ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)システムの導入は、ビジネスの多くの部分に影響を与える複雑なプロジェクトとなることもあります。他の主要なイニシアチブと同様に、慎重に設計された実装計画を策定することが重要です。導入をフェーズに分け、それぞれに明確な目標を設定することで、導入の成功を確実なものにすることができます。
そして反対に、最初にプロジェクトの方向性、スコープ、および構造を明確に確立せずに ERP導入を開始すると、後で重大な問題に遭遇する可能性が高くなります。
ERPの導入とは
ERPシステムは、財務管理、営業、製造など、ビジネス全体の多くの機能を統合することで、生産性や効率性の向上などのメリットをもたらします。ERPの導入とは、ERPの計画、構成、導入ののプロセスを指します。ERPシステムは多くの異なる機能をサポートし、自動化するため、このプロセスは複雑で、通常は数か月かかります。
導入を成功させるためには、組織は慎重に要件を定義し、システムを活用するためにプロセスの再設計方法を決定する必要があります。また、それらのプロセスをサポートするためにERPシステムを構成し、ユーザーに展開する前に厳密にテストする必要があります。これらのすべてのステップをスケジュール通りに成功させるには、綿密な計画と構造化されたフェーズごとの導入アプローチが必要となります。
ERP導入計画のフェーズとは
典型的なERP導入計画は6つのフェーズに分けることができ、それぞれ特定の目的があります。ビジネスにはそれぞれ特徴があるため、フェーズは企業によって多少異なる場合もありますし、重複する場合もあります。ERP導入フェーズのライフサイクルは、「発見と計画」、「設計」、「開発」、「テスト」、「導入」、「サポート」の6つに分けられます。
1. 発見と計画
ERPの導入の最初のフェーズとはどのようなものなのでしょうか?このフェーズでは、システムの調査・選定、プロジェクトチームの立ち上げ、詳細なシステム要件の定義などを行います。
プロジェクトチームは、導入に関わる幅広い役割を担います。これには、プロジェクト計画や目標日程の策定、適切なリソースの確保、製品および設計の決定、日々のプロジェクト管理などが含まれます。
ERPのプロジェクトチームには、通常、経営幹部、プロジェクト・マネージャー、およびシステムを使用する部門の代表者が含まれます。プロジェクトに必要なリソースを確保し、組織全体で変革を実施するために必要な支援を提供するためには、経営幹部の関与が不可欠となります。チームはまた、システムの設計と構成に関する専門知識を得るために、外部のコンサルタントやERP導入パートナーを雇うこともできます。さらに、IT部門の代表者や、組織全体のユーザー向けにカスタマイズしたレポートを作成するレポート作成者など、システムの導入に関わる社内の専門家も参加させる必要があります。
チームの初期目標のひとつは、現在の問題を詳細に理解することです。これには、プロセスの非効率性やERPシステムの要件などが含まれます。ERP のビジネスケースを作成したことのある企業であれば、決算の早期化、業務インサイトの改善、IPO の準備など、幅広いビジネス上の課題や導入目標がすでに定義されている可能性があります。これらは、既存のワークフローの文書化など、より詳細な分析を行うためのガイドラインとなり、システム開発の方向性を示すことができます。
組織が要件を明確に把握できるようになるため、チームはこのフェーズでERPシステムを選択し、導入することができます。オンプレミスで稼働する ERP システムを使用するか、クラウドで稼働する ERP システムを使用するかは、大きな決定事項の一つです。オンプレミスの場合、組織のデータセンターにハードウェアとソフトウェアを購入し、インストールします。一方、クラウドベースのERPは、一般的にインターネット経由でアクセスするサブスクリプション・サービスとして提供されます。そのため、導入が迅速で、社内のIT担当者も少なくて済みます。
2. 設計
設計フェーズでは、詳細な要件と現在のワークフローの理解に基づいて、新しいERPシステムの詳細設計を行います。これには、システムを活用したより効率的な新しいワークフローやその他のビジネス・プロセスの設計も含まれます。現在のビジネス・プロセスを最も深く理解しているのはユーザーであるため、設計フェーズにユーザーを参加させることが重要となります。また、ユーザーを設計プロセスに参加させることで、新しいシステムに対する受容性を高め、その機能を最大限に活用させることができます。
ギャップ分析では、ERP ソフトウェアをカスタマイズしたり、ワークフローやプロセスを変更したりして、ERP システム自体との整合性を高めなければならない可能性のある、複雑なプロセスや独特の癖を特定することができます。チームは、そのギャップを導入パートナーやサプライヤーに提示し、潜在的な解決策を特定するよう依頼することができます。
3. 開発
設計要件を明確にした上で、開発フェーズに入ります。このフェーズでは、再設計されたプロセスをサポートするためにソフトウェアを構成し、必要に応じてカスタマイズを行います。また、ERPシステムに置き換えることができない、組織の他の既存の業務アプリケーションとの統合を開発する場合もあります。オンプレミスのERPシステムを選択した場合、組織は必要なハードウェアとソフトウェアをインストールする必要があります。
ソフトウェア開発と並行して、チームは、ユーザーが新しいシステムに適応できるように、トレーニング教材を開発する必要があります。また、データ移行の計画にも着手する必要があります。データ移行には、複数のシステムからデータを抽出、変換、ロードする必要があり、それぞれが異なるフォーマットを使用し、重複した情報や一貫性のない情報を保持している場合があるため、複雑な作業になる可能性があります。プロジェクトチームは、無関係なデータを含むすべての履歴データをそのまま移行するのではなく、どのデータを移行するかをこのフェーズで決定しなくてはなりません。(データ移行については後ほどご説明します。)
4. テスト
テストと開発は同時進行することも可能です。例えば、プロジェクトチームは特定のモジュールや機能をテストし、その結果に基づいて修正や調整を行い、再テストを行います。あるいは、ある ERP モジュールをテストしている間に、別の ERP モジュールを開発することもあります。ソフトウェアの基本的な機能をテストした後、システム全体の機能を徹底的にテストすることが重要です。何人かの従業員に、あらゆる日常業務でシステムを使用、テストする機会を与えるのも良いでしょう。またこのフェーズでは、移行したデータをテストし、エンドユーザーに初期トレーニングを実施する必要もあります。
ベンダーの多くは、導入前と導入後の両方に対応する、ユーザー・トレーニング・ツールを提供しています。しかし、ベンダーのサポートに頼るだけでなく、組織は開発フェーズで作成したトレーニング教材を効果的に活用する必要があります。エンドユーザーの日々の業務に合わせたトレーニング・リソースは、大きな価値を持ちます。
5. 導入
システムが稼働を開始する日は、努力の集大成とも言えます。このフェーズでは、潜在的な問題に備える必要があります。従業員を変化に備えようと最善を尽くしても、多くの要素が絡み合っているため、戸惑う従業員が出てくる可能性もあります。プロジェクトチームは、ユーザーがシステムを理解し、問題を解決できるよう、質問にすぐに答えられるようにしておく必要があります。必要であれば、導入パートナーもトラブルシューティングを支援できるはずです。ユーザーがシステムに慣れ、期待される生産性向上を実現するには、ある程度の時間がかかります。
一部のデータは、導入に先立って移行することができますが、その他の情報 (現在のトランザクションなど)は、本稼働の直前に移行する必要があります。
ERP システムの全モジュールを同時に導入することを目指す組織もあれば、優先度の高い特定のモジュールやプロセスに最初に焦点を当て、他のモジュールを後から段階的に追加する組織もあります。また、リスクを最小化するために、新しいERP の導入と並行して旧システムを一時的に稼動させ続ける組織もありますが、これはプロジェクト全体のコストを増加させ、ユーザーの生産性を低下させる可能性があります。
6. サポートと更新
ERP 導入後の継続的なサポートは、ユーザーの満足度を維持し、ビジネスが意図した利益を得られるようにするために非常に重要です。このフェーズでもプロジェクトチームがERPシステムを監督することはありますが、彼らの主な関心は、ユーザーからのフィードバックを収集し、システムに必要な調整を行うことにシフトします。新機能の導入に伴い、追加の開発や構成が必要になることもあります。さらに、新しいスタッフにはシステムに関するトレーニングを提供する必要があります。
オンプレミスのERPシステムを利用している場合は、定期的にソフトウェアの更新をインストールする必要があります。また、長期的にはハードウェアのアップグレードが必要になることもあります。クラウドベースのERPシステムを使用している場合は、ベンダーが自動的にソフトウェアを更新します。
動画:ERP導入計画の手引き
ERP導入のベストプラクティス
段階的な導入計画を策定するだけでは、成功を確実なものにすることはできません。各フェーズにおいて、ERP導入のベストプラクティスに従うことも同様に重要です。ベストプラクティスとしては、以下が挙げられます。
計画を軽視しない。できるだけ早く設計と開発に取りかかりたいと思うかもしれませんが、最初の「発見と計画」のフェーズを急がないことが重要です。このフェーズでは、プロジェクトが多くの賛同を獲得し、明確な計画に基づいて実行され、十分な予算と人材が割り当てられるよう、導入プロジェクト全体のための確固たる基盤を築く必要があります。
サポートとトレーニングを軽視しない。プロジェクトチームのメンバーの中には、導入をこれまでの作業の集大成と考え、その後の展開には十分な注意を払わない人もいるかもしれません。しかし、システムのユーザーにとっては、導入日は始まりにすぎません。プロジェクトの継続的な成功にとって重要なのは、導入後の展開なのです。技術サポートを提供し、問題を修正し、更新を提供するためには、適切なリソースの計画と割り当てが不可欠です。エンドユーザーのトレーニングも重要な要素です。従業員が安心してシステムを使用し、新しいワークフローに慣れるようにする必要があります。これは特に、外部のコンサルタントがサポートを終了する場合重要となります。このような部分に注意深く取り組むことで、組織は システムのメリットをフルに活用できるようになります。
データ移行は慎重に計画する。組織は、過去のデータをすべて新しいシステムに移行するという間違いを犯すことがあります。実際には、古いシステムにある情報の一部は無効であったり、不要であったりします。10年前の注文情報は本当に価値があるのでしょうか?リストのすべてのサプライヤーはまだ存在していますか?ERPシステムへの移行は、組織のデータを一掃し、合理化する機会であり、そのための明確な計画を立てる価値があります。レガシーデータを注意深く調べ、古い顧客アカウントを除外し、データの不正確さを探すことは、理にかなっています。
コミュニケーションを重視する。導入のすべてのフェーズを通じて重要です。チームは、ERP導入の理由、目標とメリット、各フェーズで期待されることを、組織内の全員に定期的に伝えることに注力しましょう。双方向のコミュニケーションが重要です。プロジェクトチームは、導入前と導入後のユーザーの問題に注意深く耳を傾ける必要があります。
ERPシステムの導入は、企業にとって時間、コスト、リソースの面で最も最大の投資の1つとなり得ます。そして、どのように導入するかによって、その効果は大きく変わってきます。強力な計画を策定し、最初のERP稼動日以降もビジネス・プロセスの見直しと最適化を継続しましょう。これは、時間をかけて段階的に特徴や機能を組み込むことと相まって、ERP製品の長期的な成功に役立ちます。
No.1 クラウドERP
ソフトウェア
ERP導入フェーズに関するよくある質問
ERP導入で最も難しいフェーズはどれですか?
選択したシステムの導入のしやすさなど、多くの要因によりますが、計画と発見の段階が特に難しい場合が多いようです。必要な時間と資金を確保し、明確なプロジェクトのタイムラインに同意するよう、組織全体の人々を説得することが困難な場合もあるでしょう。しかし、明確な計画なしに ERP 導入プロセスに飛び込むことは、後々の問題につながります。
ERP導入の遅延を回避するにはどうすればよいですか?
最初のフェーズに時間をかけることが大切です。堅牢なタイムフレームを確立し、必要なリソースの見積もりをしっかりと立てましょう。導入のためのタイムラインを作成するためには、多くの要素を考慮する必要があるため、その難しさに圧倒されてしまうかもしれません。多くのプロジェクトが予定より遅れてしまう理由は、最初に計画したタイムラインが非現実的だったからです。導入のキーポイントごとにタイムラインを再評価し、調整が必要かどうかを確認しましょう。
クラウドERPとオンプレミスERPの導入フェーズは異なりますか?
両タイプのERPシステムの導入フェーズは同じですが、フェーズごとの作業内容は一部異なります。最も明らかに違うのは、ハードウェアの納品とインストールをともなうフェーズ1です。このフェーズでは、システムの設定やアップデートを行うことになる後のフェーズと同様に、技術的なスキルが必要になります。また、クラウドERPを使用する場合と比較して、オンプレミスにシステムをインストールする場合は全体的な導入期間が長くなる可能性があります。
ERP 導入の初期段階における経営幹部の関与の重要性について教えてください。
プロジェクトにおける経営幹部の関与の重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。ERP プロジェクトは、他の多くの日常的な優先事項とリソースの取り合いになる可能性があります。CEO や CFO などの優れた経営幹部が関与していれば、プロジェクトが組織内の全員から必要なサポートを得られるようにすることができます。経営幹部による関与がなければ、プロジェクト・マネジャーや部門マネジャーなど、導入に携わる人々は苦難に直面することになります。
ERP導入ライフサイクルとは何ですか?
ERP導入ライフサイクルとは、ERPソフトウェアを社内に導入するまでの期間を指します。導入ライフサイクルには、発見と計画、設計、開発、サポート、導入、トレーニングなど、複数のステップとプロセスが含まれます。導入のタイムラインは、ビジネスの複雑さによって異なる場合があります。しかし、ライフサイクルには通常6~12か月かかります。
ERPの導入の最初のフェーズとはどのようなものなのでしょうか?
発見と計画は、ERP導入の最初のフェーズです。このフェーズでは、プロジェクトチームを結成し、ERPプロジェクト計画の構築を開始します。この計画は、プロジェクトの残りの期間中、ガイドとして機能する必要があります。このフェーズでは、チームは最初のミーティングを行い、既存の問題と潜在的な解決策を特定し、それをドキュメント化します。また、指定されたチームがシステムを調査・選択し、詳細なシステム要件を定義するのもこのフェーズです。