※この記事は、日本オラクル株式会社 理事 NetSuite事業統括 コンサルティング統括本部 統括本部長の玉井健志が翻訳、監修しています。

ERP導入戦略とは、新しいERPシステムをどのような順序・範囲・方法で導入するかを定める計画のことです。代表的な戦略には、ビッグバン方式、段階的ロールアウト、並行導入、ハイブリッドがあります。新しいERPシステムへの移行は、どの組織にとっても一大プロジェクトです。さまざまな企業の成功事例からも、ERP導入においては導入戦略の選択が成果に大きく影響することが分かります。

ERPシステムは、会計から製造、在庫管理、流通、販売に至るまで、組織全体に効果をもたらす統合型ソフトウェアスイートです。このシステムはビジネスの幅広い領域に影響を及ぼすため、最初の分析・設計から導入、サポートに至るまでの各段階を慎重に計画することが重要です。

特に、導入段階においては、いくつかの戦略があり、それぞれにさまざまな利点とリスクがあります。

ERP導入戦略の要点 

  • ERP導入戦略とは、新しいERPシステムをどのような順序・範囲・方法で導入するかを定める計画のことです。代表的な戦略には「ビッグバン」「段階的ロールアウト」「並行導入」「ハイブリッド」があります。
  • 導入は通常、発見と計画、設計、開発、テスト、デプロイ(導入)、サポートの6つのフェーズで進みます。どの戦略を選んでも、このプロセスは共通であり、入念な計画と全社的な関与が成功の鍵となります。
  • 経営幹部の支援獲得、部門横断チームの結成、現実的な期待値の設定、そして適切なKPIによる進捗管理が、スムーズな移行と導入後の定着率向上に不可欠です。

ERP導入の6つのフェーズ

ERPの導入は一般的に、「発見と計画」「設計」「開発」「テスト」「導入」「サポート」の6つのフェーズ に分けられ、数か月、場合によっては数年にわたって進められます。このプロセスは、どの製品を導入するかを決定する前から始まり、選定したシステムの初期導入後も継続します。

これらのフェーズは一部重複する可能性があり、企業によって多少異なる場合もありますが、多くの企業は概ねこの流れに沿って導入を進めます。

  1. 発見と計画:企業は部門横断的なプロジェクトチームを立ち上げ、各部門の要件と、ERPシステムによって解決すべき課題に関する意見を収集します。このチームは、ベンダーの候補を絞り込み、リストを作成し、提案依頼書の発行、ERPシステムの選定、および導入の管理を担当します。さらに、ERPシステムが各部門のニーズを満たし、企業全体で円滑に活用されるよう推進していきます。しっかりとしたERP導入計画は、おそらく最も重要な成功要因であるため、入念に計画することが不可欠です。
  2. 設計:この段階では、プロジェクトチームは既存のワークフローを分析し、新しいシステムでワークフローがどのように変更されるのかを確認します。日々の業務を担当する管理者やビジネスプロセス責任者は、タスクの見直しや変更に協力する必要があるため、柔軟な対応が求められます。

    チームは、そのワークフローをもとに、自社にとって重要なERP機能を特定し、各部門の ニーズを満たすために必要なモジュールの追加やソフトウェアのカスタマイズ方法、さらに新しいシステムへ移行するデータの範囲を明確に定義します。

  3. 開発:ベンダーまたは統合パートナーはプロジェクトチームと連携し、ビジネス要件に基づいたソフトウェアを構成し、トレーニング資料や各種ドキュメントの作成、データのインポート開始など、導入に向けた準備を進めます。クラウドベースのSaaS ERPではなくオンプレミスERPシステムを採用する場合は、ハードウェア、ネットワーク環境、クライアントロールアウト、長期的なメンテナンスおよびセキュリティ対策についても検討・決定する必要があります。ハイブリッドERPシステムにおいても、同様のことを検討する必要があります。
  4. テスト:本番稼働に先立ち、システムのテストを実施します。このテストでは、さまざまな部署の人が、システムのあらゆる使用方法を網羅した包括的な検証を行う必要があります。テスト中に検出された問題は必要に応じて修正や微調整を行います。本稼働後に問題に気づくよりも、このように、事前に対応しておくことが望まれます。
  5. 導入:システムの構成、データの移行、テストが完了したら、本番稼働を開始します。もちろん本番稼働はゴールではなく、その先が重要です。従業員が日常業務の中でシステムを十分に活用して初めて、企業は投資に見合った利益を得られるのです。そのため、トレーニングの実施を優先し、各部門にリーダーを指名することも有効です。 これらのキーユーザーは、利用者を支援する中核的な存在として重要な役割を担います。
  6. サポート:プロジェクトチームは、ユーザーが必要なサポートを適切に受けられる体制を整えるとともに、システムの継続的なアップグレードおよび、必要に応じた問題修正を行います。オンプレミスERPシステムを採用した場合は、セキュリティ対策、パッチ適用、メンテナンス、トラブルシューティングなどを担う専任のITリソースの確保が必要となります。
ERPの実装段階

ERP導入を成功に導くチーム作りの5つのポイント

経営層の支援を得る。非効率的な手続きを改善し、予算を確保し、企業全体を巻き込みながらプロセスを刷新するためには、経営層の理解と協力が不可欠です。

さまざまな部門の人々を巻き込む。大規模なチームは管理が難しい場合もありますが、適切な方法で対処することができます。ERPシステムを使用する財務部門やその他の部門に、単にIT部門が指示するだけでは不十分です。各部門の参画を促すことが重要です。

優先事項に応じたメンバーの配置。 このチームは、ユーザーの利用状況や業務プロセスを把握し、適切な意思決定を行うために必要な情報を提供します。

リソース配分と計画の重要性。このプロジェクトでは、一部の従業員がERP導入に多くの時間を割くことになります。チームの規模が大きくなるほど対応すべき業務範囲も広がるため、通常業務に支障が出ないよう、既存の担当業務を見直し、適切に調整する必要があります。

役職ではなくスキルに注目する。チームメンバーは、専門知識と意欲・積極性に基づいて選びます。既に経営層の支援は得られていますので、プロジェクトに有意義な貢献ができるスキルセットを持った人材をチームメンバーに選びましょう。

4つのERP導入戦略

新しいERPシステムへの移行には、実績のあるさまざまな戦略が数多くあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。ERPの導入においては、関係者全員が1つの目標(ビジネスの成功)に向かって協力することが重要です。

ここでは、最も一般的な4つのアプローチを紹介します。

  1. ビッグバン方式

    「単一ステップ方式」とも呼ばれるこのアプローチでは、すべてのユーザーが同時に新しいシステムに移動します。本番稼働開始日までに、新システムの構成、テスト、およびトレーニングをすべて完了しておく必要があります。

    このビッグバン方式の利点は、生産性の向上、業務に関するインサイトの改善、運用コストの削減など、ERPのメリットがすぐに表れることにあります。ただし、システムをロールアウトすると元に戻すことは困難であるため、計画と実行を正確に進めることが重要です。小さなエラーや不具合でも、従業員、ビジネスパートナー、顧客に影響を及ぼす可能性があります。また、従業員が新システムに慣れる過程で、一時的に生産性が低下する場合があります。

  2. 段階的ロールアウト 

    段階的なアプローチでは、機能やツール、コンポーネントの導入が数週間または数か月など、長期間にわたって順次行われます。この慎重なアプローチでは、ビッグバン方式に比べてリスクを低減できる場合があります。さらに、企業は「クイック・ウィン」(最も迅速にメリットをもたらす機能)に焦点を当て、初期フェーズで学んだことを活かして、後続のフェーズでのプロセスを改善することが可能です。

    一方で、短所も存在します。新しいERPのメリットを十分に享受するのに時間がかかり、企業は既存システムと新システムの2つのシステムを同時に運用する必要があるため、コストも増加します。

    段階的ロールアウトには、主に3つの方法があります。まず1つ目は、モジュール別導入です。組織は1つのERPモジュールをオンにし、バグやプロセス上の課題を解決してから、次のモジュールに取り組みます。ほとんどの組織では、コア機能から導入を始め、そこから順次範囲を拡大していきます。2つ目は部門別導入です。人事、財務、ロジスティクスなどの事業部門ごとにシステムを導入し、それぞれの部門のニーズと階層に基づいて順次展開します。

    3つ目は、地理別導入です。ロールアウトを地理別に段階的に進めます。企業は、特定の拠点でシステムをテストして完成させた後、他のオフィスや工場、施設に段階的にロールアウトしていきます。

  3. 並行導入 

    この戦略では、組織はレガシーシステムを新しいERPと一定期間並行して使用します。問題が発生した場合にはレガシーシステムに戻すことができるため、一般的に最もリスクの低いアプローチだと考えられています。この安全策があることから、一部の組織では、常に運用を継続することが求められる重要な機能に対して並行導入を採用しています。

    また、このアプローチでは、ユーザーが新しいシステムに徐々に慣れていくことができます。ただし、2つのシステムを同時に稼働させるには、スタッフの時間とリソースがより多く必要になるため、並行導入はコストがかかる可能性があります。また、並行導入特有のリスクが生じる可能性もあります。たとえば、2つの異なるシステムにデータを2回入力すると、エラーの可能性が2倍になります。

    それでもこのアプローチは、組織が規模を拡大した場合や、合併・買収を行った場合に、よく見られる2層ERPアーキテクチャを採用している企業にとっては最善の策である可能性が高いです。

  4. ハイブリッド 

    その名の通り、このアプローチでは、前述した戦略の要素を組み合わせて活用します。たとえば、ビッグバン戦略を採用してコアERPモジュールを一度にオンにしてから、その後、他のモジュールを特定の拠点や部門に段階的にロールアウトすることが可能です。

ERP導入戦略の選び方

単一のERP導入戦略が、すべての企業や状況でうまくいくとは限りません。どの導入戦略を選択するかは、いくつかの要素によって左右されます。たとえば、次のようなものが挙げられます。

組織の規模: 中小企業では、従業員や拠点の数が少ないため、企業全体を一度に移行するプロセスの管理が比較的容易であり、多くの場合、ビッグバン戦略が最も効果的です。一方で大企業、特に組織構造が複雑な企業では、このアプローチはリスクが非常に高くなる可能性があります。

リスク許容範囲: 従業員が新しいERPシステムを使い始めた際に大きな問題が発生すると、ビジネスにどのような影響が出るでしょうか。24時間365日稼働するシステムに完全に依存している企業は、ビッグバンアプローチのリスクを取る傾向は低く、少なくとも最も重要なモジュールには並行導入を選択する可能性が高いでしょう。

投資利益率(ROI)実現までのスピード : 段階的な導入では、ビジネス上の特定のボトルネックに対するERPモジュールを順次ロールアウトできるため、比較的早くROIを得ることができます。一方、ビッグバン戦略ではERPへの全体的な移行が短期間で完了し、すべての従業員が統合されたシステムを使用できるようになることで、組織としてすぐにメリットを実感できるため、ROIがさらに向上する可能性があります。

コスト: プロジェクト全体のコストが最も重要な懸念事項である場合、旧システムと新システムを同時に運用する必要がないビッグバン戦略が有力な選択肢となり得ます。

ERP導入のタイムライン

ERPの導入ステップ

企業がどの導入戦略を選択しても、基本的なステップはほとんど変わりません。ユーザーに新しい機能をロールアウトするにあたり、企業はまずソフトウェアを構成し、その後、データ移行、各種テストといった準備を実施します。これらを経て、ソフトウェアを本番環境に展開し、ユーザーにトレーニングとサポートを提供します。

ビッグバン戦略では、プロジェクトチームはこれらのステップに順次取り組みます。本番稼働開始後は、サポートおよび機能強化に専念することができます。

段階的アプローチでは、チームは、企業内のさまざまな部門や領域に対して、複数のステップを並行して進める場合があります。たとえば、コア財務モジュールの導入を進めながら、CRM機能の設計・開発を同時に進めるといったケースです。

ERP導入のポイント

ERPへの移行は、企業の運営方法に大きな変化をもたらし、それに伴いさまざまなリスクが発生します。以下のポイントを押さえることで、導入を円滑に進めることができます。

  • 経営層の支援を得る。 複数の部門にまたがる経営層の支援がなければ、ERPの導入が行き詰まる可能性があります。また、経営層の強力な支持者を確保することも重要です。
  • 期待値を管理する。このような大規模なプロジェクトを成功させるには、一定の課題が発生することは避けられません。移行に対する従業員の期待を現実的なレベルに保つことが重要です。そのためには、導入プロセス全体を通してプロジェクトチームが継続的にコミュニケーションを図る必要があります。
  • カスタマイズの影響を考慮する。多くの企業および部門では、ビジネスプロセスに合わせたカスタマイズが求められます。しかし、オンプレミスERPソフトウェアを採用する場合、過度なカスタマイズを行うとアップグレードが難しくなり、新機能を活用できなくなる可能性があります。SaaS ERPの場合でも、IT部門または統合パートナーがカスタマイズを行うことはできますが、それによってコストが増加します。カスタムコードを追加する前に、業務プロセス自体を見直すことで対応できないかを十分に検討してください。その結果、作業をより効率的に行う方法が見つかる場合があります。
  • 適切なKPIを設定・活用する。ERPシステムは、企業が進捗や結果を測定するための重要業績評価指標(KPI)の管理に役立ちます。ここで重要なことは、売上成長や業務効率など、ビジネス目標に直結する指標に焦点を当てることです。

ERP導入戦略に関するよくある質問(FAQ)

ERP導入戦略とは何ですか?

ERP導入戦略とは、新しいERPシステムを組織に展開する際のアプローチのことです。主な戦略には、全ユーザーが同時に移行する「ビッグバン」、段階的に機能を展開する「段階的ロールアウト」、新旧システムを並行して運用する「並行導入」、これらを組み合わせた「ハイブリッド」の4つがあります。

どのERP導入戦略が最もリスクが低いですか?

一般的に、並行導入が最もリスクの低いアプローチとされています。旧システムと新しいERPを一定期間並行して稼働させるため、問題が発生した場合でもレガシー・システムに戻すことができます。ただし、2つのシステムを同時に運用するためコストと工数が増加するというデメリットもあります。

中小企業にはどのERP導入戦略が適していますか?

中小企業では、従業員数や拠点数が比較的少ないため、ビッグバン戦略が適している場合が多いです。そのため、組織全体を一度に移行する管理が比較的容易で、ERPのメリットを早期に享受できます。ただし、本番稼働前にシステムの構成・テスト・トレーニングをすべて完了しておくことが重要です。

ERP導入にはどのくらいの期間がかかりますか?

導入期間は選択した戦略や組織の規模・複雑さによって異なります。ビッグバン戦略では、他のアプローチと比べて短期間で本番稼働に到達できる場合がありますが、段階的ロールアウトでは数週間から数か月にわたる場合があります。クラウドベースのERPはオンプレミス型と比べて導入期間が短い傾向があります。

ERP導入を成功させるための重要なポイントは何ですか?

ERP導入を成功させるには、いくつかの重要な要素があります。まず、経営幹部の支援を得ることが不可欠です。また、財務・営業・ITなど各部門の利害関係者を含むクロスファンクショナルなチームを結成し、現実的な期待値を設定することも重要です。さらに、カスタマイズの影響を慎重に検討し、ビジネス目標に合ったKPIを設定して継続的に効果を測定することが成功への鍵となります。