企業が成長し、業務が複雑になるにつれ、在庫管理システム、買掛金(AP)や売掛金(AR)の処理を支援する専門ソフトウェア、顧客関係管理(CRM)などの新しいソフトウェアシステムを追加することは自然な流れですが、これらのすべてのソリューションは、単一のエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムによって処理できる可能性があります。
その一方で、合併、買収、新規事業部門の立ち上げによって、一部の企業では複数のERPシステムを導入することにもなります。ERPを1つに統合するには、初期費用や移行作業が必要な場合もありますが、多くの場合、長期的な効率性とコスト削減効果は、投資した時間とコストをはるかに上回ります。ERP統合が企業にとって有効化どうか判断する際には、ERPのメリット/デメリットを考える必要があります。
ERP統合とは?
ERP統合とは、複数のERPシステムとデータベースを単一のERPプラットフォームに統合するプロセスです。ERP統合が完了すれば、従業員は1つのシステムにログインして、担当する財務、製品、従業員、およびカスタマー・データにアクセスできます。
統合の際、企業は既存のERPシステムの中から1つを選択できます。一方で、現行のソフトウェアの使用を継続することを決める前に、ERP統合プロジェクトは、他のオプションを見直して、自社の長期的なビジョンにより適した選択肢がないか検討するための良い機会となります。
複数のERPシステムを導入している企業は、すべてのシステムの稼動を継続するために、各ベンダーにコストを支払う必要があります。さらに、複数のシステムを使用していると、データの整合性が失われ、不正確になる可能性があり、異なるソフトウェアを使用する部署間のコミュニケーションを妨げることにもなりかねません。単一のERPシステムであれば、維持・保護するデータのセットは1つだけで済み、すべてのユーザーが同じ情報を参照できます。これにより、IT支出が削減され、ビジネス全体の効率化につながります。
単一のERPシステムで、すべてのサービスや製品データを1か所で追跡・管理できます。顧客、ベンダー、従業員の個人情報、契約、通信履歴、支払方法の設定などを、1つのシステムに安全に保存できます。複数のERPシステムを統合することにより、最適化すべき新たなビジネス領域が明らかになる可能性もあります。
企業が複数のERPを導入する理由
企業が複数のERPシステムを導入する主な理由は2つあります。
- 異なるニーズに対応するため、複数のシステムを導入する。大企業では、部門によってニーズが大幅に異なることがあり、以前は各部門に合わせた個別のERPシステムを持つことが有益であるとされていました。
- 合併や買収によるもの。企業によってERPシステムが異なる場合があり、合併や買収によって別の企業に吸収されると、新しい企業では複数のERPが存在することになります。
ニーズや目標が異なる複数の部門を運営している場合は、複数のERPシステムを維持するために追加コストを負担しても、ERPシステムを維持する価値がある場合があります。ただし、ERPシステムが同じような機能を提供している場合、企業はERP統合を検討する必要があります。たとえば、貴社が類似のサービスを提供する競合他社と合併した場合、ERP統合が適切な選択である可能性があります。
ERP統合の主な課題
複数のERPシステムを統合する場合、短期間ですべてを統合できるわけではありません。多くの場合、ERP統合にはERP導入時と同じ課題があります。データの移行や新しいシステムの構成にはコストがかかり、一時的に旧システムと新システムが通信できるようにカスタム開発が必要になる場合もあります。
ERP統合で発生する可能性のある一般的な課題を以下に示します。
- ERPシステムの新規導入の課題: 最初の課題は、適切なERPシステムを選択することです。重要なことは、業界、ビジネス・モデル、財務ニーズに合ったソリューションを見極めることです。
- データの移行: 財務データや顧客データを移行する作業は、デジタル音楽コレクションを新しいノートパソコンに移行するよりもはるかに困難です。ITチームでは、古いデータベースから情報をエクスポートし、新しいシステムの要件に合うようにデータを更新して、すべてを新しいデータベースにインポートし、その過程で発生する問題を修正する必要があります。
- 業務の中断: 新しいERPシステムの導入中に一時的に停止時間が発生する可能性があります。比較的短期間で簡単に導入できたとしても、従業員はERPプロジェクト計画に基づいて新システムへの習熟のためにトレーニングを受けるため、多少の時間を要します。そのため、充実したサポートと学習用の教材を備えたシステムを選択することが不可欠です。
- 従業員の賛同: 従業員は変化に対して消極的である傾向があり、特に使い慣れたシステムに関してはその傾向が顕著です。導入プロセスの前および導入中に従業員から意見を求め、システムの導入によって従業員の日常業務がどのように簡略化されるかを説明することは、ユーザー採用を促進するのに効果があります。
- コスト: ERPシステムは、複数のユーザーがいる場合やカスタマイズが必要な場合、特に高額になる場合があります。これらのシステムの統合には、新システムの導入や、その使用方法に関する従業員へのトレーニングに必要な時間を含めると、多額の初期費用がかかります。
こうした課題や、その他の課題の大きさはさまざまです。技術に精通した従業員がいれば、新システムへの移行は容易です。一方で、問題点を解決し、適切なシステムと綿密に計画されたERP統合計画があれば、非常によい結果をもたらす可能性があります。
ERP統合が自社に適しているかを判断するための3つのステップ
ERP統合がすべての企業にとって有効なわけではありません。ここででは、ERPを単一のインスタンスに統合するかを判断するために必要な、3つのステップを説明します。
統合の影響の分析と把握
統合のメリット/デメリットを慎重に検討し、それがビジネスにどのような影響を与えるかを視覚化することが重要です。各部門や従業員のニーズを慎重に分析し、ERPシステムの統合に必要な時間と労力を考慮することにより、統合が企業に与える影響を基本的な理解が得られます。
成功のヒント: ERP統合のメリット/デメリットの一覧を以下に示します。各項目について、ビジネスにどのような影響を与えるかを検討してください。
戦略的メリットとコスト削減のメリットを見極める
次に、統合する対象の旧ERPとその他のソフトウェアに直接関連するコストを確認します。ITチームや財務チームと協力して、現在のコストの詳細を収集し、将来のコストを推定します。割引キャッシュ・フロー(DCF)モデルを使用すると、最も正確な結果が得られる可能性がありますが、まとめるには最も多くの作業が必要です。初期段階ではROIの推定を高いレベルで行うことが有効である場合もありますが、ERP統合に対して大きな決定を下す前に、労力をかけて収益性分析を徹底的に行うことは価値があります。
成功のためのヒント: 複数の旧システムと1つの新システムについて、ライセンス、ホスティング、電力、セキュリティ、サポート、トレーニングを比較検討してください。オンプレミスのソリューションからクラウドベースのソリューションに移行する場合、大幅なコスト削減が実現できる可能性があります。
ビジネスのメリットの見極めと検証
進めることが有効かを判断するには、現在の業務効率の問題点やコスト、システムの負担、統合後の業務のあり方などを分析する必要があります。ERP統合が業務改善を通じてコスト削減にどの程度効果があるかを推定するには、ベンダーや業界の出版物に掲載されているERPのケース・スタディ、ホワイト・ペーパー、従業員調査などを参照すると有効です。
成功のヒント: 在庫、請求、出荷、給与の管理など、業務の現状の問題点を考慮してください。これらの業務機能の非効率性によって無駄になった時間や製品のコストを概算し、ERPシステムを統合することによるメリットを把握します。
ERP統合のメリット/デメリット
ERP統合のメリット
- ユーザー・エクスペリエンス(UX)の向上: ERPシステムを統合すると、すべての従業員が共通で使いやすいインターフェイスによって、必要なものを1か所で見つけることができます。これにより、導入が増え、最終的には新入社員の学習曲線をフラット化できます。
- 効率性の向上: 従業員は、作業を中断して別のシステムにログインして必要なものを見つけ、最初のシステムに戻らなくても済むようになります。コンテキストのスイッチングは生産性が非常に低下しますが、統合システムではそれがなくなります。さらに、従業員は1つのシステムに対して1つのパスワードのみで済むため、データ・セキュリティと可監査性が向上します。詳細は以下をご覧ください。
- コスト削減: 2つ以上のシステムのコストを支払う代わりに、1つのシステムのみの支払いで済みます。また、作業員は1つのシステムを学習するだけでよく、IT部門では、保守、アップグレード、サポートするシステムが少なく、トレーニングにかかるコストを節約できます。
- 単一のデータソース: 単一のデータソースにより、最終的にカスタマー・エクスペリエンスを損なう誤りや不一致を排除できます。また、データソースを1つにすることにより、データの安全性を確保し、損失を防ぐためにバックアップを取ることも容易になります。
- 監査の簡略化: 財務監査や業務監査を実施する必要がある場合は、チームではすべての詳細を1つのプラットフォームで使用できます。また、一部のERPシステムには、特定の財務レコードやカスタマー・レコードにアクセスしたユーザーを特定するデータ追跡機能が備わっており、ミスや問題の原因を追跡できます。
- リスク管理: 監査とデータ・セキュリティにより、従業員による盗難、データ侵害、その他の問題のリスクを軽減します。単一のERPシステムにより、他のリスクもより適切に管理できます。たとえば、クラウドベースのERPは、本社で異常気象や自然災害が発生した場合でも、企業に継続性をもたらします。
- ビジネス・インテリジェンス(BI)の向上: すべてのデータを1か所にまとめることにより、これまで作成に数日かかっていたレポートと分析をリアルタイムで利用でき、意思決定を支援できます。重要業績評価指標(KPI)はビジネスで広く使用されており、パフォーマンスを監視し、業績の低い領域においけ、意思決定者にアクションを促すのに役立ちます。
ERP統合のデメリット
- データ漏洩の可能性: まれに、計画どおりにデータ転送が実行されないことがあります。このため、システム復旧中に停止時間や情報の欠落が発生し、チームで追加の作業が発生する可能性があります。
- 時間とリソースの要件: 統合の前後では、IT部門と財務部門の業務量が膨大になります。新しいERPシステムの導入には、一時的な導入費用に加えて、ITスタッフの人件費、コンサルティング、カスタム開発が必要になる場合があります。
- 全員のニーズに応えることができる単一のソリューションを見つけるのは困難: チームの中には、自らのニーズに完全に適合するように高度にカスタマイズされたソリューションを希望することもありますが、ビジネスの幅広いニーズに対応しながら実現するのはおそらく困難です。全員が完全に満足できる1つのソリューションを見つけることについては、社内で意見が一致しない場合があります。
スムーズな統合を実現するためのステップ
ERP統合プロジェクトを開始する準備ができている企業は、ビジネス・システムを統合する際に、実績のあるERP導入戦略に従う必要があります。すべての機能を1つのプラットフォームに統合する負担を軽減するために実行できる対策を以下に示します。
データのクリーンアップと標準化
作業は旧システムから開始します。新システムに移行する必要のない古いデータは削除することを検討してください。次に、既存のすべてのシステムを調査し、標準の書式とデータタイプを使用し、それらを単一のデータセットに統合できることを確認します。
計画の作成
旧システムの準備、新しいERPの立ち上げ、データの移行、テスト、従業員のトレーニング、顧客側の準備(必要な場合)、新しいソリューションへの公式な切り替えのタイムラインを示します。ERP統合プロジェクトは計画よりも長引く可能性があるため、このプロセスの依存関係のあるステージの間に、バッファの時間を設定することを検討してください。チームの努力に報いるために、移行作業を終えた際に、ハッピー・アワーやその他のイベントを開催する時間を確保することを検討してください。
日程の設定
ERP統合プロジェクトを進めることを決めたので、移行を完了する日程を設定できます。多くの企業では、以降時に問題が発生した場合に備えて、複数のシステムを並行して稼動させ続けます。
関係者およびユーザーの登録
ITスペシャリストやプロジェクト・チームの他のメンバーが裏方として忙しく働いている間、会社のリーダーに対してトレーニングを開始し、新しいERPシステムについて期待を持ってもらいます。社内から反発があったとしても、信頼できる単一のシステムを導入することにより、いかに日々の業務が楽になり、責任を果たすことができるかというメリットに焦点を当てます。プロジェクトの初期段階からエンド・ユーザーに関与してもらうことにより、計画に沿った予算と期間でプロジェクトを実現します。
新しいワークフローの説明
新しいERPシステムの導入に伴う変更点の多くは、ユーザーにメリットをもたらします。新しいワークフローによって、効率が向上し、優秀な従業員が能力を最大限に発揮して業務にあたることができるようになります。ただし、各ユーザーのカテゴリに対して、変更点と新システムでの作業方法を説明することが重要です。効率が向上することは、すべての関係者にとって有益です。
統合を円滑に進めるため、企業では、このERP導入チェックリストが参考になります。
トップクラスのクラウドERP
ソフトウェア
NetSuiteを使用したERPシステムのアップグレード
NetSuite ERPなどの包括的なシステムは、215の国と地域にわたるさまざまな業界で26,000社以上の顧客にサービスを提供しており、最短100日で導入できます。多くの企業が複数の従来型や普及型の会計システムをNetSuiteに置き換えることにより、財務と業務の改善を実現し、短期間でROIを達成しています。
また、NetSuiteは、異種で相互接続されていないシステム群を統合クラウド・プラットフォームに置き換えた実績があります。このソフトウェアでは、財務、サプライチェーン管理(在庫管理および受注管理を含む)、CRM、人事、eコマース、分析など、すべてのビジネス機能を1か所にまとめます。
企業は、旧式、非効率、相互接続機能のないERPシステムに妥協する必要はありません。必要なすべての機能を備え、さまざまな業界の企業の要件を満たす、柔軟性の高いソリューションを利用できます。効率性とコスト削減という観点では、ビジネス・ケースは明確です。ERP統合は、多くの場合は適切な選択です。