攻撃された後、長いと1ヵ月もシステムが止まる企業もあります。その原因は狙われたことではなく、レガシーシステムがあるため業務復旧ができない点にあります」と説明し、攻撃をきっかけに株価にまで影響があった事例も紹介しました。

そのうえで、「NetSuiteのようなクラウドERPを活用することで、これらの課題のうち、2と3は一定程度クリアできます。一方で、最も重要なのは1、つまりデータをいかに活用するかという点です」と述べました。

セッションの中盤では、日本企業のDX推進を阻む要因として、「部門間の壁」や「部門ごとに異なるKPI設定」といった組織構造の問題に加え、「本当にできるのだろうか」という心理的な不安も指摘されました。

小守はさらに「複数のERPを使っていると、どの業務データが必要なのかが曖昧になりやすい。だからこそ“指さし確認”が必要です。見たいデータがどこにあり、社内でそれを共通認識として見られているかを揃えることが重要。そこが整わなければ、DXの効果は出ません」と述べ、目的と手段の明確化が鍵だと語りました。

セッションの後半では、DX推進の具体的な方法として「データ鳥瞰図」の作成が詳しく紹介されました。これは自社のビジネスバリューチェーンの縦軸に業務プロセス、横軸にはシステムや部門を配置し、どのデータがどこで管理されているかを俯瞰的に可視化するものです。作成にあたってのステップも、順を追って紹介されました。

  1. 自社のビジネスプロセスを縦軸に記載する
  2. 横軸に各システムや管理部門を配置する
  3. 各プロセスでどのデータがどのシステムで管理されているかをマッピングする
  4. Excelなどで管理されている領域を特定する
  5. NetSuiteなどのERPがカバーできる範囲を明確化する
  6. 現状の課題と将来的な理想形を記載する

「自社の業務全体を可視化した図の中で、どの部分をNetSuiteでカバーできるのか、どこが他のシステムやExcelで運用されているのかを具体的に書き込んでいきます。この作業には営業担当者の協力も欠かせません。NetSuiteの機能範囲を正確に把握することが、導入プロジェクトの成否を分ける最大のポイントになります」(小守)

そして、こうした取り組みこそが、単なるシステム導入にとどまらず、自社業務にフィットしたERP活用を実現するための鍵だと強調しました。

セッションの最後には、「DXにはトップダウンとボトムアップの両方が必要で、両方を組み合わせることで効果が最大化される」と総括。トップダウンだけでは現場の実情とズレた施策になりやすく、ボトムアップだけでは全社的な変革にはつながらないとしたうえで、「経営層の方針と現場の実態をつなぐことこそ、実行可能で効果的なDXを実現する鍵である」と締めくくりました。

セッション2:データの民主化と経営の見える化

2つ目のセッションでは、日本オラクル株式会社 NetSuite事業統括 ソリューション・コンサルティング&カスタマー・サクセス統括本部 統括本部長の玉井健志が、データ活用の阻害要因から克服法、そして「データの民主化」という先進的な概念まで、包括的に解説しました。

セッション冒頭では、中堅・中小企業におけるデータ活用の主な課題を3つの観点から整理し、それぞれに対するNetSuiteの有効性を紹介しました。

  1. データの質と管理の課題
    部門ごとに分断されたシステムでデータが管理されていることが、意思決定の妨げになっていると指摘。これに対しては「シングルデータモデル」という考え方を紹介し、NetSuiteではすべてのデータが一元管理されることで、整合性と信頼性が大きく向上する点を強調しました。
  2. 技術的なハードル
    「ツールを導入しても、使いこなせる人材がいない」「ベンダー依存で現場にフィットしない」といった声が多い現実に触れたうえで、NetSuiteは標準機能として「見える化」できる分析ツールを備えており、追加ツールなしで現場での活用が可能である点を紹介しました。
  3. 人材不足の課題
    「かつては統計やプログラミングの専門知識が求められたが、今は“使い方さえわかれば”現場でも十分にデータ活用できる時代になっている」と述べ、NetSuiteの操作性と現場での運用しやすさに触れました。

玉井は「NetSuiteは業務を回すだけのツールではなく、新たな気づきを与え、リアルタイムで意思決定を加速させる“経営の切り札”として使ってほしい」と語り、データ活用の主導権を一部の専門家だけでなく現場に広げていく、「活用の民主化」の重要性を説きました。

さらに、企業のデータ活用の成熟度を評価するためのマトリクスも紹介。縦軸には、企業における「データ民主化の成熟度」(個人ー>企業全体)「データの活用レベル」(収集 → 見える化 → 分析)、横軸には、経営の見える化・分析の成熟度(収集ー>見える化ー>分析ー>洞察)を目指すべき方向性として提示しました。

「ERPの導入方法に正解はありません。段階的に進める企業もあれば、一気に全社展開するケースもあります。まずは自社の現状を正確に把握し、NetSuiteで何が実現できるのかを明確にすることがスタートです」(玉井)

最後に、「自社がどこを目指したいのかを定め、そのゴールに向けて何をすべきかをマトリクス上で考えること。そしてNetSuiteを使いこなしていく中で、自社に最適なソリューションを当てはめ、段階的に活用レベルを高めてほしい」と締めくくりました。

ディスカッション:各社のDX化への挑戦と知見の共有

2つのセッション終了後には、参加者全員によるディスカッションが行われ、各社の具体的な取り組みや成功体験、そして直面しているリアルな課題が率直に交わされました。

なかでも注目を集めていたのが、「データ鳥瞰図」の作成に関する話題です。すでに作成を進めた企業からは、「導入初期には各部門のヒアリングを重ねながら資料を集め、全体の業務フローを手探りでまとめていった。各部門の担当者と一緒にマニュアルを作成する形で進めた」と、具体的なプロセスが共有されました。元SIerとしての経験を活かしながらも、全体像の把握には約半年かかったといいます。

一方で、「過去の経営体制で意図的に属人化されていた業務があり、それを明文化・共有することが難しかった」という声もありました。NetSuite導入にあたって全社的な業務フローの7割は整理できたものの、「特定部門だけがどうしてもフローを出してくれなかった」というリアルな課題も共有されました。

ERP導入を支える人材・体制についても活発な意見が飛び交いました。「現場と経営をつなぐ“通訳者”のような存在が必要」「ITスキルだけでなく業務や会計の理解を持つ人材が不可欠」といった指摘に加え、推進のキーマンを巻き込む工夫、専任に近い体制の重要性、社員のモチベーションを高める仕組みづくりなど、多くの実践的な知見が共有されました。

DXマインドの醸成に欠かせないのは「小さな成功体験を重ねること」

ディスカッションのまとめとして、小守は「データ活用」と「人の巻き込み」がDX推進の両輪であると述べ、業務とITの両方を理解する“通訳者”の存在、経営層のコミットメント、そして現場を巻き込む仕組みの重要性をあらためて強調しました。最後に「小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体のDXマインドが育っていきます」と語り、締めくくりました。

NetSuiteは、今後も日本市場で企業のビジネスを支えるパートナーとして進化を続けていきます。オフラインイベントとして人気のあるNetSuite相談会をはじめ、オンラインイベントも幅広く展開していく予定です。ぜひこれらの機会をご活用いただき、企業が抱える課題やお悩みについてお気軽にご相談ください。

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