事業拡張に先手を打つERPシステムへの移行
レポートを読む世界の著名な企業のほとんどが業務をERPシステムや統合されたビジネス・プラットフォーム上で行っていることは明らかです。中規模の組織への成長を目指す小規模ブランドは、本気で拡張するのであれば、最終的には強力なビジネス・ソフトウェア・プラットフォームが必要となることを認識しています。これは、多くの従業員、製品または事業所を抱えている場合に、複雑さを最小限に抑えて効率を高めるための唯一の方法です。
ERPシステムが規模拡大のための前提条件であるとすれば、最も重要な問いは、小規模な企業は会計ソフトウェアからいつ移行すればよいのかということです。評価プロセスを開始すべきタイミングを示すいくつかの要素があります。
小規模な企業が考慮すべきトリガー
新しいシステムへの支出は、必要にならないかぎり誰も望みません。つまり、支障なく事業を運営できれば十分と考えているということです。しかし、より強力なプラットフォームを採用することで企業のパフォーマンスが向上し、収益が増加するとしたらどうでしょうか。
小規模企業向け会計ソフトウェアから、統一された単一のビジネス・プラットフォームにアップグレードする利点を検討するきっかけとなる、いくつかの明確なトリガーがあります。
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複数エンティティを運営する企業である
中小企業(SME)で複数の取引エンティティを運営することが必要になっていたら、それは、小規模企業向け会計ソフトウェアでは対応しきれなくなっていることを示す最も重要な兆候の1つです。急速に成長している企業は、多くの場合、様々な地理的地域や事業分野に対応するために、店頭や会社の各部門など、複数のエンティティを設立します。
このような成長過程にある複数エンティティを持つ企業で基礎的な会計ソフトウェアを使用していると、頻繁に問題が発生します。これは、そのようなソフトウェアが(単一エンティティの)小規模企業向けに設計されているためです。複数エンティティの財務諸表を連結する場合、レポート作成は低速化し、労働集約的になります。たとえば、基礎的な会計ソフトウェアの場合、データが別々に保存されているため、財務担当者または経理担当者は、各エンティティの総勘定元帳を個別にエクスポートする必要があります。その後、誤った情報を見つけて手動で会計システムにスプレッドシート計算を入力するために、さらに多くの時間がかかります。次に、すべての総勘定元帳をインポートして、損益計算書やその他のレポートのための大量の計算を行い、マスター会社の元帳を作成する必要があります。このプロセスは煩雑で時間がかかり、意思決定が遅れます。
多国籍企業の場合は、会計基準や税規制が異なる、レポート用に基準通貨に換算するための為替レートが多岐にわたる、収益のタイミングや経費スケジュールを企業レポートに合せて調整する必要があるなど、さらに課題が増えます。この決算プロセスで、財務および会計チームは子会社からの取引のデータを確認して手動で編集することが必要となり、大きな負担を強いられます。
対照的に、複数帳簿会計機能を備えたERPシステムを使用すると、財務チームは、異なる財務、課税および管理の要件に対応するために異なるルールを使用して、複数セットの帳簿を作成できます。決算プロセスでは、子会社、国または地域ごとにレポートを作成するために、通貨換算を自動化できます。さらに、これをリアルタイムで行うことで、総勘定元帳を複数の通貨にまたがって即時に表示できます。その結果、より簡単かつ正確にレポートを作成でき、財務チームにかかる負担は軽減され、ビジネス・リーダーは重要な意思決定を行うために必要な数値を確実に把握できます。
基礎的な会計ソフトウェアを使用している複数エンティティ企業は、連結用にサードパーティ・アプリケーションを統合することもできます。ただしこれは、すでに複雑なプロセスに別のステップを追加するのみで、短期的なソリューションにすぎません。成長中の企業は、正確かつタイムリーなレポートに基づいたリアルタイムのデータを求めています。その後、会計ソフトウェアに依存し続ける複数エンティティ企業は、複雑に絡み合うアプリケーションと回避策によって数字の処理が遅く信頼性に欠けるものとなり、身動きが取れなくなるでしょう。
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データの分析が困難(または不可能)である
企業の成長に伴い、生成されるデータ量も増大します。そのデータを会社がどう処理するかは、将来の成功にとって重大です。実用的な分析があれば、組織の上長は、複数の部門やチーム全体のビジネス・パフォーマンスについて運用上および財務上の有意義な洞察を得ることができ、意思決定が正確かつタイムリーな情報によって支えられていることを確信できます。しかし、基礎的な会計ソフトウェアの場合、データは、複数の部門、子会社および地域の異なるアプリケーションやスプレッドシートに散在することになります。そのため、詳細なレポートを作成するには、スプレッドシートを連結し、複数のプラットフォームにまたがってデータを参照する必要があります。これにより、事実上、企業は毎月かなりの期間、手探りでの経営を強いられることになります。
包括的なERPソフトウェアでは、財務、製造、運用、販売、マーケティングなどビジネス全体のデータを対象とした中央ハブを作成します。事前構成されたダッシュボードと主要業績評価指標(KPI)により、リアルタイムでビジネス概要を参照し、レポートにドリル・ダウンしてフル表示できます。こうしたビジネス・インテリジェンス(BI)ツールなしには、会社全体の分析について包括的な洞察を得ることはほとんど不可能です。つまり、ビジネス・プロセスのシナリオ計画、予測および改善はほとんど推測頼みになります。ERPシステムに切り替えることで、非効率な箇所を特定し、ビジネス全体の最新情報を使用して意思決定することが容易になり、それが生産性の向上や最終的にはより適切な運営につながります。
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複数の場所で在庫を管理している
企業は、ますます複数の場所やチャネル(店舗、オンライン、卸売、小売など)を通して販売を行うようになってきました。しかし、基礎的な会計ソフトウェアでは、複数の在庫保管場所を認識できません。したがって、企業が複数の場所に在庫を保持している(または保持する予定)である場合、在庫合計数しかわからないため、すべての場所や販売チャネルにわたって在庫をリアルタイムで把握することは不可能です。つまり、在庫切れを回避するために、企業はより多くの手持在庫を保持する必要があります。たとえば、自動化されたオンライン・チャネルを介して大量販売を行う場合に、すでに売切れの製品を顧客が注文できてしまう可能性があります。その一方、企業で過剰な在庫が発見され、クリアランスで販売することが必要になる可能性もあります。
さらに、在庫アイテムをリアルタイムで表示する単一ビューがなければ、注文に対する配送を迅速かつ正確に行うことは、会社の成長に伴っていっそう困難になります。強力な在庫管理機能を備えたERPシステムを使用すると、企業は、複数の場所、地域および国にまたがって在庫を表示できます。これにより、再オーダー・ポイントを判断し、安全在庫および循環棚卸を複数の場所にまたがって管理できます。かわりに、新しいツールやアプリケーションを追加することもできますが、これらが企業全体でシームレスに統合される可能性は低く、増加し続けるシステムの寄せ集めに追加されるにすぎません。最終的には成長が阻害されることになります。
在庫管理を備えたERPは、企業が在庫費用を削減するのに役立つと同時に、顧客体験が改善し、より透明性の高いものになります。さらに、確実にすべてのチャネルからデータを編成して監視できるようにすることで、企業によるオムニチャネル戦略の追求をサポートします。このような機能がなくては、正確な計画や予測はますます困難になり、需要が予測した量を超えた場合、繁忙期(休暇シーズンなど)に顧客満足度の低下につながる可能性があります。
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サプライ・チェーンを見渡す可視性が不十分である
成長中の企業がサプライ・チェーンを完全に可視化できない場合、製品が予期せず在庫切れになることで、財務上の損失やイメージ・ダウンを招く危険性があります。この課題を克服するために、新しいシステムを統合したり、単にスプレッドシートに頼って状況を把握しようとする場合もありますが、こうしたソリューションではエラーが発生しやすく、包括的なリアルタイムのビューが提供されることはほとんどありません。さらに、多くの場合、国際的な規制要件や政府による関税を考慮する必要があるため、最新のサプライ・チェーンはグローバルかつ複雑です。これが自動化されていない場合、手動プロセスは増加し、運用の可視性は低下します。企業の成功は、適切な製品を適切な時期に適切な場所で入手可能であってこそ成り立つものであるため、これらすべてが顧客の不満につながる可能性があります。
企業がサードパーティ・ロジスティクス(3PL)パートナーに注文を外注する場合、この問題は拡大します。3PLパートナーには、注文のすべてまたは一部の配送に割り当てることができ、これにより、企業は確実に顧客の期待に応え、販売を最大化します。これを行うには、企業はアイテム、在庫、注文、仕入先および顧客を可視化し、これらすべてを組み合せて統合されたビューを作成できる必要があります。会計ソフトウェアの場合、必要なすべてのデータを対象とする中央ハブとして機能することはできないため、これを行うことは不可能です。企業の運営予算の大部分を対象とするサプライ・チェーン会計では、統一されたビューがあれば、非効率な箇所を特定し、長期的にコストを節約するのにも役立ちます。
ERPシステムを使用すると、企業はサプライ・チェーンにおける相互関係を把握できます。また、一貫した可視性を維持することで、より適切な代替策を講じたり、連絡体制を強化したり、新しい課題や市場状況の変化にすばやく適応できます。
ビデオ: ERPシステムへアップグレードすべき4つのサイン
ERPシステムが役に立つことはご存知かと思いますが、いつ移行するのが最適でしょうか?
企業は、このような問題の一部またはすべてに悩んでいる可能性がありますが、だからと言って、ERPベンダーに問い合わせるべき時が来たというわけではありません。タイミングあるいは成熟度は、また別の重要な要素です。
成功している企業というものは、非常に忙しいものです。絶えず人手が足りず、大きい商談が決まれば決まったで今度は配送の心配をしなくてはなりません。経営陣の課題は、日常業務ではなく、会社の運営方法の改善に重点が置かれます。
経営チームが次のトピックについて話し合うようになったら、これは、企業がERPシステムの利点を生かせるまでに成熟したという明確な兆候です。
正確なリソース割当。成長中の企業は、スタッフ、場所、製品およびサービスの増加に伴って、販売方法や配送方法を更新することが必要になります。経営陣が期日納品の確実化と顧客満足度に重点を置く場合、リソースの調整は非常に重要になります。
プロセスの改善。何度もテストを行って完成された堅実なプロセスによって、品質管理と迅速な配送が確実化されます。経営陣は、プロセスの改善と業務の高速化の機会を模索していますか。経営チームは、日常の慌ただしさから一歩離れて、運用パフォーマンスを改善する方法を検討する必要があります。システムの寄せ集めを強力な一連の機能を備えたERPシステムに置き換えることで、数多くの不要なプロセスを排除し、配送を改善できます。
投資の機会。事業を戦略的に検討することにより、投資が必要な領域を見つけ出すことができます。これは、設備、賃貸借物件、さらには買収である場合もあります。経営チームはこれらの選択肢を検討し、自社の成長意欲を見極める必要があります。なんらかの投資を行うことで、注文量が増加し、結果的に生産が増加する可能性があります。
このステップを実行する前に、拡張可能なビジネス・プラットフォームに移行することは、非常に有意義です。これにより、会社はさらなる投資を行いやすくなります。
シナリオ計画。単一のデータベースは、販売から配送や会計に至るまで、業務を大幅に効率化します。また、地理、製品カテゴリ、販売チャネルなど、ビジネスの様々な部分を比較して評価するための強力なプラットフォームを作成します。ERPプラットフォームは、将来の改善や投資に対するROIを測定するための一連のベンチマークを提供できます。
ERPシステム選択のFAQ
ERPシステムを選択するにあたり、自社についてどのようなことを知る必要がありますか?
最初のステップは、主要なプロセスに基づいて、企業のあらゆる部分の要件リストを作成することです。財務、マーケティング、販売、製造や製品開発、流通や配送およびカスタマー・サポートです。
また、企業がすでに使用しているその他のビジネス・ソフトウェアとの必須の統合と、必須機能のリストも必要になります。企業に関する単一の正しい情報源となるよう、ERPプラットフォームで事業部門のアプリケーションと情報を交換できることは非常に重要です。
次に、より適切な選択を行い、プロジェクトに失敗する可能性を激減させることができるよう、ERP要件を収集して優先順位を決める方法についてのいくつかのヒントを示します。
どのようにしてERPプラットフォームを選択すればよいですか?
1つまたは2つのERPプラットフォームを独自のデータを使用してテストし、期待どおりに実行できるかどうかを確認することは、適正な評価プロセスの重要な部分です。答えるべき重要な問いの1つとして、なんらかのモジュールにどの程度の構成やカスタマイゼーションが必要になるかを理解することです。
業界に最適化された状態で出荷されるERPプラットフォームでは、最も重要なプロセスは設定済です。特定のニーズに応じた構成は必要になりますが、カスタマイズはしないか、必要最小限にします。カスタマイズは、ERPデプロイメントのコストや複雑さが増大する最大の要素の1つであり、失敗するリスクを高めます。
ERP統合では、次のように安定性と品質をテストする必要もあります。「ERPプラットフォームにより、事業部門のシステムのすべての必須フィールドが取得されていますか?」「どのくらいの頻度で更新しますか?」
ERPの成功可能性を高める基本的なステップにはどのようなものがありますか。
ERPプラットフォームの選定には多くの労力を割く価値があります。これが企業全体にとっての中枢になるためです。ほとんどの場合、多くのスタッフの再教育が必要となり、10年以上の間使用し続けます。
特に上級スタッフがプロジェクトに全力で取り組むことが重要です。ビジネスのあらゆる領域にわたり、従業員が作業方法を変えるモチベーションを保てるよう支援する役割を果たすことができるからです。忍耐強く、先入観を持たずに、綿密な実装チェックリストに従って選択プロセスを推進することによっても、成功の可能性は高まります。