企業経営者または財務リーダーであれば、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)ソフトウェアが何であるかを既にご存じでしょう。これは、統合データベースと一連のアプリケーションで構成され、財務、サプライチェーン、人事、カスタマーサービス、その他のデータとビジネス・プロセスを統合するものです。多くの場合、ERPの導入は、インサイトと効率性の向上を通じて良好な投資利益率(ROI)を迅速に実現し、すぐに企業のコスト削減につながります。

しかし、実際に企業はこれらのさまざまなERPモジュールをどのように使用して成果を実現しているのでしょうか。ERPシステムの各部分は、企業の成功を支援するためにどのような役割を果たしてるのでしょうか。各モジュールの一般的なERPユースケースと、それらがビジネスのさまざまな側面にどのように役立つかについて説明します。

1. 在庫管理

導入前: ある小売業者の業務チームは、実地棚卸に頼っており、現在の在庫水準をスプレッドシートで追跡しています。しかし、倉庫作業者はこの情報を信頼しておらず、この業者は棚がほぼ空の場合にのみ製品の注文を増やすため、商品が頻繁に在庫切れになります。倉庫の従業員が商品を見つけるのに苦労することが多いため、出荷作業が遅く非効率的です。

導入後: 小売業者は在庫管理モジュールを追加しました。このモジュールには、リアルタイムの在庫水準と倉庫へ配送中の在庫の最新情報が表示されます。毎朝、業務マネージャーは利用可能な在庫とセールス・データを比較して、同社が発注書(PO)を発行する必要があるかどうかを判断できます。さらに、在庫管理アプリケーションにすべての商品の正確な場所が表示されるため、倉庫チームは1日により多くの注文を処理できます。

2. 購入

あるメーカーは、仕入先を探し、製品を作るために必要な原材料の見積もりを集めるのに時間がかかりすぎています。従業員は、見積もりの送付や比較、落札者の選択、最終的な発注書の発行を手動で行う必要があります。スタッフが承認された仕入先とその連絡先情報の更新を忘れることがよくあるため、プロセスがさらに遅延します。

購入モジュールに投資した結果、このメーカーは見積もり依頼を自動化し、すべての回答を1か所に保存して、数回のクリックで発注情報を送信できるようになり、時間を大幅に節約できるようになりました。購入(または購買)モジュールには、すべての仕入先の最新リストが保持されており、メーカーは、このモジュールを使用して、未処理の発注書ごとにステータスを追跡できます。

3. 営業およびマーケティング

ある中堅ディストリビューターのベテラン営業チームでは、見積もりや注文書の作成に必要な作業に対する不満が高まっています。営業担当者は、見込顧客がセールス・パイプラインのどの段階にいるかや、どの顧客が再注文する可能性があるかを追跡するのに苦労しています。また、この企業では潜在的な購入者からなるより大きなオーディエンスにリーチしたいと考えていますが、マーケティング・メール、連絡先、デジタル広告を管理する方法がありません。

営業およびマーケティング向けのERPアプリケーションを使用することで、担当者は数分で見積もりから注文書を作成し、システムが生成した請求書を顧客に送信できます。営業チームとマーケティング・チームは、顧客が販売サイクルのどの段階にあるかを確認して、最適な次のステップを決定できます。マーケティング・ツールを使用すると、ディストリビューターはリストをインポートし、複数のチャネルにわたってメールや広告を使用して新しい見込顧客をターゲットにできるため、年間収益が10%増加します。

4. 製造

ある小規模なメーカーでは、最初の数年間、紙とスプレッドシートを使用して、利用可能な原材料と毎日の生産数を監視していました。しかし、ビジネスが成長するにつれて、これらの手作業による方法は大きな障害となっています。材料を使い果たして貴重な生産時間を失ったり、現在の製造能力の計算に苦労したりしています。

製造ERPモジュールに投資した結果、このメーカーは今後数か月の計画生産量を確認したり、使用可能な材料と注文中の材料を比較したりできるようになりました。生産量をその計画に照らして追跡でき、需要が増加した場合、材料の注文量を増やし、従業員を追加することで生産能力をスケールアップできます。

infographic erp modules

5. 財務管理

優れたカスタマーサービスに集中的に取り組んでいる、ある消費者直接取引(D2C)ブランドは、顧客関係管理(CRM)とマーケティング・オートメーションのプラットフォームを導入していますが、依然としてオンライン・バンキング・ツールとスプレッドシートを頼りに財務管理を行っています。すべての発注書(買掛金) と顧客注文(売掛金)を手動で追跡することは時間がかかるだけでなく、インサイトが欠けているため、この企業では何度も危険な財務状況が発生しています。

このブランドは、すべての買掛金取引および売掛金取引を自動的に記録し、総勘定元帳を管理する財務管理モジュールを購入しました。その結果、同社はキャッシュ・フローと支出をより適切に管理できるようになりました。このモジュールは、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書、領収書などの主要な財務文書を生成でき、社内の会計担当者の作業負担が軽減されます。このシステムは、人工知能(AI)、特に機械学習を使用して、取引を数千件もの類似したエントリと比較することで、潜在的なエラーや不正な注文に警告を発します。

6. 顧客関係管理(CRM)

ある産業ディストリビューターは、激しさを増す競争への対応に追われ、収益が頭打ちになっています。新しい顧客を見つけ、既存の取引先とのアップセルの機会を特定したいと考えていますが、これらのグループのデータは不完全で一貫性がありません。

このディストリビューターは、CRMモジュールに投資しました。同社のWebサイトのフォームに顧客や見込顧客が入力すると、その情報がCRMに渡されて、営業担当がフォローアップできるように通知されます。CRMは、すべての顧客の購入履歴を一元的に管理するため、同社は、特定のブランドやアクセサリの新製品など、関連性の高い製品でそれらの顧客をターゲットにすることができます。製品に関する質問や問題が顧客にある場合、カスタマーサービス担当者は、その顧客との以前のやりとりをすべて表示できるので、より迅速に状況に対処して解決できます。

7. サプライチェーン・マネジメント(SCM)

急成長中のある小売業者は、注文量の急増に対処するのに苦労しており、商品の出荷が頻繁に遅れ、返品が殺到しています。同社は、在庫管理および注文管理のソリューションを備えていますが、すべての発注情報、顧客注文、出荷を追跡するのがますます困難になっています。

サプライチェーン・マネジメント(SCM)モジュールを使用することで、小売業者は発注書の整理、現在の生産量の監視、生産量と需要の比較、倉庫が発注書を受領した時期に基づく注文の優先順位付けを行うことができます。SCMアプリケーションにより、顧客が製品を返品した場合、担当者が各商品をスキャンし、必要に応じて状態を記録して、交換作業を開始できます。売上が増加し続けても、同社は規模を容易に拡大できるでしょう。

8. プロジェクト管理

ある小規模なコンサルティング会社には基本的な会計システムがありますが、正確な請求に不可欠な、個々のプロジェクトのコストとリソースの追跡は、同社がクライアントを増やすにつれて面倒で困難になっています。このような情報をすべて調べることは簡単な作業ではなく、最終的にコンサルタントがプロジェクト・コストの計算を支援することになります。請求書の発行が遅れたり、顧客が受領した後にミスが見つかったりすることがよくあり、信頼を獲得できず、キャッシュ・フローも促進されません。

同社は、プロジェクトごとにこれらの情報をすべて追跡するプロジェクト管理ERPモジュールを購入しました。このモジュールは、プロジェクトのステータスの表示に加えて、割り当てられたコンサルタント、記録された時間、出張経費、およびクライアントとのやりとりを追跡します。プロジェクトが特定のマイルストーンに達すると、プロジェクト管理アプリケーションが自動的に請求書を作成し、クライアントに送付します。

9. コンプライアンスの監視

あるメーカーには、2名からなる会計チームがありますが、現在の構成では、6か月以内に発効される新しい会計基準に準拠しないことに同社は気が付きました。同社はまもなく、これが大きなプロジェクトになり、小規模な会計チームが対処できるものではないことを認識し、外部の会社の助けを借りることにしました。それでも、監査プロセスについては予断を許さない状況です

翌年、このメーカーは最低レベルの会計ソリューションの代わりに、コンプライアンス監視機能を備えたより堅牢なシステムを導入しました。コンプライアンス基準は頻繁に変更されるため、このソフトウェアは、地域または業界の規制に関する変更やIFRS 15などの新しい国際標準について同社に常に通知します。この会計アプリケーションでは、関連するすべてのレコードが取引にリンクされるため、監査の準備にかかる手間が軽減されます。

10. アセット管理

あるテクノロジー・スタートアップは最近、大規模な資金調達交渉が成立し、より多くの従業員の雇用や、より大きなオフィスへの移転ができるようになりました。そのため、新しい従業員が使用する事務用品、コンピュータ、モニター、その他の機器を追加する必要があります。

資産管理ERPモジュールは、このスタートアップが、発注から減価償却、廃棄まで、物理的な資産のライフサイクルを管理するのに役立ちます。このモジュールは、コンプライアンス遵守と報告書作成の目的で、IT機器とその他の事務用品の価値を時間の経過とともに詳細に記録します。不動産については、リース会計および税務基準に準拠するために、リース料の支払い、減価償却、およびその他の報告書を処理します。

11. eコマース

これまで小売業者にのみ販売を行ってきたあるB2Bディストリビューターは、長年にわたって消費者直接取引(D2C)eコマースの大きな可能性についての話を聞き、そろそろビジネスを多角化する時期だと判断しました。同社は、一部の従業員に対して、D2Cチャネルの戦略を策定し、オンラインで販売する製品を決定するよう求めました。

その後、このディストリビューターはeコマースERPモジュールを追加して、同社の情報サイトを、取引を処理できるオンラインストアに変更しました。このモジュールには、マーケティング・チームが新しい商品の一覧表示、製品コンテンツの変更、eコマース動向の迅速な把握、サイトのルックアンドフィールの更新を行うことができる、使いやすいツールが用意されています。ERPと統合されたeコマース・アプリケーションを選択することで、注文および在庫管理のソリューションやCRMなどのサードパーティ・ソリューションとの統合が不要になり、すべての注文、顧客、支払いに関する情報は自動的にERPに取り込まれます。

12. ビジネス・インテリジェンス(BI)

あるソフトウェア販売企業は、主要なERPシステムを使用して、会計、営業およびマーケティング、カスタマーサービス、人事などを管理しています。このデータには非常に大きな価値がありますが、同社が新しい資金調達案件を呼び込むことを希望する場合、情報を処理して表示するためのより良い方法が必要になります。

このソフトウェア・ベンダーは、データをエグゼクティブや潜在的な投資家が理解しやすいチャートやグラフに変換するビジネス・インテリジェンス・モジュールを追加しました。このツールは、同社のソフトウェアのターゲットとして最適な業界を決定したり、開発を検討している新しいソリューションの潜在的な市場を把握したりするのにも役立ちます。ビジネス・インテリジェンス・アプリケーションでは、AIを使用して、内部および外部のデータに基づいて将来の財務パフォーマンスをより適切に予測することもできます。

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13. 相乗効果

企業が複数のモジュールを統合すると、自動化されたレポートとIT最適化によるメリットが、システムの各部分を合計したメリットよりも大きくなります。たとえば、CRMとeコマースを接続した場合、eコマース・サイトでは、閲覧者の購入履歴や閲覧履歴に基づいて、パーソナライズされた推奨製品やパーソナライズされたホームページを表示できます。これにより、平均注文額とコンバージョン・レートが上昇する可能性があります。同様に、HRMモジュールとSCMモジュールを統合することにより、企業は各従業員による1時間または1日あたりの平均注文履行数を追跡できます。さらに、従業員のマネージャーは、このデータを取得してパフォーマンス評価の準備を行い、部門責任者に、ある従業員が期待値を超えており、昇給に値することを説明できます。

レポートの自動化

多くの企業は、倉庫が非効率的であることや、帳簿の決算処理に時間がかかりすぎていることを認識していますが、それらの問題の原因を特定できていません。レポート機能を使用すると、多くの場合、非効率的なビジネス・プロセスなど、根本的な問題に光を当てることができるため、リーダーは何に注力すべきかを理解し、問題を解決することができます。

使用するERPモジュールの数が多いほど、利用可能なデータが増え、インサイトがより強固になります。各モジュールには、人事やサプライチェーンなど、ビジネスの特定の側面に関するレポート作成機能が必要です。レポートの範囲は非常に広い場合(たとえば、3月の経費と4月の経費の比較)と、非常に狭い場合(たとえば、先週のテキサス州の顧客の平均注文額)があります。ERPソリューションを探す際には、レポート機能がシンプルで簡単にカスタマイズできることを確認してください。

ITの最適化

社内部門やビジネス部門ごとに異なるシステムを使用する企業は、大量の手作業、一貫性がない重複したデータ、その他の非効率性と毎日格闘しています。すべてが統合データベースに接続された様々なERPモジュールを採用することで、組織は優れた可視性を獲得でき、リーダーは自社の現状を総合的に把握できます。統合的なシステムでは、ITチームの負担が減り、データの正確性に関する問題が排除され、人員を単純に増やすことなく規模を拡大できます。

性能が最低レベルで、連携されていないシステムでは、組織全体の可視性も制限されるため、運用部門では、注文が急増する今後のマーケティング・プロモーションについて知ることができません。

また、複数のシステムを使用する場合、ユーザーとIT部門に対して、すべてのテクノロジーに関するトレーニングを実施する必要があり、IT運用コストが増加するという課題が生じます。さらに、アップグレードの際に大きな労力が必要になる可能性があります。たとえば、1つのアプリをアップグレードする必要がある場合、そのアプリに「接続」されている他のアプリもアップグレードが必要になり、ドミノ効果を引き起こす可能性があります。

14. ERPシステムのメリット

ERPシステムを使用すると、規模や業界を問わず、どのような企業でも時間とコストを削減しながら、不要な負担を回避できます。自動化により、手作業を排除し、従業員が他の作業に集中できるため、自動化は時間短縮とコスト削減をもたらす重要な要素となります。また、唯一の情報源を確保することで、従業員は潜在的なエラーを早期に発見し、より大きな問題になる前に解決することができます。

ERPでは自動化できないタスクがありますが、このシステムでは、意思決定者が包括的な情報を簡単に入手でき、迅速かつ適切な意思決定が促進されるため、ビジネス・プロセスが改善されます。財務文書および顧客記録などの基本的な情報や、AIを活用して需要計画や生産を最適化する高度なツールなどを通じて、従業員は十分な情報に基づく、より適切な意思決定を行うのに必要なさまざまなデータやレポートを見つけることができます。

また、このソフトウェアは、ビジネスの長期的な成功にとって重要となる、地域や国内の規制およびグローバルな規制への遵守にも役立ちます。

クラウドERPは、これらのすべてのメリットとオンプレミス・ソリューションにはない利点を提供するため、特に将来に向けて企業に良い効果をもたらします。クラウドERPを使用すると、たとえば、すべてのメンテナンスとアップグレードをベンダーが実施し(その料金は、企業が毎年支払うサブスクリプション料金に含まれている)、企業の成長に応じてシステムをスムーズにスケーリングできます。

しかし、最も重要なのは、組織にERPがあり、それがすべての従業員にとって信頼できる情報源として機能することです。ERPは、今日の著しく競争的な環境で成功するための必須ツールになっています。