2層ERPとは何か、どのように機能するのか?

※この記事は、日本オラクル株式会社 理事 NetSuite事業統括 コンサルティング統括本部 統括本部長の玉井健志が翻訳、監修しています。

企業が自力で成長を遂げた場合でも、合併・買収によって拡大した場合でも、財務システムを統合して可視化することの重要性は変わりません。むしろ、企業規模が大きくなるほど、その必要性は高まります。しかし、レポート形式やコンプライアンス要件が異なる多様なビジネスユニットや子会社を本社のメインERPシステムに統合しようとすると、システムの複雑さは増大してしまいます。そこで、システム統合を検討する際には、組織図を確認し、全体を階層構造として捉える視点が重要になります。

2層ERPの主なポイント

  • 2層ERPとは、本社と子会社・海外拠点で異なるERPを運用する戦略です。
  • 全社データを統合しながら、各拠点の業務要件や地域要件に対応できます。
  • M&A後のシステム統合や海外展開に適したERP運用モデルです。
  • 導入・運用コストの削減や業務の柔軟性向上が期待できます。
  • 層2ERP選定では、層1ERPとの統合性と拡張性が重要です。

2層ERPとは何か?

2層ERPとは、本社では層1ERP、子会社や海外拠点では層2ERPを利用し、両システムを連携させて運用するERP戦略です。この戦略は、複数の拠点や子会社を持つ企業が、全社的なデータ統合と各拠点の業務最適化を両立するために採用されています。具体的には、本社で稼働する層1ERP(Tier-1 ERP)に加え、支社や海外拠点のニーズに最適化した別の層2ERP(Tier-2 ERP)を導入することを指します。

2層ERP戦略ではこれら2つのERPシステムを連携させるため、情報は層2から層1へと自動的に集約されます。これにより、企業全体で正確なマスターデータ管理が可能となり、シングルインスタンスERP で運用しているかのような恩恵を受けることができます。各層の役割は異なる場合がありますが、一般的に層1ソフトウェアは、財務、人事、調達などのコアビジネス機能を担い、層2システムは、販売、マーケティング、製造プロセスなど、各子会社や拠点に固有の活動を管理します。

このERP戦略は、ベンダーが事前構築済みの機能を備えた比較的安価なスイートを開発するようになったことで、一般的になりました。これは、導入に多大な時間とコストを要し、広範なカスタマイズ設定を強いる従来のオンプレミス型レガシーERPシステムに代わる選択肢となります。多くの企業にとって、既存の層1ERPを全面的に置き換えたり、新設・買収した子会社を無理に本社の巨大なシステムへ統合したりするよりも、この2層アプローチの方がはるかに経済的で工数も少なく済むことが認識されています。

層1と層2ERPの比較

ERPシステムには、企業の規模や目的に応じて設計された2つの異なるカテゴリがあります。

  • 層1ERP(Tier-1 ERP)

    層1 ERPは、世界規模で事業を展開する超大手企業向けに構築されています。これらのシステムは、導入・保守・アップグレードに高額な費用を要します。広範なビジネス要件を満たすためのカスタマイズには膨大な労力と長い時間が必要となり、通常、企業内にはこのソフトウェアの管理を専門とするITチームが組織されます。

  • 層2ERP(Tier-2 ERP)

    層2ERPは、主に中堅・中小企業向けに設計されています。層1ソフトウェアに比べて安価で、導入も容易です。このカテゴリのソリューションには、製造や小売といった特定の業種に特化したものや、会計、販売、人事、サプライチェーン(注文・在庫管理を含む)などの機能が最初からパッケージ化されているものも多くあります。なお、一つのベンダーが層1と層2ERPソリューションの両方を提供しているケースもあります。

    層状モデルがもたらすビジネス上の利点の概要を把握したところで、ここからは、より詳細かつ戦術的な利点を見ていきましょう。

2層ERPの強み

2層ERPは、企業全体を支える強力なシステムを維持しつつ、子会社や海外拠点向けの補完的なソリューションを必要とする企業にとって、主流のアプローチとなりました。

戦略的な視点では、会社買収の際、被買収先に大規模な層1 ERPシステムを強制的に導入させると、現場に大きな混乱を招く恐れがあります。これは買収側が最も避けたい事態です。子会社の運営を円滑にし、生産性を向上させることが目標であれば、軽量で柔軟なカスタマイズが可能な層2システムの利点が際立ちます。親会社にとっては、情報漏洩なくデータの整合性を保ちながら情報にアクセスでき、ITチームが性質の異なる(非常に異なる場合もある)複数のERPを連携させる煩雑な作業を回避できるというメリットがあります。

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two tier ERP

なお、層2ERPを採用するからといって、子会社が従業員教育を軽視しているわけではありません。2020年夏のBrainyardの調査では、財務責任者の57%が新規研修を優先事項の上位に挙げています。

もちろん、すべてが順調に進むわけではありません。子会社が親会社の層1 ERPと統合不可能な極めて簡易的なシステムを使用していたり、そもそも最新の財務ソフトウェアが導入されていなかったりする場合もあります。その際、ITチームや統合パートナーは、独自にERPを所有させることで得られる根本的なメリットと、システム統合の手間を天秤にかけ、最適な判断を下す必要があります。

2層ERPのメリット

2層ERPの主なメリットは、コスト削減、業務の柔軟性向上、ローカル要件への対応、ユーザー体験の向上です。現場レベルにおける2層戦略の具体的な利点は次のとおりです。

  • コストの節約: これは、2層ERPの最も魅力的な側面です(特にM&A等で多額の費用を要している企業にとっては重要です)。導入、保守、アップグレードのコストは比較的低く抑えられる傾向にあります。特に親会社が、複数の子会社に対して同じ層2システムを標準導入した場合は、その効果が顕著になります。さらに、層2システムはメンテナンスの手間が少なく、ITリソースを本社と共有できるため、企業は一部のIT人員を削減したり(特に、重複ポジション)、事業に直接利益をもたらすプロジェクトに人材を向けることができます。
  • 特定のビジネス・ニーズに対応: 企業内のビジネスユニットは、販売内容や対象業種により、主要事業とはソフトウェア要件が異なる場合があります。中堅・中小企業のニーズに合わせて調整された特化型ERPは、財務面でより優れたパフォーマンスを発揮し、層1システムでは実現できない効率性を生み出すことができます。
  • 柔軟性と管理能力の強化: 層2ERPは複雑さが抑えられた軽量なシステムであるため、必要に応じてソフトウェアを迅速かつ容易に調整が可能です。これにより、大企業の小規模セグメントを強化して、市場の変化や顧客行動の変容にタイムリーに対応できるようになります。また、各ユニットは自らの業務操作やプロセスをより詳細に管理できるようになります。
  • ローカル要件への対処: 海外子会社では、現地の通貨、言語、および法律に準拠したシステムが必要です。また、オフィスの運営方法に影響を及ぼす、細かな文化的・地域的な相違がある場合もあります。層2ERPは、層1システムが対応していない、特別な考慮事項にも柔軟に対応できます。
  • ユーザー・エクスペリエンスの向上: 層1システムは、多機能ゆえに操作が難しく、習得に時間がかかる(学習曲線が緩やかになる)ことが多々あります。層2ERPは、よりユーザーフレンドリーなインタフェースを備えていることが多く、ユーザーエクスペリエンス全体が向上します。これにより、研修コストの削減も期待できます。

2層ERPのユースケース

プロジェクトの多くの失敗や予算の浪費を経て、大企業は、買収した会社や新しい子会社を無理に層1 ERPへ移行させることは、多くの場合において合理的ではないということを認識するようになりました。

以下に、2層ERP戦略が成功する代表的な事例を紹介します。

  • ビジネスモデルが親会社と異なる子会社。たとえば、本社はコンピュータのハードウェアやソフトウェアを販売している一方で、子会社はITサービスやコンサルティングを主軸としているようなケースです。

  • 大企業とは異なる業種に販売したり、ニッチ市場にサービスを提供したりする子会社。これには、層1 ERPが備えていない特定の機能が必要になる場合があります。

  • 本社とは異なる国で運営されているビジネス・ユニットまたはオフィス。層2 ERPは、現地の言語や通貨を使用するのみならず、その国の税制やその他の規制に従うように構成できます。

  • 合併や買収を通じて別の会社に組み込まれた組織。別の事業のプロセスや操作を既存のERPに移行すると、膨大な時間とコストがかかる場合があるため、多くの場合、その組織に専用プラットフォームを備える方が適切です。

  • 正規のビジネス管理システムを持たない、または基本的なソフトウェアのみを使用している被買収企業。

  • 特定のビジネス機能やプロセスにはレガシーERPを利用しつつ、新しいソリューションの機能や使いやすさも活用したいと考えている会社。これは、大規模プロジェクトになりかねないメインERPの全面刷新よりも、はるかに迅速かつシンプルな代替手段となります。

2層戦略でERPシステムを選択

何よりもまず、マスターデータ管理を有効にするために、層1システムと容易に統合できる層2ERPを見つける必要があります。これにより、常に正確な情報中枢を維持でき、手動によるデータ入力や、それによって生じる際限のないトラブルを防ぐことができます。 補完システムは、企業の特化したニーズだけでなく、標準的なバックオフィスやフロントオフィス機能(会計、サプライチェーン、販売、マーケティング、運営など)もサポートしている必要があります。また、リアルタイム・データを表示でき、強力なレポート作成機能を備えていることも重要です。海外拠点の場合、複数通貨や多言語のサポートは不可欠です。層2ソフトウェアは、現在のニーズを満たすだけでなく、特定のビジネスモデルや業種の変化に合わせて進化できるよう、適応性の高いものである必要があります。そのためにはモジュール式の構成が適しています。

さらに、層2ERPの初期コストや総所有コスト(TCO)が過度な負担にならないことも重要です。これが、多くのエンタープライズが SaaS ERP を選択する理由の一つです。ベンダーが独自のインフラ上でソリューションをホストし、すべてのアップグレードやパッチ適用を処理するため、実装が迅速で、必要な保守も最小限で済むからです。SaaS ERPは、層1ERPの維持にすでに多大な人的・資本的リソースを投じており、リモートサイト向けにターンキー(即利用可能な)オプションを好む企業にとって、非常に魅力的な選択肢となります。

層2ERPの選択に関して、企業は以下のいずれかの方法を取ることができます。

  • 子会社や海外事業所に、独自の評価プロセスを完了させ、任意のベンダーを選択させる。しかし、アナリストが「自由放任主義」と呼ぶこのアプローチは、層1システムとの統合において問題が発生する可能性があります。
  • ビジネス・ユニットに、承認済みのソリューションやソフトウェア・ベンダーのリストを提供する。これらは本社で吟味されたシステムであり、自社のエンタープライズ・ソフトウェア(事前構築された統合機能があることが望ましい)、あるいは層1 ERPベンダーが提供する層2ソリューションと円滑に連携できます。

2層ERPに関するよくある質問(FAQ)

2層ERPとは何ですか?

2層ERPとは、本社では層1ERP、子会社や海外拠点では層2ERPを利用し、両システムを連携させて運用するERP戦略です。企業全体のデータを統合管理しながら、各拠点の業務要件にも柔軟に対応できます。

なぜ企業は2層ERPを採用するのですか?

企業は、M&A後のシステム統合や海外展開への対応を目的として2層ERPを採用します。既存システムを維持しながら全社データを統合できるため、導入コストや業務への影響を抑えられます。

2層ERPはどのような企業に適していますか?

2層ERPは、複数の子会社や海外拠点を持つ企業に適しています。特に、本社と子会社で業務内容や地域要件が異なる企業や、買収した企業を統合する企業で効果を発揮します。

2層ERPのメリットは何ですか?

2層ERPの主なメリットは、コスト削減、業務の柔軟性向上、ローカル要件への対応、ユーザー体験の改善です。また、本社は全社データを一元管理しながら、各拠点は自社業務に適したシステムを利用できます。

2層ERPとシングルインスタンスERPの違いは何ですか?

シングルインスタンスERPは全社で単一のERPを利用する方式です。一方、2層ERPは本社と子会社で異なるERPを利用しながらデータを統合する方式で、拠点ごとの要件に柔軟に対応できます。

2層ERPを導入する際に重要なポイントは何ですか?

2層ERPを導入する際は、層1ERPとの統合性を確保し、マスターデータを一元管理できることが重要です。また、多通貨・多言語対応や将来の事業拡大に対応できる拡張性も確認する必要があります。