自宅の大規模リフォームを行ったことがある人は誰でも、プロジェクトが始まったときの複雑な感情を思い出すかもしれません。これから始まることへの興奮もありますが、プロジェクトを完了させるのに十分な予算があるかどうかも心配になります。エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムの導入の場合にも、似たような感情が起きる可能性があります。ERPシステムは、財務、人事、顧客関係管理、ロジスティクス、製造、サプライチェーン・マネジメントなどの重要なビジネス機能を単一の強力なデータベースに統合することで、企業の成長性を大きく変えます。もちろん、それが実現するのは、プロジェクトを正しく実行し、企業がERPの可能性を最大限に活用できる場合のみです。
そのため、ERPの導入を成功させるには、作業が始まる前に、企業が必要とするもの、ERPシステムでできることとできないこと、そのメリット、そして特にそのコストを慎重に評価する必要があります。コストに関しては、総所有コスト(TCO)が重要な尺度です。TCOには、ERPソフトウェアの購入費用が含まれていますが、それだけではなく、その使用期間中のシステムの構築、管理、サポート、拡張に関係する他の多くの財務上の影響が含まれています。
TCOは、ERPシステムへの投資を正当化する重要なステップであるだけでなく、システムの価値を長期的に一貫性を持って測定する手段でもあります。企業でこれを実現できるように、TCOとは何か、TCOにおいて価値を評価する方法、ERPのTCOに影響を与える様々な要因を確認してみましょう。
ERPのTCOとは
TCOは、特定の期間における資産(ソフトウェアを含む)の直接費と間接費の両方の尺度です。TCOは、資産の購入コストだけでなく、その資産を所有する結果として生じる他のすべての関連経費(明らかな経費とそうでないものを含む)を決定することを意図しています。たとえば、自動車を考えてみましょう。自動車を購入することは、それを動かすためのガソリン(または電気)にお金を払うことができなければ、意味がありません。また、自動車保険の費用や、いずれは自動車を修理する費用もかかります。購入前の意思決定プロセスの中に、これらの要素を追加すると、自動車の所有者は、当分の間その自動車を運転するのに必要な金額を正確に把握できます。このようにして、自動車の所有者は、その投資に意味があるかどうかを判断でき、その場合、どのように支払うかを決定することができます。
ERPシステムについても同じことが言えます。ERPシステムでは、ソフトウェアを購入するための初期コストに加えて、導入コスト、トレーニング料金、アップグレードおよび統合の費用などがあります。特に、ERPシステムのコストの多くは、顧客がソフトウェアをホストする方法によって異なります。一般的に、3つのオプションがあります。
- オンプレミス: 顧客は、顧客施設にある独自のハードウェアとインフラストラクチャでERPソフトウェアをホストし管理します。したがって、ホスティング、メンテナンス、アップグレードに関係する料金はかかりません。
- クラウド: ソフトウェアはERPベンダーのハードウェアとインフラストラクチャでホストされ、ベンダーがハードウェアとソフトウェアの両方を管理します。顧客はインターネット経由でソフトウェアにアクセスします。システムのホスティング、管理、アップグレードにかかるコストは、ベンダーのユーザーごとのソフトウェア・サブスクリプション料金に含まれており、通常、月単位または年単位で請求されます。
- サードパーティ・ホスト型: ソフトウェアは、顧客とは別の会社であるサードパーティ企業によってホストされます。ユーザーは、クラウド・ソリューションと同様に、インターネット経由でシステムにアクセスします。サーバーの管理料金は月単位または年単位で請求されますが、クラウド・ソリューションとは異なり、顧客がメンテナンスとアップグレードの責任を負います。
ERPシステムの購入と導入の前に、さまざまなコストを理解することが重要です。それにより、ERPのビジョンの実現に取り組むために必要なリソースを確保でき、プロセスの効率化、全社的なデータに関するより深い理解、そして最終的にはより優れたい意思決定など、システムのビジネス上のメリットをすべて活用できるようになります。
主なポイント
- ERPのTCOでは、購入価格だけでなく、システムの導入、運用、改善などのライフサイクル全体にわたるコストも含めて、一定期間にわたってERPシステムを使用するためのあらゆるコストを測定します。
- TCOは、投資利益率(ROI)の重要な要素です。ROIは、売上の増加、経費の削減、生産性の向上など、ERPシステムによるビジネス上のメリットの財務的価値からERPシステムのTCOを差し引いたもので、このシステムが会社にもたらす価値を特定するのに役立ちます。
- ERPのTCOでは、社内リソースをプロジェクト担当に割り当てることや、その結果生じる、関連する生産性の低下など、ERPの導入と運用の隠れたコストを考慮する必要があります。
ERPのTCOの説明
クラウドERPシステムの場合、「TCO」という用語は、やや誤解を招きます。それは、クラウドベースの製品の「所有」という概念がオンプレミス・システムまたはホスト型システムとはやや異なるためです。オンプレミスのERP購入には、顧客が物理的なハードウェアにロードする必要があるソフトウェアの形で有形資産が含まれます。ホスト型ソリューションでは、ハードウェアではなくソフトウェアの所有権を顧客に提供します。一方、クラウドERPシステムは物理的な資産ではなく、顧客はソフトウェアやハードウェアを「所有」せず、ERPベンダーが管理および制御します。顧客は、ソフトウェアとハードウェアにアクセスするためのサブスクリプションを購入します。この区別は会計の観点からすると重要なものです。オンプレミスERPシステムのコストの大部分は資本的支出として計上されますが、クラウドERPのロールアウト・コストの大部分は運用費として計上されます。財務的には、それぞれが長期的に異なった形で計上されますが、企業はどちらの場合でもERPのTCOを計算できます。
ERPのTCOが、ERPの意思決定プロセスにおいて重要な理由はいくつかあります。
- 予算編成: ERPシステムは、企業の業務運営を変革し、成長のための新しい道を開くことができる包括的で強力なツールです。そのため、どの企業にとってもかなり大きな投資になります。TCOを理解することで、システムの運用期間にわたって正確な予算編成が実現し、企業は成功につながる適切なリソースを確保できます。
- ROI: TCOは、別の重要な投資指標であるROIの重要な要素です。ROIでは、資産の所有を通じて経時的に得られる価値の合計を測定します。ROIを計算するには、まず、コストの削減、生産性や効率性の向上、全体的な成長など、ERPシステムを使用するメリットの財務的価値を計算し、TCOを差し引きます。得られた数値をTCOで除算し、さらに100を乗算してパーセント値を求めます。パーセント値が大きいほど、投資に対する利益率が大きくなります。
- ベンダーの選択: ベンダー間で価格や機能に違いがあるため、ERPシステムによってコストが異なる場合があります。候補になるベンダーごとにTCOを正確に計算することで、企業はどのベンダーがニーズや予算に最も適しているかを裏付けに基づいて評価できます。
- リスク管理: 想定外の経費は、プロジェクトにとっての危険な兆候である可能性があります。ERPのように重要なシステムでは、どの企業であれ、ソフトウェアの潜在能力を最大限に活用するために必要なリソースがないことに気が付くのは望ましくありません。そのため、TCOの包括的な理解(特に変更管理のためのリソースなどの潜在的な隠れたコストの分析)は、システムの導入が成功するかどうかの分かれ道になる可能性があります。
ERPのTCOの計算方法
大まかに言うと、ERPのTCOには3つのセグメントがあり、それぞれがより具体的な多数の要素で構成されています。TCOの計算では、これらすべての要素の値を合計して1つの金額を求めます。ERPのTCOの主な3つのセグメントは、次のものです。
- 購入コスト: 多くのERP導入の初期コストには、システムをホストする方法として企業がどの方法を選択するかに応じて、ソフトウェアと(おそらく)ハードウェアの2つの主要コンポーネントが含まれます。オンプレミスのERPを選択した顧客は、ソフトウェアの永久ライセンスを購入して、そのソフトウェアを自社の内部サーバーで実行すします(サーバーの購入が必要な場合もあります)。一方、クラウドERPの購入はサブスクリプション・ベースです。つまり、ERPベンダーのサーバーでホストされるソフトウェアにアクセスするために、ユーザーごとに月単位または年単位の料金がおそらく必要になります。顧客が所有するサーバーがないため、クラウドERPではハードウェアを購入する必要がありません。サードパーティ・ホスト型ERPでは、オンプレミス・ソリューションと同様に、ソフトウェアとハードウェアに別途費用がかかりますが、後者はレンタル料金として課金されます。クラウドおよびオンプレミスのERP導入では、どちらの場合も、料金はシステムにアクセスするユーザーの人数と顧客が購入するERPモジュールの数に応じて決まります。その他のオプションで購入が必要になるものには、追加のセキュリティ・ソフトウェアや、ERPシステムとその他のコア・システム(特定の業界向けの独自ソフトウェアなど)の間の接続を管理するための統合プラットフォームが含まれます。
- 導入コスト: ERPシステムのホスト方法を問わず、導入コストには、多くの場合、ベンダーの選択、プロジェクトの範囲設定、ビジネス・プロセス分析、変更管理戦略、トレーニング、データ移行などの様々なフェーズを支援するコンサルタントの費用が含まれます。導入コストは、ロールアウトに時間を割く社内リソースの経費も含みます。TCOの計算には、プロジェクトの作業中に生じるそれらのリソースへの給与の合計を含める必要があります。
- 継続コスト: 導入後、オンプレミスERPシステムでは、エンドユーザーが新しい機能を利用するために、新しいサーバーへのアップグレードまたはデバイスの追加が必要になる場合があります。ホスト型ERPソリューションでは、顧客規模の拡大に応じて、アップグレードまたは容量の増加が必要になる場合があり、それによってコストが増加します。クラウドERPの場合、サーバーのアップグレードは不要ですが、エンドユーザー・デバイスのアップグレードがコストの予測に影響します。継続コストには人件費も含まれます。オンプレミスERPシステムでは、多くの場合、システムをホストする内部インフラストラクチャを管理およびサポートし、ソフトウェアのアップグレードを導入するためにかなりのリソースが必要です。クラウドベースのERPでは、サブスクリプション料金の一部として、ERPベンダーがこれらの責任を担うため、こうしたリソースは必要ありません。ただし、どちらのオプションでも、新しい機能がシステムに追加された場合に、スタッフの一貫したトレーニングが必要になる可能性があります。
残念ながら、上記の3つのカテゴリを構成する要素をすべて明確に把握できるとは限りません。そのため、企業は導入を進める前に、ERPシステムの隠れたコストも検討する必要があります。これを怠ると、企業はERP計画の規模縮小が必要になる場合や、極端な場合は、資金不足により、計画を完全に停止せざるを得ない場合があります。
ERPのTCOの計算式
ERPのTCOを求める計算は比較的簡単で、ERPシステムの購入、導入、メンテナンスに関連する、長期的に生じるすべてのコストを特定し、それらを合計するだけです。ERPシステムのコストは幅広く、必ずしもすぐに明らかものだけではないため、実際には、もっと複雑です。ERPのTCOの計算における重要な要素の1つは期間です。多くの場合、企業は、システムの入れ替えが必要になるまでの推定寿命である5年から10年にわたってTCOを評価する傾向があります。ただし、この推定は、「入れ替え」を考慮しないクラウドERPシステムには適用できません。クラウドERPのTCOの計算では、参照する期間を購入者が選択する必要があります。
最も単純な形のTCOの計算式は、次のようになります。
TCO = 購入価格 + 導入コスト + 今後5年間から10年間の運用コスト
隠れたコストの把握
TCOの計算式自体はシンプルかもしれませんが、ERPの評価、導入、継続的な運用に伴う総コストに影響を与える可能性のある、さまざまな要素を評価することにERPの課題があります。ERPシステムのコストは、ハードとソフトの2つのカテゴリに分類されます。ハード・コストは直接コストとも呼ばれ、ソフトウェア・ライセンスやサブスクリプション、オンプレミスERPの場合のサーバーとその他のインフラストラクチャなど、具体的であり、簡単に定量化できます。ハード・コストには、導入のさまざまな段階におけるコンサルタントのコストも含まれる可能性があります。
ソフト・コストは間接費とも呼ばれ、明確でなく定量化が難しい場合がありますが、正確なTCOを求めるには、これらを考慮する必要があります。ソフト・コストは、ERP導入プロジェクト・チームでの作業のために、従業員が通常の職務を離れた結果、生産性が低下したことに伴うコストなど、多くの場合、人に関連するものです。ソフト・コストは見落とされやすいため、隠れたコストとも呼ばれます。TCOを計算する場合は、次の隠れたコストを常に含める必要があります。
- 導入時間と人件費: ERPシステムの導入に関連する人件費(つまり、ロールアウト期間中に内部スタッフ・リソースを既存の職務からERP導入の職務に配置転換するコスト)は、TCO計算で見落とされがちなソフト・コストの1つです。多くの場合、内部リソースは、ERPの導入のために異動されると、プロジェクト管理、構築、テスト、トレーニングなどに貢献します。TCOには、これらの職務を補うためのコストを含めるか、生産性の低下やカスタマーサービスの対応時間の遅延など、失われたリソースの影響によるコストを含める必要があります。人件費を正確に計算するには、企業が、ERPプロジェクトに従業員が専念する必要がある期間を把握し、人件費をその期間全体に割り当てる必要があります。そのため、導入の全体像を最初から理解することが重要です。これには、関連するERPモジュールの数、移行データ量、カスタマイズと統合の数などを把握することが含まれます。
- 継続的な人件費: 導入後、オンプレミスERPシステムでは、継続的なメンテナンス、アップグレード、サポートのためのリソースが必要になります。TCOの計算には、IT、ビジネス・プロセス、トレーニング、エンドユーザー・サポート、および必要なメンテナンス、サポート、アップグレードの取り組みのためのプロジェクト管理に必要な人員配置のコストを含める必要があります。これらの経費の一部は、クラウドERPのTCOには含まれません。特に、メンテナンス、サポート、およびアップグレードは、クラウド・サブスクリプション料金に含まれていて、ERPベンダーによって実施されます。しかし、クラウドERPでは、ビジネス・プロセス、トレーニング、および一部のITサポートは、内部チームまたはコンサルタントが実施することが必要になる可能性が高いと考えられます。
- 継続的なインフラストラクチャ費用: ERPシステムの継続的なインフラストラクチャ費用は、導入方法(オンプレミス、クラウド、ホスト型)によって異なります。オンプレミス・システムでは、システムへのアップグレードには、新しいサーバー、ネットワーク・インフラストラクチャ、ストレージ領域、またはデータベースなどが必要な場合があります。ホスト型ソリューションでは、サーバーはサードパーティによって維持されますが、サーバーの機能や容量をアップグレードすると追加のコストがかかる場合があります。クラウドERPシステムでは、サーバーは必要ありませんが、ネットワーク・デバイスやエンドユーザー・デバイスのアップグレードなどインフラストラクチャに関する考慮が必要になる場合があります。オンプレミスとクラウドのどちらのERPシステムでも、バックアップおよびディザスタ・リカバリの目的で追加のハードウェアまたはソフトウェアが必要になる場合があり、それらもTCOの計算に含める必要があります。
ERPシステムのTCOに影響を与える要素
ERPのTCOは、購入コスト、導入コスト、および継続コスト(維持費とも呼ばれる)の3つの幅広いセグメントで構成されていますが、TCO全体の一部として考慮する必要があるサブカテゴリが多数存在します。たとえば、次のようなものがあります。
ソフトウェア・ライセンス、サブスクリプション、およびメンテナンス・コスト
ソフトウェア・コストは、ERPのTCOの主要な要素の1つであり、最も簡単に計算できますが、金額は顧客がERPソフトウェアをホストする方法によって異なります。オンプレミスERPの場合、単一の永久ライセンス料金により、顧客は自社のサーバーでソフトウェアをホストする権利を得ます。ホスト型ERPソリューションでは、永久ライセンスは、顧客やERPベンダーのサーバーではなく、サードパーティがホストし、顧客がインターネットを介してアクセスするサーバーに付属しています。クラウドERPシステムはクラウドERPベンダーによってホストされ、顧客は月単位または年単位のサブスクリプション料金(ライセンス料金やホスティング料金とは異なる)を支払う必要があります。ライセンス料金とクラウドのサブスクリプション料金は、通常、システムのユーザー数によって決まります。そのため、ERPのTCOを計算してビジネス・ケースを構築する場合は、ユーザー数に対応した現在の要件のコストだけでなく、将来のニーズも考慮する必要があります。
ソフトウェアのメンテナンスには、オンプレミスおよびホスト型ERPシステムに関する問題のトラブルシューティングのコストが含まれます。ただし、クラウドベースのERPの場合、ベンダーがサーバー上のソフトウェアをメンテナンスし、サブスクリプション価格の一部にメンテナンス料金が含まれているため、ソフトウェアのメンテナンスは考慮する必要がありません。
レガシー・システムの廃止コスト
新しいERPシステムの導入は、多くの場合、既存のERPソリューションまたは複数の個別のレガシー・システムを置き換えることを意味し、そのコストもTCOの計算に含める必要があります。ただし、廃止は簡単な作業ではありません。まず、レガシー・システムのデータを新しいERPシステムに移行する必要があります。企業では、このプロセスに社内のリソースを使用できない場合、コンサルタントを使用することがよくあります。さらに、導入の初期段階にバックアップ・メカニズムとして、新しいERPシステムと並行してレガシー・システムを実行することを選択する場合があります。そのため、レガシー・システムの一部のコンポーネントは、長期間稼働し続ける可能性があります。新しいERPシステムを導入した後のレガシー・システムのメンテナンスと最終的な廃止に伴うコストを考慮してください。
ホスティング料金を含むハードウェアおよびインフラストラクチャのコスト
ハードウェアおよびインフラストラクチャのコストは、オンプレミスおよびホスト型ERPシステムのどちらの場合も、TCOのかなり大きな要素になりますが、価格設定の方法が異なります。オンプレミスERPシステムでは、多くの場合、ハードウェアとインフラストラクチャの初期費用が必要になりますが、企業によっては既存の機器を再利用できます。ホスト型ERPシステムの場合も、ハードウェアとインフラストラクチャのコストが含まれますが、料金はサードパーティのホスティング・プロバイダーが月単位または年単位のサブスクリプションで請求する可能性が高くなります。一方、クラウドベースERPの場合、クラウドERPベンダーがシステムを独自のインフラストラクチャでホストおよびメンテナンスし、そのサービスのコストをサブスクリプション料金に含めるため、ハードウェアおよびインフラストラクチャのコストが最も少なくなります。ホスティング方法に関係なく、ERPシステムには、接続を高速化するための新しいネットワーク・インフラストラクチャや、ERPシステムにアクセスするためのエンドユーザー・デバイスのアップグレードなど、追加のハードウェアの購入が必要になる場合があります。バックアップおよびディザスタ・リカバリ・システムをサポートするハードウェアも、ERPのTCOに含める場合があります。
コンサルタント、導入、カスタマイズ、統合の料金
クラウドERPの導入はハードウェアが関係しないため、比較的シンプルになり、本番稼働するまでの時間が短くなる傾向があります。しかし、ERPの導入は簡単ではありません。そのため、多くの企業は、ベンダーの評価、ビジネス・プロセスの評価、プロジェクト管理、データの移行、トレーニング、テストなど、ERP導入のさまざまなフェーズや運用段階でコンサルタントを使用します。また、一般的にコンサルタントは、企業固有のポリシーやワークフロー、財務報告の業界標準など、顧客のニーズに合わせたERPシステムのカスタマイズも支援します。カスタマイズには通常、重要なデータをERPシステムの中央データベースにさらに統合する、ERPシステムと他のコア・システムとの統合も含まれています。これらのプロジェクトを実施するのがコンサルタントか社内リソースかに関係なく、ERPのTCOの計算では、これらのリソースの使用に関連するコストを考慮する必要があります。
トレーニング・コスト
ERPのトレーニングは、新しいシステムを導入した後のエンドユーザーのトレーニングにとどまりません。ERPシステムのユーザーに新しいテクノロジーを支持して活用してもらうための重要な手段として、導入段階中にトレーニングを開始し、システムに新機能が追加されるたびに、トレーニングを定期的に実施することを継続する必要があります。トレーニングを管理するには、いくつかのオプションがあります。多くの場合、ERPベンダーは所定の料金でトレーニング・サービスを提供し、コンサルタントは別のオプションとして提供します。また、コンサルタントが社内チームの主要メンバーをトレーニングし、それらのメンバーが社内の他のメンバーを教育するハイブリッド・ソリューションもあります。いずれにしても、一貫したトレーニング予算は、ERPのTCOの重要な要素になります。
データ移行コスト
データの移行は、ERP導入を成功させるための最も重要な側面の1つであり、ERPのTCOに大きく影響します。データの移行には、データ分析、マッピング、クレンジング、抽出、ロード、検証、テストなど、さまざまなフェーズが含まれます。企業がレガシーERPシステムを置き換える場合、古いシステムから新しいシステムにデータを移行する必要があります。レガシーERPシステムがない場合でも、保険業界独自の請求システムなど、ERPシステムに移行する必要がある他のシステムにデータが存在することがよくあります。大規模な組織であれば、社内でデータ移行を処理できるかもしれませんが、多くの企業はコンサルタントを活用します。ERPのTCOには、コンサルタントのコスト、またはそのプロジェクトに取り組んだ社内の従業員の給与を含める必要があります。
短期的な生産性低下によるコスト
ERP導入中の生産性の問題は、常にTCOに含める必要がある隠れたコストの1つです。企業がコンサルタントを雇うことができる場合、コンサルタントがERPシステムの導入において大きな役割を果たす可能性がありますが、社内チームはシステムの評価、管理、構築において常に重要な役割を果たします。多くの場合、従業員はベンダー選択委員会などのERPタスクに割り当てられます。プロジェクトには短期間で終了するものもあれば、プロジェクト管理などのように長期間にわたるものもあります。また、スタッフがERPのロールアウトに寄与してもスタッフの給与が増えることは少ないですが、TCOでは、ERPプロジェクトが従業員の「日々の仕事」を達成する能力に与え、どのような結果が想定されるかを考慮する必要があります。カスタマーサービス担当者が短時間労働としてERPプロジェクトに貢献した場合、顧客対応時間が遅延する可能性により生じるコストはどの程度でしょうか。ERPのTCOでは、これらのコストを推定するか、ERPロールアウトのために一時的に作業する従業員の本来の業務を補うコストを含める必要があります。生産性低下のコストを評価する1つの方法は、ERPプロジェクト自体の結果として、またはプロジェクトに集中できないことにより、重要な職務で1週間に失われた時間を推定することです。従業員の給与を時給に変換し、失われた時間を乗算すると、生産性の低下をドル単位で推定できます。
テストおよび品質保証の費用
ERPシステムのテストおよび品質保証のコストは、ERPのTCOの継続的な要素です。ERPの導入および管理のさまざまな側面と同様に、どちらの職務も社内またはコンサルタントにより対処できます。テストと品質保証のコストは、企業がそれらのタスクにどの程度包括的にアプローチするかによって異なります。包括的なテスト・プログラムには、テスト・フレームワークの構築、テスト環境の設定、ビジネス要件を満たすことを確認するシステム機能テスト、パフォーマンス・テスト、ユーザー受け入れテスト、システムへの変更の影響を評価するための回帰テスト、さらにセキュリティ、信頼性、およびスケーラビリティを維持するための品質保証などが含まれます。TCOには、社内で実施するか、コンサルタントを通じて実施するかに関係なく、テストおよび品質保証のコストを含める必要があります。
継続的なサポート・サービス料金
ERPシステムのサポートにはさまざまな形態があり、これらすべてをTCOの計算の一部として考慮する必要があります。一部のコストは、オンプレミスおよびホスト型ERPシステムに関連しており、特にメンテナンスとアップグレードは顧客が責任を負うため、スタッフ配置のコストと関連コストをTCOに含める必要があります。一方、クラウドERPベンダーは、多くの場合、顧客が支払う料金の一部として、顧客に代わってシステムをメンテナンスし自動的にアップグレードします。クラウドを含むすべてのERPシステムでは、バグ、パフォーマンスの問題、ダウンタイムなどの課題に対処するためにテクニカル・サポートが必要になります。ERPベンダーは、多くの場合、これらのサービスをコンサルタントと同様に提供しますが、料金が必要になる場合があり、料金にばらつきがある可能性があります。ERPシステムを導入する前に、必ず、すべてのサポート料金を把握してください。
将来のアップグレードのコスト
ERPシステムのアップグレードは、オンプレミス・システムやホスト型システムの場合とクラウドベース・システムの場合で実施方法が異なります。クラウドERPの場合、アップグレードはサブスクリプション料金に含まれているため、顧客は、カスタマイズ後に互換性が確保されていることを確認するテストの料金のみを払います。ベンダーは、これらのアップグレードをクラウド経由で自動的に顧客にプッシュします。ただし、一部の新しい機能については追加コストが必要になる場合があるため、各ERPベンダーがアップグレードをどのように処理するかを理解しておくことが重要です。アップグレードには、追加のERPモジュールが含まれる可能性もあります。たとえば、企業が財務システムに重点を置いてERPシステムを立ち上げ、後から人事システムの追加を希望する場合があります。また、将来のサブスクリプションは技術的にはアップグレードではありませんが、クラウドERPの顧客は、予想される自社の成長に基づいて、ユーザーの増加がどのくらいのコスト増につながるかを確実に考慮する必要があります。オンプレミスのERPベンダーもサービスの一部としてアップグレードを提供しますが、アップグレードを行うのが顧客の社内サーバー上かサードパーティのホスト・サーバー上かに関係なく、これらのアップグレードを導入するコストは、最終的に顧客の責任であり、ERPのTCOのかなりの部分に相当する可能性があります。
維持費
維持費は、トレーニング、継続的なサポート・サービス、メンテナンス、テストなど、ERPシステムの維持と実行にかかる継続コストに対する別の見方です。この記事の目的では、必要に応じて、これらのコストは、より具体的なカテゴリに含まれています。しかし、企業によっては、維持費という幅広いカテゴリで、それらをまとめて考慮することを希望する場合があります。
ERPのTCOの例
ERPのTCOの計算方法を理解するために、新しいクラウドERPシステムの購入を検討している中小企業の例を考えます。TCOを計算するには、ソフトウェアの購入に関連するハード・コストとソフト・コストに加え、システムを導入して5年間維持するのにかかる料金を把握する必要があります。この例は、この記事のために簡略化されており、数字は仮の値であることに注意してください。実際の金額は、個々の顧客の詳細によって異なります。
- ERPを使用する従業員の人数: 15人
- 年間あたりのユーザー数の増加: 2人
- ソフトウェア・サブスクリプション料金: 1ユーザーにつき年間120,000円
- ユーザー・デバイスのハードウェアのアップグレード: 年間500,000円
- 導入コンサルタント:
- 変更管理: 合計2,000,000円
- データ移行: 合計1,000,000円
- 異動した社内スタッフを補うために必要な臨時リソースのコスト: 1,000,000円
- ERP導入で失われた従業員の推定作業時間: 100時間
- 生産性が影響を受ける従業員の平均時給: 3,000円
- 合計サポート・コスト: 年間500,000円
- 継続的なトレーニング・コスト: 年間300,000円
購入コストを先に見積もるために、この企業は5年間で必要なユーザー・サブスクリプションの数を計算し、その結果にユーザーごとの年間サブスクリプション料金を乗算します。毎年のユーザー数の増加を考慮すると、年間ユーザー・サブスクリプションの合計は95件になります(15 + 17 + 19 + 21 + 23)。95に120,000円を乗算すると、5年間で合計サブスクリプション料金は1,1400,000円になります。デバイス・アップグレードも初期購入コストの一部であり、合計に2,500,000円(年間500,000円で5年間)を加算します。合計購入コストは13,900,000円(11,400,000円 + 2,500,000円)になります。
次に、3,000,000円のコンサルタント料金と1,000,000円の臨時リソース・コストを含む導入コストを加算します。ただし、導入時の生産性の低下に伴うコストも発生します。損失が100時間発生し、1時間あたり平均30ドルのコストがかかるため、さらに300,000円かかります。これらを合計すると、合計導入コストは4,300,000円(3,000,000円 + 1,000,000円 + 300,000円)になります。
ERPシステムを5年間運用するための継続コストには、2,500,000円のサポート・コスト(年間500,000円で5年間)、1,500,000円のトレーニング・コスト(年間300,000円で5年間)が含まれます。継続コストの合計は4,000,000円です。
この導入に関する最終的なTCOは、初期コスト1,3900,000円、導入コスト4,300,000円、継続コスト4,000,000円を合計し、5年間で合計22,200,000円となります。繰り返しますが、ERPシステムのコストは、導入規模、モジュール数、リソースの可用性、カスタマイズなど、多くの要素に大きく左右されます。
既知のエンティティによるERPのTCOの削減: NetSuite
オンプレミスERPと比較して、クラウドベースのERPシステムでは通常、導入、メンテナンス、更新のプロセスが簡素化されるため、TCOが少なくなります。クラウドベースERPベンダーがシステムをホスト、メンテナンス、アップグレードするため、ハードウェアおよびネットワーク・インフラストラクチャの購入費用が計算式から除外されます。同じ理由で、クラウド・システムもシステムの導入とメンテナンスが簡素化されるため、必要なリソースが少なくて済み、コストをさらに削減できます。
NetSuite ERPには、TCOをさらに削減するのに役立つ、独自の機能がいくつか含まれています。NetSuite ERPは、フロント・オフィス、バックオフィス、eコマースにわたる単一の統合アプリケーションとして設計されていて、財務、顧客関係管理(CRM)、ビジネス・インテリジェンス(BI)、在庫管理と注文管理、人事、プロフェッショナル・サービスの自動化、およびサプライチェーン・マネジメント(SCM)のためのモジュールを備えいるため、他のシステムとの統合が少なくて済みます。統合が少ないほど、導入プロセスがより迅速でより低コストになります。顧客が統合やカスタマイズを必要とする場合、NetSuite SuiteCloud Platformを使用することで、各顧客独自のビジネス・モデルに合わせて、より迅速かつよりシンプルにNetSuiteの拡張とカスタマイズを行うことができます。
導入の迅速性は、TCOの削減につながるNetSuiteのもう1つの特徴です。NetSuite SuiteSuccessカスタマー・エンゲージメント・モデルにより、ERPシステムのデプロイを迅速化し、主要なビジネス・プロセス・プラクティスを組み込んで導入時間とコストを削減すると同時に、価値実現までの時間(TTV)を短縮できます。また、NetSuiteでは、厳格な24時間体制の監視ツール、制御とポリシー、および専用のセキュリティ・チームを採用することで、追加のセキュリティ・ソリューションの必要性を軽減できます。
総所有コスト(TCO)は、ERPシステムの潜在的なメリットを活用するのに必要な企業のコストを測定する重要な手段です。TCOはERP評価プロセスの重要な部分であり、定期的なROI評価に組み込むことで、ERPへの投資を通じてビジネス・プロセスの効率化と意思決定の改善を継続的に実現できます。
優れた
eコマース・
ソフトウェア
ERPのTCOに関するFAQ
TCOはどのように計算すればよいですか?
計算式としては、ERPの総所有コスト(TCO)= 購入価格 + 導入コスト+ 5年から10年の運用コストとなります。シンプルな計算式に見えるかもしれませんが、ERPシステムのコストは幅広く、必ずしもすぐに明らかなコストだけではないため、実際にはTCOの計算はもっと複雑です。TCOの計算における重要な要素の1つは期間です。ほとんどの場合、企業はTCOを5年から10年間の期間で評価する傾向があります。
新しいERPシステムを導入する際、企業は、TCOが想定と異なる事態をどのように回避できますか?
ERPの総所有コスト(TCO)が想定と異なる事態を避けるために、ライセンス料金やサブスクリプション料金などのハード(または直接)コストと、従業員がプロジェクトに貢献する際に費やされる時間のコストなどのソフト(または隠れた)コストの両方を考慮してください。ERPの導入ではリソースを適切に配置する必要があるため、導入時の生産性の低下に伴うコストも考慮してください。
TCOをERPベンダーとの交渉に活用するにはどうすればよいですか?
ERPベンダーは、多くの場合、システムのさまざまな価格モデルを用意しています。ライセンス料金とサブスクリプション料金が異なることが多いだけでなく、多くのベンダーは、さまざまなカスタマーサポート・モデルを提供しています。総所有コスト(TCO)を使用して、これらのコスト差異の影響を理解することは、ERPベンダーと交渉する際の効果的な手段となります。各ソリューションにTCO計算を適用すると、ソリューション間のコストを比較しやすくなり、企業は並行した交渉をより有利に進めることができます。
チームにERPのTCO削減に寄与してもらうにはどうすればよいですか?
ERPの総所有コスト(TCO)の削減は、投資利益率(ROI)を高める優れた方法ですが、その実現には協調的な取り組みが必要です。まず、ERPシステムから価値を最大限に引き出すにはTCOが重要である理由をチームに説明します。次に、チームに現実的で達成可能なTCO削減目標の設定に関与してもらい、進捗状況を監視するための指標を設定します。チームがこれらの目標を達成したら、チームの貢献を評価して報酬を与えます。最後に、ERPシステムをより効率的に使用する方法に関するトレーニングをチームに提供してください。
どのERPを購入するかを決定する際にTCOを考慮することが重要なのはなぜですか?
ERPの総所有コスト(TCO)は、さまざまな理由で重要です。ERPベンダーの評価プロセス中にTCOを計算することで、企業はどのベンダーがニーズに最も適しているかを裏付けに基づいて評価できます。また、ERPのTCOを把握することで、企業はシステムの耐用年数にわたる予算を正確に編成できるため、成功に向けて適切なリソースを確保できます。TCOは、資産の所有を通じて経時的に得られる価値の合計を測定する投資利益率(ROI)の重要な要素です。最後に、TCOはERPシステムの直接費と間接費の両方を評価するため、企業が想定外の経費のリスクを管理するのに役立ちます。
TCOの例を教えてください。
たとえば、クラウドERPシステムの導入を進めている小規模な企業が、5年間の総所有コスト(TCO)を計算するとします。この簡単化された例の場合、この企業では、5つのERPユーザー・サブスクリプションが必要で、コストは1ユーザーあたり年間120,000円です。また、システムの導入を支援するコンサルタントも必要で、1,000,000円のコストがかかります。さらに、ユーザーがすぐにシステムに慣れるのを助け、毎年のアップグレード時にユーザーをトレーニングする指導者チームのコストが5年間で1,250,000円かかります。最後に、5人のフルタイム従業員を導入プロジェクトに配属する必要があります。導入時にこれらの従業員の職務を補うために、臨時社員を雇用する必要があり、1,000,000円のコストがかかります。TCOは、サブスクリプション料金の3,000,000円(年間600,000円で5年間)、コンサルタント費用の1,000,000円、トレーニング費用の1,250,000円、臨時スタッフ費用の1,000,000円の合計であり、6,250,000円になります。