エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)の導入は複雑で時間のかかる作業ですが、会社にとっては戦略や目標、プロセスを見直す絶好の機会でもあります。ERPの導入に成功すれば、イノベーションを起こしてビジネスのあらゆる分野を改善できます。たとえば、会社の様々な部門からの増え続ける財務データや業務データを一元化することにより、すべての意思決定者が同じページ上で作業できるようになります。

新しいシステムの有効性を示すには、厳選された主要業績評価指標(KPI)が有効です。

知っておくべき9つのERP導入KPI

ERPの導入に成功した企業はその要因に、経営幹部によるサポート、優れた変更管理プログラム、適切なデューデリジェンスなどの内部要素を挙げています。ERPの導入には複数のフェーズがあり、それには発見からビジネス要件開発、そして計画、展開、サポートまでが含まれます。導入開始時のKPIが優れていれば、それだけ導入がビジネスの最終目標に沿ったものとなり、組織はそれだけ新しいシステムの価値を引き出せるようになります。

会社は長年にわたってERPから価値を引き出すことになるため、短期と長期両方のKPIを追跡することは重要で、これらによって会社がその戦略的目標にどれくらい近づいているかを総合的に測ることになります。ERPの導入が完了したら、以下のKPIの改善を追跡することで、会社の成功を測定することも、ERP戦略のどこをさらに練り上げられるかも特定できます。

  1. 在庫回転率: 在庫回転率は、特定の期間内にどれくらいの製品が売れたかを示します。たとえば、OEMのディスプレイのメーカーが週あたり5,000台を販売する目標を設定したとします。適切に導入されれば、ERPによりその進捗が監視され、在庫プロセスが可視化されるとともに、どうすればもっと製品が売れるかがわかるようになります。

    また、過剰在庫による損失を回避し、市場行動に基づいて需要をより的確に予測できます。在庫回転率はメーカーにとって特に重要です。倉庫の効率を犠牲にすることなく生産を最大化するために正確な在庫パフォーマンス比を設定する必要があるためです。

  2. プロジェクト・マージン: 建設業などのプロジェクトベースの産業では、プロジェクト・マージンにより、資材費や労務費、間接費などの費用を差し引いた後の収益が測定されます。プロジェクト・マージンを正確に測定するには、原価見積や予算、プロジェクト経費、プロジェクトにより生み出された収益といった多くの値を追跡する必要があります。優れたERPでは、これらすべての指標のデータを組み合せて、各プロジェクトの収益とコストの全体像を提供します。

  3. 需要予測: 需要予測KPIは、製品やサービスに対する将来の需要の予測がどれほど信頼できるかを示します。たとえば、食料品チェーンでは、在庫切れや過剰注文を避けるために、顧客が年間の様々な時期に購入するアイテムを予測する必要があります。適切に構成されたERPは予測精度が高く、企業が履歴データと現在の指標(お盆やお正月などの今後の休日や大型台風の予報、サプライ・チェーンにおける不足などの経済動向)の組合せに基づいて需要を予測するのを支援します。

  4. スケジューリング: スケジューリングKPIはその名のとおり、生産スケジュールに対する生産速度を追跡し、重要なマイルストンに遅れたりそれを逃さないようにするのに役立ちます。たとえば、玩具メーカーであれば、年末商戦に間に合うように、自社の最も売れているゲームの生産量を2倍に増やして配送することが重要なマイルストンになるかもしれません。同様に、ソフトウェア・ベンダーであれば、製品の最新の更新を提供するための厳格な生産スケジュールがあるかもしれません。ERPでは、チームが前もって調整できるように、製造と生産のプロセスの進捗が期限に対してどうかの全容と、どんな混乱が生じる可能性があるかについての洞察が提供され、これによってスケジュール作成が簡素化されます。

  5. 従業員満足度: ROIや売上のような正確に定量化できる指標ではないものの、従業員のエンゲージメントと満足度も、適切なERP導入であれば測定できます。満足度とエンゲージメントは、生産性のレベルや従業員の定着率の向上、さらには売上の増加から推察でき、このいずれも企業の財務の健全性の前触れとなります。逆に、KPIが逆方向に推移している場合もERPによってそれがわかり、企業が潜在的な問題に迅速に対処して修正する必要があることを示す洞察が提供されます。これは、従業員の教育や勤労意欲の面で行った投資を無駄にしないことにもつながります。

  6. ビジネスの生産性: 生産性はビジネス・パフォーマンスを測定する普遍的な尺度であり、それには十分な理由があります。会社とその各部門やチームが勤務時間を最大限に活用していないなら、目標を達成できなくなるリスクがあります。ビジネスの生産性に関して一般的に障害となるのは、プロセスの非効率性、機器の障害、サプライ・チェーンの問題や従業員アウトプットの減少があり、そのいずれもERPによって追跡して総合的に評価できます。このようにして、会社は生産性に影響するあらゆる要因を分析し、情報に基づいて改善方法をいっそう的確に判断できるようになります。たとえば、倉庫管理者は、需要の高い製品の荷揃え作業の速度が従業員の不足のために低下していることがわかると、その問題を解決するためにさらに人員を雇うことにするかもしれません。

  7. 顧客体験(CX): 顧客体験KPIはほぼ間違いなく、会社にとって最も重要な指標です。企業がプロセスや機能に加えるどんな改善も顧客に影響を与えメリットをもたらし、結果として販売や成長、持続へとつながります。ERPは、製造時間の短縮、配送の正確性の向上、より柔軟な配送オプションなど、会社の製品やサービスの改善が目に見えてわかる理想的なつくりになっています。たとえば、ホテル・チェーンの担当者は、ERPを使用して顧客の評価やレビューを追跡し、顧客体験において改善できる点を知ることができます。

  8. IT支出: IT支出指標は、企業が最小限のコストでテクノロジ投資から最大限の利益を得られるようにするうえで役立ちます。多くの成熟した企業では特に、複雑なレガシー・システムおよびプロセスが頭痛の種となっており、これは必ず効率の低下と不必要なコストの発生につながります。ERPでは、ハードウェアやソフトウェア、クラウド・サブスクリプションのコストに関連する指標を、会社または従業員レベルで追跡できます。手元にあるこれらの情報をもとに、企業はシステムを統合および最適化することで、パフォーマンスを犠牲にすることなくコストを削減する方法を模索できます。

  9. 収益成長と売上: CXが会社の業務レベルの最優先事項であるとすれば、収益成長と売上は業績における最上位の必須事項です。収益や売上の指標は、特定の期間に製品やサービスの販売によってどれだけの収益を上げたか、またそれが前四半期比や前年比など、より長い期間にわたってどのように推移しているかを示します。このカテゴリの一般的な指標には、販売商品あたりの平均利益、営業マージン、平均注文金額があります。成功裏に導入されたERPおよび適切なKPIにより、会社では最大の収益成長の機会を識別するとともに、効率を高めて運営コストを削減できる分野についての洞察を得ることができます。このような洞察の組合せにより、売上の向上や利益率の健全化につなげることができます。

リアルタイム・データの重要性

リアルタイム・データは、組織全体における人やパフォーマンス、テクノロジの一貫性のあるビューを取得する上での鍵となります。成功するERP導入は、事業活動とプロセスに関連する優れた詳細情報を生成し、その情報を一元化することで、意思決定者が企業でどんな役割を担っているかにかかわらず、同じ情報に基づいて戦略や計画を立てられるようにするものであることが必要です。

企業では一般にERPとビジネス・インテリジェンス(BI)ダッシュボードが統合されており、分析やERPソフトウェアにあまり詳しくない利害関係者であってもこのデータにアクセスして簡単に理解できるようになっています。ビジネス・コミュニケーションの改善の結果を単一のKPIで測定することは困難ですが、上記の9つのKPIで定義された一般的なビジネス改善によって推察できます。たとえば製造会社の場合、工場の生産現場のダウンタイムは、ERPのリアルタイム・データ・フローの価値をより直接的に示す指標です。工場のオペレーションのリアルタイム情報がもっとわかるようになれば、ダウンタイムの減少につながるはずだからです。

ERP導入の成功を測定する方法

ERP導入の成功は、新しいソリューションがどれだけ迅速に展開されたかのみでは評価できません。スムーズな導入は強力な第一歩であるとはいえ、ERPは、それがビジネス・プロセスを改善するために使用される場合にのみ価値が高まっていきます。組織の運営方法の改善は、上記の9つのKPIの改善を測定することにより、時間の経過とともに明白になります。

これらのKPIに加え、次の質問に対する答えも、最近導入されたERPの価値を事業管理者が評価するうえで役立ちます。

  • すぐに改善が見られたビジネス・プロセスはどれか?どこで障害があり、それをどう克服したか?
  • ERPは、導入前のすべての期待に応えているか?
  • 管理者は全般的にミスが減ったと実感しているか?意思決定における改善はどうか?
  • 顧客関係/満足度は改善したか?
  • 従業員はERPを日常業務に組み込んでいるか?
  • ビジネスの成長は加速し始めたか?
  • 全般として、事業活動の細分化が減少してまとまりが出てきたと感じられるか?
  • 経営層の満足度はERP導入前よりも高くなっているか?

これらの質問に対する答えには、主観的なものや、少し時間が経たないとはっきりしないものもあります。しかし、それらを組み合わせ、より直接的に計測可能なKPIに結び付けることで、事業管理者は新しいERPがビジネスにもたらす価値を強く実感できるようになります。

結論

ERPの導入には時間とエネルギ、そして組織全体のチームからの賛同が必要です。この記事のKPIリストは完全なものではありませんが、企業はこれら9つの業績評価指標に注目することで、導入を成功させるための万全の備えができるでしょう。

ROIや収益のみを追求したいという気持ちに駆られることもあるかもしれませんが、顧客体験や社内プロセス、労働文化を改善することで、企業はERP導入のメリットを実感でき、長期的な成功に向けた準備ができます。

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ERP導入KPIのFAQ

ERP導入の成功の指標は何ですか?

ERP導入の成功を示す指標は複数あり、ビジネス・パフォーマンスや収益性、従業員満足度や顧客体験の改善などがあります。また、導入に成功すると、人やプロセス、テクノロジにおける改善につながります。

ERPのKPIとは何ですか?

KPIとは主要業績評価指標のことです。新しいERPを導入する際に適切なKPIを特定して追跡することで、財務および会計、販売、人事、マーケティングなどの様々な分野において目標を達成または突破していることを確認できます。

5つの主要な業績評価指標は何ですか?

ERP導入を成功させるうえで最も重要なKPIは、収益と売上の成長、顧客体験(CX)、プロジェクト・マージン、ビジネスの生産性、従業員満足度の5つです。

ERPのパフォーマンスはどのように測定しますか?

ERPのパフォーマンスは一連の主要業績評価指標(KPI)を使用して測定できます。これにより、コストや効率の面での向上、顧客満足度、および作業習慣の改善が測定されます。しかし、ERPがどの程度従業員に幅広く受け入れられているか、管理者がシステムによって状況が改善したと感じているかといった、数字にできない要因も考慮に入れる必要があります。