多くの企業が数年から数十年前にERPシステムを導入してから、世界は大きく変化しました。それと同時にERPシステム自体も大きな変化をしています。
古いERPシステムを利用している企業においては、変化するビジネス要件に対応できない状況です。また、最新のERPに加えられた先進機能を目の当たりにしてERPをアップグレードもしくはマイグレーションしなければならないと感じていることでしょう。
企業にとってERPの最新化は大きな投資であることは事実です。ERP導入を担当する人々にとっては、現在利用しているERPシステムの問題点を徹底的に洗い出し、再評価をしなければなりません。また、アップグレードする理由をリストアップして経営陣に対して説明することも必要です。
今回は、最新のERP導入のためのプロジェクト計画と、ERPアップグレードおよびマイグレーションのためのチェックリストをご紹介致します。
ERPシステムをアップグレードする理由
自社の ERPシステム をアップグレードする時が来たと判断する理由は多岐にわたります。そして、その理由の多くは「テクノロジーが時代遅れになった」もしくは「ビジネスが進化した」という2つの事象に該当します。つまり、今使っている旧式のERPがうまく機能しなくなる時がやってきたり、また、新しいビジネスプロセスをそのERPに反映させるのが難しかったり、業務のリアルタイムの可視化が困難であったりした時に最新化を検討するのです。
多くの場合、前世代ERPでは、以前の実装の際に複雑なカスタマイズを実施しています。そのため維持管理が難しくなっています。過去のカスタマイズは、今の企業内で実施内容を知る人材がいないケースもあるでしょう。このようなケースにおいて、システムは不安定になっていきますし、最新の技術を採用するにも多くの課題に直面することになります。現在、ご利用中のERPシステムがサポートしていないデータベースをアップグレードする必要があるかもしれませんし、古いオンプレミス型ERPシステムにありがちなハードウェア/ソフトウェアの維持管理の必要性に迫られたりもします。非常に古いERPシステムの場合、はるか昔にサポート切れになったOSでしか動作しないということもあるでしょう。さらには今使っているERP自体がサポートされていないバージョンかもしれません。この場合には、サポートを受けるために最新バージョンに移行するしか他に道がないという状況といえるでしょう。
自社ERPをアップグレードする理由としては、他にも以下があります。
- 新しいシステムに比べて使いづらい。または、時代遅れのユーザーインターフェース
- 今の自社のビジネス業務に合わないプロセスであったり、非効率的な方法を強いる柔軟性に欠けるソフトウェア
- 事業成長に合わせてシステムを拡張できなかったり、拡張するにしても多額の費用が発生する
- レポーティングやデータ分析が遅く、業務のペースに追いついてこない
- モバイルサポートがなかったり、あるいはサポートが限定的
ERPのアップグレードがなぜ重要か
ERPのアップグレードの最も大きな価値は、それが生み出すことのできるビジネス価値です。今日のERP機能は、旧式システムでは考えられないほど高度なレベルで収益化やコスト削減に貢献します。例えば、近年のERPソリューションには、包括的なダッシュボード、スコアカード、KPI(主要業績評価指標)等を介したリアルタイムの可視性が追加されています。また、業務の自動化や意思決定の向上を図るべく人工知能や機械学習の活用もますます増えています。そして、より包括的にERPに統合されたeコマース機能を利用できるだけでなくテレワークに必要不可欠なモバイルへの対応が行き届いています。企業の業務プロセスが、物理的な世界からデジタルへと急速にシフトしている現在、このような機能の価値は高まる一方です。
一部の新たなERPシステムの中には、「モノのインターネット」と言われるIoT機器を統合させ、リアルタイムの位置情報やステータス情報を追加することで、サプライチェーン内の管理能力の強化や、潜在的なトラブルの早期把握を可能にしているものもあります。サプライチェーンがますます複雑化し、不測の事態が生じる可能性が溢れているこの時代、企業によっては、この新たな機能だけでもERPのアップグレードを正当化するのに十分な価値だと考えるところもあります。
アップグレード vs マイグレーション
ERPのアップグレードとマイグレーション(他社乗り換え)のどちらを選択するべきかという議論があります。その議論の結果は、それぞれの選択肢がどれほどのビジネス価値を生み出すのか、コスト面の負担はどれほどになるのかによって判断されます。内容を検討し、把握することは大きな意味があることは間違いありません。それぞれの一般的に言われているメリットをご紹介します。
アップグレードの利点: 通常の場合、マイグレーションよりもアップグレードのほうが混乱は少ないといえます。もっとも良いケースにおいては、現在利用しているERPシステムで作成・カスタマイズされたものがそのまま有効となり、ユーザーエクスペリエンスもほとんど変わらず、新しいソフトウェアベンダーと契約する必要もないということでしょう(これは現在のERPベンダーの質やサービスに満足している場合のみ利点といえるものです)。同様に、社内の事業部門が今のシステムに満足している場合には、アップグレードはハードルが低くなるといえるでしょう。
マイグレーションのメリット: 多くの企業が最後にERPシステムを購入した時点からテクノロジーは大きく進化し、 別のERPベンダーが、あなたの企業のメリットとなるような技術を提供しているかもしれません。別のERPプラットフォームに乗り換えることで、今使っているシステムを単純に最新バージョンにアップグレードするだけよりも、事業成長や業務処理効率の向上の恩恵をもっと得られるかも知れません。さらに、合併や買収で2つの別々のERPシステムを稼働させなければならなくなった場合には、すべてを完全にマイグレーションすることで、別々の旧システムをどちらも刷新することができます。その方が複雑さも緩和され、連携も高まります。
今気持ちが傾いているのがERPのアップグレードだったとしても、マイグレーションの方だったとしても、クラウド導入の選択肢は検討すべきでしょう。今日のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)クラウドERPソリューションは、ハードウェア、パフォーマンス、パッチ、アップグレードの管理責任をベンダーに委ねることで、ITのコストや複雑さを軽減させることが可能になります。クラウドソリューションはまた、リモートユーザーがVPNを介さなくてもERP機能にアクセスすることを可能にし、より多くの人々が在宅勤務をする今の時代に即していることは間違いありません。クラウドソリューションに移行すれば、将来のアップグレードがほぼ問題なくできるようになります。ERPプロバイダーの中には、サブスクリプション価格に最新機能への自動更新を保証するケースもあります。
既存のソフトウェアプロバイダーが、オンプレミス型システムからクラウド型への移行を勧めてくる場合もあることでしょう。そのベンダーが注力しているのがクラウドであったり、あなた自身がクラウドにおけるコストや管理の面で魅力を感じているかも知れません。しかし、ERPベンダーの勧めてくるものをよく理解し、それがホスティングなのか真のクラウドソリューションなのかをしっかりと知る必要があることを理解しましょう。
もし、あなたがオンプレミス型システムに留まる決断を下すのであれば、そのロードマップを検討して、この先のニーズに合ったシステムであることを確認する必要があります。
ERPシステムをどのように評価すればよいか
ビジネス上のどのような決断にも言えることですが、ERPのアップグレードの評価は、まず、何を達成したいのかというところから始まります。 どのような問題を解決したいのか、どのような機会を捉えたいのか。例えば、販売動向のリアルタイム表示、あるいは1日当たりの受注達成数といった評価指標が得られれば、コスト削減が可能になります。
最新でないデータを使って、スプレッドシートで加工された質の悪い予測から、間違った四半期予測に悩まされている場合もあるでしょう。常に現在の在庫情報を反映した高度なeコマース機能があれば、売り上げ増加状況の数値化が可能なのにと思うこともあるでしょう。ERP基本機能を使うだけで毎月の決算を早期化することも可能になるケースもあるでしょう。
機械学習を活用した最新のERPシステムを導入することで、財務や経営の分野で自動化できるベストプラクティスがあるかも知れません。最後に、新しいERPソフトウェアの中には、変化する顧客の要求に適応したり、収益を最大限すべく価格付けを最適化したり、マーケティングのパフォーマンスを向上させたり、不正の恐れがある注文を識別したり等が可能な最新の分析機能を包含するものも存在します。
ERPのアップグレードであれ、マイグレーションであれ、それに何の達成を望むのかが明確になったところで、各々の選択肢がそれらの改善をどのように果たすのか(あるいはそもそも改善できるのか)、それぞれに伴う直接的・間接的なコスト(統合、カスタマイズ、研修コストも含む)、そしてそれぞれの実装計画を、比較することができます。
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ERPシステムのアップグレードをいつ行うべきか
2017年に SelectHubが行った調査 によると、多くの企業はERPシステムを5年から10年でアップグレードするとのことでした。もちろんですが、企業はビジネス上の問題が発生するまではアップグレードもマイグレーションもしないことでしょう。しかし、新しいERP機能が必要不可欠な事業の近代化や自動化・効率化計画の一環としてERPのアップグレードを実施する企業も存在します。
ERPアップグレードのチェックリスト
今計画しているのがERPシステムのアップグレードであっても、マイグレーションであっても、慎重なプロジェクト計画が重要です。計画を立案し進展を追跡するために以下のチェックリストをご活用してください。
事前のプロジェクトチームを編成 ERPのアップグレードであれ、マイグレーションであれ、それを進める価値があるのかどうかを判断するために、知識や関連業務を有する異なる部署からの人員を集めます。その中にはERPの利用者たちを含めることをお勧めします。倉庫担当者、サプライチェーンの責任者、マーケティング、営業担当者といった人々は、現在のシステムの、他の人たちでは分からない問題点を理解しているものです。
ビジネスケースを作成し、経営陣の承認を得る 最初の評価を実施した後、これを進める意味があると判断された場合には、新しいソリューションによって会社が達成できる価値をまとめます。承認には時間がかかる可能性がありますが、それを経営層に提出して承認を得ます。
要件を特定する 文書にまとめた価値をもたらすために、ソリューションには何が含まれていなければならないかを特定します。必要であれば妥協できなくもないけれども「あれば便利」というものも含めておきましょう。
ソリューションのプロバイダー候補を特定する あなたが特定した要件と同様な要件に対応した実績のあるベンダーを調査します(ここには現在のベンダーも含まれる可能性があります)。業界の企業に問い合わせ、どのERPシステムを使用しているか、そしてそのプロバイダーについての印象はどうであるか尋ねてみても良いでしょう。
プロジェクトの現実的なマイルストーンを設定した実装計画を作成し、承認を得る バックエンドのデータベースのアップグレードや、データの統合と移行に細心の注意を払いましょう。旧式システムのカスタマイズ箇所の移行(どれを保持する必要があり、その他のものはどのような置き換えが可能か)、ユーザー研修、 稼働開始計画、混乱を招きそうな箇所の軽減、継続的なベンダーサポートのオプション等。ERPの実装計画チェックリストには複数の局面が絡んでくることが多いので、先に使い始めてその価値を得ながら、より進化した機能を後に実装するための基盤を確立することもできます。
計画を一緒に実行していく すべての関係者がリスクを指摘し、解決策に向けて協力し合えるようなオープンな関係を確立します。
事後分析を実行し、次のステップを計画する ほとんどの企業は、経験から学ぶしかないことを知っています。一方、それが常にできるとは限りません。しかしERPプロジェクトでは、特にそれが重要になります。テクノロジー、提供するパートナーであるベンダーと、一緒に何年も仕事をしていくことになるからです。前向きで建設的な関係を維持することには非常に価値があります。
ERPシステムのマイグレーションを計画している場合には、次のステップを検討します。
アップグレードかマイグレーションかを決断する. この段階でベンダーから提供された情報をもとに、コスト、予想される混乱具合、ビジネス価値の比較分析に基づいて、どちらを選択するか決定します。利害関係者のほとんどが選択した方法に納得していることを確認します。
プロバイダーの最終候補をリストアップする。. 詳細な提案とデモンストレーションを依頼して検討します。質問をし、ロードマップを評価し、さらなる説明を必要とする提案の細部を明らかにし、参考文献を確認し、慎重にコストを比較し、各々のプロバイダーがどのようなサポートをしてくれるかを把握します。
プロバイダーを選ぶ 信頼がおけると感じることができ、適正価格でこちらの要件を最も満たしてくれると確信できるプロバイダーを選定します。ときにはトレードオフが絡んでくることもあり、そのソリューションでは処理が不可能な問題、あるいは今の時点では処理できない問題などについて、どのように対処するかを検討しなければならないこともあります。
プロジェクトチームを編成し、キックオフミーティングを開く。 社内およびプロバイダー側の人材を特定し、このプロジェクトに必要となる時間を割けることを確認します。たくさんのタスクの説明責任を特定して目標に対する進歩状況を追跡するツールを見つけます(期限を設定)。