CIOスポットライト

大脇智洋氏|株式会社ディー・エヌ・エー

DeNAはNetSuiteでグローバル財務基盤を統一。クラウドサービスを積極的に使うIT戦略部長が目指す「社員がクリエイティブになれるIT」とは?

ディー・エヌ・エー(DeNA)は、1999年創業のインターネット企業です。「逆転オセロニア」など人気のモバイルゲームや、ライブストリーミング事業などを提供する「エンターテイメント領域」と、ヘルスケアやメディカル、スポーツ事業などの「社会課題領域」という異なる事業を展開するユニークな企業であり、新規事業を含め、大企業でありながらさまざまなビジネスに対して挑戦を続けています。また、グループ会社を含めると国内だけでなく、世界各地に拠点を持つグローバルカンパニーです。企業のミッションに「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」を掲げ、日常に驚きを伴った喜びを提供することを目的に活動しています。

2012年当時のDeNAでは、海外を含めたグループ企業間の会計システムが統一されておらず、データや科目の標準化がされていませんでした。そのため連結会計時は、経理部門の社員が手作業でデータを統合する必要があり、非常に非効率でした。そこで業務効率の改善と運用コストの低減などを目的にNetSuiteを導入。グローバル共通の財務基盤を構築しながら、他のクラウドサービスとの連携で大きな業務改善を実現しました。

DeNAのIT部門は、全社ミッションに倣い「ITで事業、経営にDelightをもたらす」というミッションを掲げています。ITによる業務効率化によって、社員がクリエイティビティを発揮できる環境の構築に取り組んでいます。そのIT部門を統括する大脇智洋IT戦略部部長に、同社のIT環境の進化、これからのIT部門とCIOに求められることについて、お話をうかがいました。


大脇智洋氏 | DeNA
“テクノロジーは日進月歩。CIOにできることは広がっています。社内、社外の情報を広く集めて、自社に最適なシステムを選ぶことが必要です。” 大脇智洋氏 株式会社ディー・エヌ・エー IT戦略部 部長

Q&A

現在のIT部門の役割について、教えていただけますか?

大脇氏:IT戦略部で働く私たちは、なりたい姿を「Make Creative」と表現しています。これは、DeNAで働く社員がもっとクリエイティブになれる環境を、IT部門である私たちが提供するという意味です。煩雑な業務に時間を取られることがないように自動化を進め、システムでできる業務はシステムに任せることで、社員の本業であるクリエイティブな活動に集中してもらうことが、IT部門の役割だと考えています。

IT部門、またはIT部門の責任者であるご自身の役割を果たすうえで、最も重要なスキルは何ですか?

大脇氏:ITに関する技術、知識といったハードスキルはもちろん必要です。加えて、業務における課題を理解したうえで、現場とコミュニケーションをとり、リーダーシップを発揮しながら最適なシステムを提案していくことなど、ソフトスキルも重要度を増しています。私自身の立場では、マネジャーとして、組織を束ねていくスキルも必要だと思います。

10年前と比べて、IT環境はどのように変化したのでしょうか?

大脇氏:当社では、10年前はちょうど、グローバルに展開する業務のインフラを、オンプレミスからクラウドに移行するプロジェクトを開始した時期にあたります。一方、当社ではゲームの開発基盤に大きな投資をしており、長くオンプレミスの環境を構築していましたが、これも現在から4年程前にパブリッククラウドへの移行を決定し、インフラに関しては全て自前主義から決別し、サービスの利用へと舵を切りました。

10年間で、CIOの役割はどう変わりましたか?

大脇氏:インフラがクラウド化したことで、IT部門としてもクラウド上で業務をどう変えていくかにフォーカスできるようになりました。CIOに求められるものも、以前はコスト効率化を追究する取り組みが中心でしたが、今後は売り上げに貢献するITの活用が、より必要になってくると思います。

IT部門やCIOは、業務への理解がさらに必要になっていると感じていますか?

大脇氏:そうですね。当社も10年以上前はIT戦略部門でなく、情報システム部門として、業務ごとにシステムを外注して作っていました。例えば、グループ間で勘定科目も揃っておらず、連結会計のために手作業が必要な状況でした。IT戦略部ができてからは、グループ全体のIT環境を我々がイニシアティブを取って進めていく形になりました。その際に、経営者がどういうデータを見たいのか、経理部門はどういう業務をしているかを理解することは非常に重要です。こと会計の業務に関しては、電子帳簿保存法やインボイス制度などによって業務が変わるタイミングでもあり、IT戦略としてもよく勉強して、経理部門と協議しているところです。

今のCIOには、以前はそれほど重要視されていなかったコミュニケーション能力が求められているのでしょうか?

大脇氏:そうですね。ビジネス全体の管理部門とコミュニケーションを取りながら、彼らが何を必要としているかを発見する能力は、ITエンジニアや経営者に関わらず、システムアーキテクトに関わる人間にとって重要なスキルだと思います。

具体的に、ITツール選定において考慮しているポイントは何でしょうか?

大脇氏:まずQCD(品質、コスト、納期)の点でバランスが取れていることを見ます。次に、当社はシステムの内製化を進めており、そのツールは自分たちで運用ができるかをチェックします。もう一つは、いったん導入したらすぐに陳腐化せず、長く使える信頼性がある製品を選ぶようにしています。NetSuiteは、米国での実績も知った上で導入を決めました。当社グループの従業員は2000名を超える規模なので、一度入れたら頻繁に切り替えることはできません。その意味でも長期的に使えることは重要だと考えています。

IT部長として、新しいテクノロジーにどう対応していますか?

大脇氏:日進月歩のテクノロジーについていくのはたいへんですが、情報収集を怠らず、気になったものはトライアルでチェックしています。また社外にネットワークを持っていることが重要です。どの会社が新しい技術を導入して成果が出ている、新しいSaaSでこういうことができる、といった情報を知ることで、自社のITを進化させるヒントを得ることができます。自前のシステムに縛られず、外部の情報も素直に生かせる人が、優れたCIOといえるのではないでしょうか。

NetSuiteをどう利用していますか?

大脇氏:NetSuiteはグループ全体の経営、財務情報を管理するうえで欠かせないツールです。日本と中国などグローバルで共通の経営基盤として使用しています。また社員データベースとしても使用しています。

NetSuiteを選定した理由は何でしょうか?

大脇氏:導入したのが10年ほど前ですが、当時は海外にも開発拠点が複数あり、グローバルで使えるツールであることが重要なポイントでした。もう一つが、カスタマイズ性が高いことです。稟議申請の機能など、社内でアドオン開発を数多く手がけており、当社が求める機能を実現できる点が魅力です。内製化によってユーザーの業務を効率化し、クリエイティブな力を引き出したいと考えている当社のニーズには合っていると思います。

NetSuiteの導入で、IT部門の責任者としてどのようなメリットを感じられていますでしょうか?

大脇氏:それまではグループ全体の経営状況を一覧できるツールがなく、複数のスプレッドシートを手作業で加工する必要がありました。NetSuiteの導入後は、全体の情報が統合できただけでなく、BIツールとの連携で分析が可能になるなど、意志決定のスピードが大きく向上しました。またグループ企業が個別に管理していたシステムから、本社がNetSuiteを一括で管理する体制に変わったことで、運用が大きく効率化できたと思います。

他にNetSuiteの導入による効果はありますか?

大脇氏:経営部門だけでなく、NetSuiteと他のクラウドサービスとのAPI連携によって、現場業務も効率化しています。例えば社内申請の承認プロセスを、NetSuiteのカスタマイズで作っており、それを社内SNSとして活用しているSlackのAPIと連携して、承認者がどこにいても決済できるようにしました。その結果、それまで平均約5時間かかっていた承認業務が1時間で済むようになりました。システムを内製するメンバーをある程度抱えている組織であれば、クラウドサービスならではの柔軟な開発ができると思います。

今後CIOになっていく人にどんなアドバイスをしたいですか?

大脇氏:変化する時代にビジネスを対応させるためには、ITによる俊敏性や拡張性が不可欠であり、IT部門は企業の成長に貢献するキャリアとして、やりがいがある仕事です。そのトップにあたるCIOは、目標にすべきポジションだと思います。また、IT部門でキャリアを重ねていくにつれ、目の前の業務だけでなく、組織や企業全体の仕組みや戦略も理解していく必要が出てきます。そのためには、経営部門との接点を持つことも重要ですし、社内だけでなく社外のネットワークも広げていくべきです。

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