ERP導入の最大の効果はデータ統合にあるのですが、実は最大の効果はもう一つあります。それが、業務フローの統合です。
例えば、「売上掛金回収」という業務のフローは、何も問題が起きなければ、請求書の発行・送付⇒入金の確認という流れで処理できます。しかし入金予定日を過ぎても入金確認が取れない場合は、その顧客の営業担当者に通知し確認、督促させるとともに、財務担当者及び経営者がその事実を把握できるような仕組みが必要です。
このような業務フローは、複数の組織(経理、営業、財務、経営)、及び複数のアプリケーション(会計、販売管理、BIダッシュボード)にまたがって処理が行われなければなりません。ワークフローは、このような複数の組織、アプリケーションにまたがった業務フローを自動化する機能です。
ERPの外部でこのワークフロー機能を構築しようとすると、ワークフローシステムと呼ばれる高額なソフトウエアを購入し、外部の開発リソースに多額の費用を払う必要が出てきます。適切なクラウドERPを選択するためには、高度なワークフロー機能が既に組み込まれているかどうかがポイントになります。
ワークフロー機能によって連携させる個々の業務をタスクと呼びます。タスクとは、「請求書の発行」や「入金の確認」といった業務プロセスの中の個々の作業項目のことです。ワークフローは、これらのタスクを、人的な連携と、システム的な連携でつないでいきます。
人的な連携とは、経費予算執行の際に見られる「申請」、及び「承認/却下」のような人の判断を要するタスクによって実行される業務プロセスの連携です。このような連携は、従来、紙の申請書や電子メールのような一元管理されていない仕組みで実現されてきました。そのため、承認もれや申請の滞留などの問題を引き起こしてきました。
ワークフロー機能を使用することで、このような人的な連携を一元的に管理して、業務上必要な決定・判断の欠落や滞留などを防ぐことができます。また、現在発生している問題はもちろん、過去発生した問題にさかのぼって記録を調べることが可能になり、会社全体のコンプライアンス及びガバナンスを強化することができます。
システム的な連携とは、個々のアプリケーションが実行するタスクをあらかじめ設定させたルールに従って自動的に連携させることです。例えば、「入金確認」処理(タスク)の実行結果が「未入金」であった場合に限り、「督促」及び「エスカレーション」の2つの処理(タスク)を実行するといったように、条件(ルール)によりその後の処理を切り替えるというものです。システム的な連携は自動的に実行されますので、人的なミスの排除や処理時間の短縮につながります。
ここまで説明した2種類の連携は、どちらかが欠けてもERPの導入による最大の効果といわれる業務フローの統合を実現することはできません。マーケットで販売されているERPやワークフローシステムのなかには、これらのうち、どちらか一方のみに限定されているものが少なくありません。従って、クラウドERPのワークフロー機能を検討する際には、人的な連携とシステム的な連携の両方の機能が含まれているかどうかが最大のポイントといえます。
それでは、ワークフロー機能の検討にあたりポイントとなる機能を順番に見ていきましょう。
ワークフローの人的あるいはシステム的な連携を設定する前に、全体の業務をタスクに分け、個々のタスクがどのようにつながっているかを整理し、わかりやすく図示してくれる機能が必要です。例えば、見積承認の業務フローであれば、個々のタスクとそれらのつながりが以下の図のようにわかりやすく表示される必要があります。
人的な連携による業務フローの基本的なものは申請・承認フローです。このようなフローを実行する際には、以下の2つのタスクを実行する機能が必要です。
・申請:ワークフローインスタンスを開始する。
・承認:承認待ち状態のワークフローを承認し、決裁ルートの次のステップに進める。
承認タスクには結果として承認以外に差し戻し(却下)という処理が必要です。
・差し戻し:承認待ち状態のワークフローを却下し、決裁ルートの前のステップに戻す。
また承認者として、必要であれば複数の承認者を指定できる機能も必要です。その場合、承認プロセスの進め方については、以下の2つのパターンが考えられます。
・AND承認:同じステップに複数の承認者が存在する場合、承認者全員が承認を行った時点で先のステップに進む承認。
・OR承認:同じステップに複数の承認者が存在する場合、任意の一人の承認者が承認を行った時点で先のステップに進む承認。
ただし、複数者による承認は処理が複雑になりますので、このような機能がなくてもAND承認はステップを分ける、OR承認は代理承認者を設定することで対応することも可能です。
いったん行った申請や承認を取り消す処理も必要です。
・申請の取り消し:申請者が、先のステップに進んだワークフローを自分のステップに戻す。その後、再申請してワークフローを再開する。
・承認の取り消し:既に承認済みの承認者が、先のステップに進んだワークフローを自分のステップに戻す。その後、再承認してワークフローを再開する。
ただし、いつまでも申請や承認の取り消しが可能であっては、業務フローが永久に完了しませんので、最終承認者による承認は、決裁として処理し、それ以降の取り消しは不可能にする必要があります。
・決裁:決裁ルートの最終ステップを承認する。
人的な連携とは異なり、システム的な連携の場合、ルールの設定にはより汎用的な機能が求められます。従って、ルールは条件式のような形で設定できる必要があります。しかし、その設定方法は、一般社員でも可能なEXCELの関数のようなレベルである必要があります。
また、システム的な連携の場合、業務フローの開始があらかじめスケジュールされた日時(週末、月初など)であるケースが数多く発生します。従って、業務の開始をカレンダーなどを用いて簡単にスケジュール登録できる機能が必要です。
業務フローの途中のどこでどのような処理がされているかどうかをひと目でわかるようなモニター機能は特に重要です。人的連携のワークフローの場合は、承認待ちの業務が何件あるかが表示でき、必要に応じて個々の業務の状況や申請者、承認者まで表示できる機能が必要です。システム的連携のワークフローの場合は、スケジュールされた業務が、設定日時とともに何件あるが表示され、必要に応じて個々の業務の内容まで表示できる機能が必要です。
「基盤共通機能編~BI」において、BIダッシュボードの構成要素の一つが業務アラートであることを説明しました。この業務アラートにワークフロー機能からアラートを表示させる機能も重要です。ここでは、全ての業務を表示する必要ななく、例えば「3日以上承認待ちで止まっている業務」といった業務上の問題が発生していると思われる内容にしぼって表示される必要があります。
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