※この記事は、日本オラクル株式会社理事 NetSuite事業統括コンサルティング統括本部 統括本部長の玉井健志が翻訳、監修しています。

サプライチェーンの混乱を軽減し業務効率を向上させるため、AIを活用する企業が増えています。企業はAIを活用して大量のデータからパターンや異常を検出し、需要予測、問題の早期発見、タスクの迅速化に役立てています。

近年の例として、貿易政策や関税制度の変化への対応が挙げられます。AIを活用したサプライチェーン・マネジメント・ソフトウェアは、仕入先や工場、物流拠点などで構成されるグローバルなサプライチェーン・ネットワークを分析することができます。そのため、関税や貿易ルールが変更された場合でも、企業はその影響を迅速に把握し、代替となる調達先や物流ルートを評価することができます。AIによる提案をもとに、企業は代替サプライヤーへの切り替えや生産拠点の移転、あるいは、米国の外国貿易ゾーンを活用した輸送ルートの見直しなどを行うことで、関税負担の繰り延べや軽減を検討できます。

サプライチェーン・マネジメント(SCM)におけるAIとは

サプライチェーン・マネジメント(SCM)におけるAIとは、機械学習(ML)、予測分析、コンピュータ・ビジョン、生成AI(GenAI)、AIエージェントなどの技術を活用し、製品やサービスの調達・生産・流通を支えるネットワーク全体の運用を支援するものです。

テクノロジー・ベンダー各社は、サプライチェーン・マネジメント(SCM)や在庫管理をはじめとする業務向けソフトウェアにAI機能を組み込んでいます。これらのシステムは、サプライチェーン業務に携わる各部門の作業負担を軽減するのに役立っています。

在庫管理においては、在庫切れの可能性が高まった際にシステムから通知を受けることで、担当者の日常的な確認作業の負担を大幅に減らすことができます。

ロジスティクス業務では、出荷遅延が発生してから対応するのではなく、AIによる予測や通知をもとに、遅延を回避するための代替輸送ルートへ事前に切り替えることができます。

倉庫業務では、AIを活用した画像認識システムを導入することで、棚卸や在庫確認の効率化を図り、作業のスピードと精度を高めることができます。

購買業務では、調達依頼書や仕入先評価レポートなどの作成を迅速化できるため、担当者はより付加価値の高い業務に集中できます。

サプライチェーンにおけるAI活用の主なポイント

  • AIは、サプライチェーンの混乱をより的確に予測し、タスクを自動化して業務コストを削減することで、回復力が高く効率的なサプライチェーンの構築を実現します。
  • AIの導入により、手作業による定型業務の負担が減り、担当者はより戦略的な意思決定や例外対応に注力できるようになります。
  • AI導入を成功させるには、データ整備、プロジェクト管理、ユーザーへの定着支援などの戦略が欠かせません。

サプライチェーンにおけるAIについての説明

クラウドERPシステムの普及に伴い、サプライチェーン分野でもAIの導入が急速に進んでいます。AIによりクラウドERPシステムに蓄積されたデータを活用して、需要予測や在庫最適化などのサプライチェーン分析が容易に行えます。また、近年では新たなAIエージェントの登場により、簡単な指示を与えるだけで、複雑なサプライチェーン業務を計画・実行できるようになっています。

マテリアル・ハンドリング分野の大手業界団体であるMHIの年次報告によると、2024年時点でサプライチェーン専門家の4人に1人以上がすでにAIを利用しており、さらに54%が今後5年以内にAIを導入すると予想されています。

サプライチェーンにおけるAIの仕組み

AI搭載のシステムは、さまざまなデータソース、特に組織内部の運用データを学習することで高精度な需要予測や在庫レベルの最適化、輸送計画の改善などを実現します。これらのシステムは、新たなデータを継続的に収集・分析し、推奨内容を改善していくことで、サプライチェーン業務における活用価値をさらに高めていきます。また、対話型AIチャットボットは、常時利用可能なバーチャル・アシスタントとして機能し、質問への回答やインサイトの提示を行います。

現時点では、AIは次のような中核技術を通じてサプライチェーン業務をサポートしています。

  • 機械学習 (ML): MLはAIがデータから学習し、人手による継続的な再プログラミングを行わなくても精度や性能を向上させる技術です。企業はMLを活用して過去および現在のデータを分析し、非効率な業務を特定するとともに、意思決定の自動化を通じて調達やその他の業務プロセスの最適化を図ることができます。
  • 予測分析: AIの代表的な活用分野の1つが、MLを活用した予測分析です。AIは複数のデータセットを関連付けて分析し、顧客需要、設備のメンテナンス時期、価格変動などを予測します。これにより、サプライチェーン部門は課題や機会を事前に把握し、より適切な意思決定を行えるようになります。
  • コンピュータ・ビジョン: AIを搭載したスキャナやロボットなどのシステムは、在庫数の確認や品質管理、ピッキング、梱包といった主要業務を迅速かつ正確に実行できます。
  • 生成AI (GenAI): 生成AIのコンテンツ作成能力は、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の幅広い業務で活用されています。たとえば、顧客や仕入先とのメール文面の作成といった日常業務から、サプライチェーン計画に向けた供給ネットワークのシナリオ作成やストレステストといった戦略的業務まで、その活用範囲は大きく広がっています。
  • AIエージェント: 近年のAI技術の進化により、グローバル貿易管理、物流管理、仕入先との契約交渉などの分野で、用途に特化したAIエージェントの活用が進んでいます。これにより、サプライチェーン部門は、たとえば「適切な安全在庫を維持する」といった目標を設定するだけで、AIエージェントが目標達成に必要なタスクを自律的に計画・実行することが可能になります。

サプライチェーンにおけるAIの活用

PwCのレポートによると、サプライチェーン分野でAIを早期導入した企業の3分の2が、サプライチェーン計画や在庫最適化、物流計画・実行、注文管理、リスク分析などの幅広い分野で、大きな効果を実感していると回答しています。詳しく見ていきましょう。

在庫管理

MHIの2025年版レポートによると、在庫管理は、サプライチェーンにおけるAIの主要な活用分野の一つとなっています。AI搭載システムは、需要予測の精度向上によって適切な在庫量を維持し、ロボットやスキャナを活用して棚卸や品質管理を自動化することができます。また、安全在庫水準を算出し、発注点に基づいて適切な再発注のタイミングを提案することも可能です。さらに、市場環境の変化に応じて、発注点をリアルタイムで調整することもできます。

配送ルートの最適化

AIは、倉庫や配送拠点の位置、物流ネットワークなどを分析し、配送ルートをリアルタイムで最適化することで、配送時間の短縮やコスト削減、カーボン・フットプリントの削減を実現します。AIツールはGPSなどのデータを活用してルートを継続的に更新し、交通状況や天候、輸送コスト、関税などの変化にも対応できます。

需要予測

サプライチェーンにおける需要予測は、過去のデータに基づく手法から、AIを活用した高度な予測モデルへと移行しつつあります。AIは、ソーシャルメディアのトレンドや競合他社の価格設定、その他の市場要因を分析することで、需要変動の兆候を早期に把握できます。また、複数のデータソースを組み合わせて分析することで、より高精度な予測を行うことも可能です。たとえば、競合他社による製品リコールが発生した際には、ソーシャルメディア上の反応や季節要因なども併せて分析することで、自社の代替製品に対する需要の急増を予測することが可能です。

予知保全

AIにより、機器の状態を継続的に監視し、故障の兆候を事前に探知する予知保全を実現することができます。AIツールは、センサーから継続的に取得されるデータを活用し、振動や温度、電力消費パターンなどを分析することで、機器故障の兆候を早期に把握します。これにより、計画外の設備停止を減らし、製造現場の生産性やサプライチェーンの信頼性を向上させることができます。

倉庫の最適化

迅速な配送を実現しつつ労働力不足やサプライチェーンの混乱にも対応するため、倉庫や物流センターではAIの活用が進んでいます。AIは、在庫管理の精度向上や自動化の推進、倉庫レイアウトの最適化、既存の倉庫管理システムの機能強化などに役立っています。たとえば、AI搭載のクレーンは、あらかじめ設定された指示に従って動作するだけでなく、需要の高い商品を分析し、より効率的に取り出せる保管場所へ自動的に配置することができます。

タスクの自動化

AIの進化により、ワークフローの自動化は、シンプルなルールベースのボットから、より柔軟な業務に対応できるAIエージェントへと進化しています。ルールベースの自動化が注文処理や請求書照合などの定型業務を処理する一方で、AIアシスタントは、顧客や仕入先からの個別の問合せにもリアルタイムで対応できます。

IBMとオラクルが共同で実施した調査によると、サプライチェーン最高責任者の76%が、2026年までにAIエージェントによって業務プロセスの効率が向上すると予測しています。たとえば、複雑な購買関連文書の下書きを自動生成したり、仕入先のリアルタイムのパフォーマンス・データをわかりやすく要約したり、配送遅延の可能性について顧客へ事前通知するなど、AIはさまざまな業務で活用されています。

リスクの検出

ある業界調査によると、サプライチェーンリーダーの4分の3が、今後も大規模な混乱の発生頻度が高まると予測しています。AIは、パターン認識や異常検出を得意としており、こうしたリスクの兆候をリアルタイムで把握するのに役立ちます。AI搭載システムは通常の業務パターンを学習しているため、価格の急騰や輸送のボトルネックといった異常を検知し、サプライチェーン担当者に通知します。

サプライチェーンにおけるAIの主な活用例

サプライチェーンにおけるAIの主な活用例
サプライチェーンにおけるAIの主な活用例として、配送ルートの最適化、在庫管理、タスクの自動化、予知保全、リスクの検出、倉庫の最適化、需要予測の7つが挙げられます。これらの活用方法は相互に連携しながら、データに基づいた高度なサプライチェーン管理を支えています。

サプライチェーンでAIを活用するメリット

サプライチェーンにAIを活用することで、企業は競争力を高めることができます。サプライチェーン部門は、複雑なネットワークを簡素化し、煩雑な業務を自動化することで、不要なコストを削減しながら製品品質を維持できます。また、潜在的なリスクや機会を予測し、より迅速かつ的確な意思決定を行うことで、市場機会を最大限に活用することができます。具体的には次のようなメリットがあります。

サプライチェーン管理の精度向上: AI搭載システムは、複数のソースからのリアルタイム・データを収集・分析し、新たなパターンや異常を検出することで、予測や意思決定の精度を向上させます。AIは需要予測の誤差を最大50%削減できるほか、安全在庫管理の最適化や廃棄ロス削減を通じて、コスト削減にも貢献します。

サプライチェーン全体の可視性向上: IBMとオラクルの共同調査によると、現在AIを活用している人の約4分の3が、仕入先や物流パートナーを含むサプライチェーン全体の可視性向上を実感しています。AIモデルは、多様なソースからデータを収集・分析し、そのすべてを「サプライチェーン・コントロール・タワー」に集約します。これにより、「単一の信頼できる情報源(SSOT)」として機能するダッシュボードが構築され、サプライチェーン部門は業務状況を一元的に管理しながら、業務全体を効率的に運営できます。

在庫管理の強化: AIを活用して在庫状況の可視化や倉庫レイアウトの最適化、自動化を進めることで、企業は処理能力(スループット)を向上させるとともに、人手への依存を減らし、日常業務の精度を高めることができます。

業務コストの削減: McKinsey & Companyによると、業務にAIを導入した卸売販売業者では、在庫水準が20%から30%、物流コストが5%から20%、購買支出が5%から15%、それぞれ削減できたと報告されています。

欠陥と無駄の削減: コンピュータ・ビジョン・システムは、生産ラインや製品を継続的に監視し、高い精度で迅速に欠陥を検出します。肉眼では見つけにくい微細な欠陥も検知できるため、最終製品の品質向上につながるだけでなく、製造工程の早い段階でエラーを発見することで、無駄な作業やコストの削減にも貢献します。

従業員の安全性向上: 運搬作業に伴う事故や負傷は、従業員の安全確保において重要な課題です。AIを活用した作業環境では、自律型ロボットが危険な作業を担い、AI搭載カメラが危険行動や作業者と機械の接触リスクを監視します。これにより、労働災害のリスクを低減し、より安全な作業環境を実現できます。

リアルタイムインサイトの獲得: 生成AIを活用することで、サプライチェーン担当者は自然言語を使って分析モデルを容易に更新できるようになり、意思決定にかかる時間を数日単位から数分単位へと大幅に短縮できます。

倉庫レイアウトの最適化: 生成AIは、複数の倉庫レイアウト案を作成・シミュレーションし、商品の移動経路や作業者・ロボットの動線を分析できます。これにより、スループットや生産性を最大限に高めることができます。

NetSuiteサプライチェーン・コントロール・タワー・ダッシュボード

NetSuiteサプライチェーン・コントロール・タワー・ダッシュボード
このダッシュボードでは、NetSuiteのサプライチェーン・コントロール・タワー機能を使用して、サプライチェーン全体における在庫の需給をシミュレーションできます。また、予測シミュレーション(スナップショット)を用いることで、在庫レベルが需要予測や計画値に見合っているかどうかを分析できます。

サプライチェーンにおけるAIの課題と制限事項

AIには大きな可能性がある一方で、導入には依然として大きな障壁が存在します。MHIのレポートによると、主な課題として、予算不足、導入効果の不透明性、関連技術への理解不足が挙げられています。実際に、パイロット導入や初期導入の段階では、AIには次のような課題や制限事項があることが明らかになっています。

  • データの制約: AIを効果的に活用するには、高品質で利用しやすいデータが不可欠です。データが複数のシステムに分散していたり、一貫性や完全性に欠けていたりすると、AIが生成するインサイトの精度に影響を及ぼす可能性があります。
  • プライバシーへの懸念: サプライチェーンでは、顧客情報や製品仕様など、多くの機密情報が扱われています。これらのデータをAIで活用できるように一元化すると、サイバー攻撃の標的となるリスクが高まる可能性があります。さらに企業は、州や国ごとに定められたデータ保護関連の法規制にも対応しなければならないため、適切なデータ管理とコンプライアンスの確保が重要な課題となります。
  • AI導入プロジェクトの課題: AI導入プロジェクトを成功させるには、AIを活用する目的や対象業務の明確化、質の高いデータの準備、適切なモデルの選定、組織内運用体制の整備、継続的なモニタリングの仕組みづくりなど、幅広い取り組みが求められます。また、既存のレガシー・システムにAIを統合させる場合は、モデル開発、データ処理、インフラ整備、テストの実施など、さまざまな工程を慎重に進めなければなりません。
  • 組織内での定着: AI活用に必要な知識やスキルを持つ人材の確保・育成は、多くの企業にとって課題となっています。また、AIによって業務が置き換えられることへの不安や、AIの判断・出力結果に対する信頼性への懸念もあります。こうした要因は、AI導入や定着を遅らせる可能性があります。
  • 初期投資の負担: AIには長期的なコスト削減効果が期待できる一方で、導入時にはまとまった初期投資が必要になります。Coherent Solutionsによると、基本的なAIソリューションの導入費用は2万ドルから8万ドル程度になる場合があります。さらに、リスク管理システムのような高度なAIソリューションや、企業向けのフルカスタム開発プロジェクトでは、さらに大きな投資が必要になります。

サプライチェーンにAIを導入するための8つのステップ

AIはそれ自体が戦略ではありません。AIは、サプライチェーンの改善を実現するためのツールです。AI導入を成功させるためには、以下の8つのステップに沿って進めるとよいでしょう。

  1. 課題の洗い出しと改善ポイントの特定

    まず、サプライチェーンにおける非効率な業務やコスト増加の要因、潜在的なリスクを特定し、AIによってどのような改善が可能かを検討します。その際は、目の前の課題だけに着目するのではなく、その背景にある根本原因まで掘り下げて分析することが重要です。また、サプライチェーン全体を俯瞰できるよう、関連する部門や関係者を幅広く巻き込みながら検討を進める必要があります。

  2. AI活用の優先順位付けとロードマップの策定

    AI導入の投資効果を早期に示すためには、短期間で成果が期待できる取り組み(クイック・ウィン)から着手することが有効です。一方で、多くの企業にとっては、長期的なデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進も重要なテーマとなっています。そのため、短期・中期・長期の目標を定めたAI戦略を策定し、成功の定義やその実現のために必要な取り組みを明確にすることが重要です。こうした計画をあらかじめ策定することで、将来的な拡張に対応しづらい場当たり的なシステム導入を防ぎ、投資回収期間の長期化を回避しやすくなります。

  3. AI活用に必要なデータの整備

    効果的にAIを活用するためには、サプライチェーン・マネジメント(SCM)、CRM、ERPなどの基幹システムに加え、IoTデバイス、外部データベース、サプライヤーネットワークなどから取得される、正確かつ包括的なデータが必要です。まずは、自社のデータがクリーンで一貫性があり、目的に適した内容となっているか、さらにAIシステムの学習に十分な量が確保されているかを確認しましょう。

  4. AIソリューションの評価

    自社のビジネス目標の達成に最も適したAIソリューションを選定します。必要な機能や拡張性、既存システムとの互換性に加え、ライセンス費用、保守費用、トレーニング費用などを含めた総所有コストについても評価することが重要です。

  5. AIベンダーの評価と選定

    多くのSCMソフトウェアベンダーが、製品へのAI機能搭載を進めています。そのため、既存ベンダーの製品をアップグレードすることでAIを利用できる場合もあれば、新たなベンダーへの移行が選択肢となる場合もあります。いずれの場合も、AIベンダーは単なるシステム提供者ではなく、長期的に価値を提供する戦略的パートナーとして選定することが重要です。そのため、候補となるベンダーについて十分な調査を行い、技術力、サイバーセキュリティ対策、業界知識、サポート体制、将来の製品開発ロードマップなどを確認します。また、他社での導入実績も参考にすることが推奨されます。

  6. パイロット導入と効果検証

    投資対効果(ROI)への懸念やその他の疑問を解消するために、本格導入に先立ち、小規模な試験導入(パイロット)や概念実証を実施します。まずはユースケースを1つ選定し、成功指標を明確に設定したうえで、想定される効果を検証します。たとえば、特定の配送ルートでAIを活用したルート最適化ツールを試験導入し、輸送時間や燃料コストの削減効果を測定します。こうした取り組みを進める際は、綿密な計画と適切なプロジェクト管理を行うことで、日常業務への影響を最小限に抑えることが重要です。

  7. 役割の見直しとトレーニングの実施

    AIの導入は、従業員の働き方に変化をもたらします。そのため、AIツールを効果的に活用できるよう、従業員の役割や業務内容を見直す必要があります。AIへの移行によって新たに人員配置を行うよりも、既存の従業員の役割や職務内容を見直すケースが一般的です。従業員は手作業による業務を減らし、AIが担う業務を監督・調整しながら、業務全体を管理する役割へとシフトしていきます。こうした変化に対応するためには、データの解釈や分析、批判的思考、AIを活用したワークフローの管理など、新たに求められるスキルを習得するためのトレーニングが必要です。また、AI活用を組織全体に定着させ、信頼性と一貫性のある運用を実現するために、経営層から現場の担当者まで幅広い従業員を対象にトレーニングを実施する必要があります。

  8. 導入後の評価と監視

    AIの導入後は、主要業績評価指標(KPI)や投資対効果(ROI)の目標に基づいて、定期的に効果を測定する必要があります。サプライチェーンにおけるAI活用のKPIとしては、需要予測精度、在庫回転率、物流コストなどが挙げられ、これらを導入前のベースラインと比較することで成果を評価できます。また、AIのパフォーマンスを継続的に監視し、再学習が必要なタイミングを見極めることも重要です。たとえば、大手競合企業の市場参入や消費者行動の大きな変化など、市場環境に根本的な変化が生じた場合には、サプライチェーンで利用しているAIモデルの再学習が必要になります。需要予測精度があらかじめ設定した基準を下回った場合などは、再学習を実施する判断材料の一つとなるでしょう。

業種別に見るサプライチェーンにおけるAIの活用事例

以下では、EYやIBM・オラクルの共同調査、McKinseyの事例紹介などをもとに、サプライチェーンにおけるAI活用の可能性と実際の成果を見ていきましょう。

  • 小売業における仕入先との交渉: 米国の大手小売企業と欧州の海運会社では、生成AIボットを活用し、仕入先との価格や契約条件に関する交渉を自動化しています。これにより、交渉にかかる時間の短縮や購買コストの削減、仕入先満足度の向上が実現しています。また、仕入先の65%以上がボットとの交渉を希望しています。
  • 製造業における貿易コンプライアンス: 大手メーカーでは、AI搭載ソフトウェアを活用して複雑な税関申告書類を自動作成し、貿易優遇制度に関する事務手続きを管理しています。これにより、通関手続きの迅速化や手作業の削減を実現するとともに、法令遵守を維持しながら輸入関税を大幅に削減しています。
  • 建設業における在庫管理: 大手建材販売会社では、AI搭載のコントロール・タワーを活用して、ネットワーク全体の在庫を一元的に管理しています。このシステムは、欠品の可能性を早期に検知し、生成AIチャットボットが在庫に関する質問にリアルタイムで回答することで、充足率を5%~8%向上させています。
  • 物流倉庫における生産性向上: 米国の最大手物流企業では、独自のAIプラットフォームを活用して、倉庫内のピッキングルートを最適化しています。このシステムにより、従業員の生産性が約30%向上しました。また、担当者は生成AIを活用し、自然言語でシステムに質問することで、物流ネットワーク全体の非効率な部分を特定し、改善につなげています。
  • デジタルツインを活用した倉庫運営の最適化: 大手物流企業では、AIを活用したデジタルツインによって倉庫業務のシミュレーションと最適化を行っています。このシステムで数千ものシナリオを検証した結果、既存倉庫の収容能力を約10%向上させ、新たな倉庫用地や施設取得に伴うコストを回避しました。

サプライチェーンにおけるAIの今後のトレンド

AIによって、サプライチェーンは事後対応型から事前対応型へと急速に移行しつつあります。業界アナリストは、生成AI、自動運転車、高度なロボティクス、高機能なコラボレーション・プラットフォームといったテクノロジーの融合を背景に、2035年までにサプライチェーンの大部分が自律的に運用されるようになると予想しています。今後注目される主なトレンドとして、次のようなものが挙げられます。

自己修復型サプライチェーン・ネットワーク: サプライチェーンの混乱を自動的に検知し、代替案を評価したうえで、最小限の人的介入で対応策を実行します。単なる予測にとどまらず、状況の変化に応じてリアルタイムに対応します。

予測・最適化を担うデジタルツイン: デジタルツインは、単なる可視化ツールから予測・最適化のためのシステムへと進化しています。将来的には、サプライチェーンの混乱を予測し、数千ものシナリオをシミュレーションしながら、ネットワーク全体のパフォーマンスを自律的に最適化できるようになると期待されています。

最小限の指示で複数ステップにわたる複雑なワークフローを実行するAIエージェント: 仕入先との交渉、市場動向に応じた価格調整、物流業務全体の自律的な管理・調整などを担います。

自律化が進む現場業務: 長距離輸送を行う無人トラックや、AI搭載の倉庫ロボットなどは、現場業務の自律化がさらに進むと予想されています。

今後、サプライチェーンに携わる人材には、業務プロセスの整備やデータ品質の向上、システム間の統合、関係者間の連携強化、そして明確なビジネス価値を生み出すテクノロジーの活用を推進する役割が求められるでしょう。また、サプライチェーン運営の実務と、AIをはじめとする最先端のテクノロジーの双方を理解する人材の重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。

AIを活用したERPでサプライチェーンを強化

NetSuite サプライチェーン・マネジメントは、AIを活用した予測分析とインテリジェントな自動化によって、複雑なAIシステムをゼロから構築することなく、サプライチェーン業務の高度化を支援します。たとえば、標準搭載された機械学習モデルが自社データをもとに自動的に学習し、在庫切れリスクの高い製品を予測します。これにより、サプライチェーン部門の担当者は、問題が発生した後に対応するのではなく、事前に対策を講じることができます。また、NetSuite Text Enhanceでは、生成AIを活用して発注書の作成を自動化できます。さらにSuiteAnalyticsは、レポート作成機能に加え、自然言語による指示を通じて複雑なデータから意思決定に役立つインサイトを引き出せるインターフェイスを提供します。

NetSuite サプライチェーン・マネジメントダッシュボード

NetSuite サプライチェーン・マネジメントダッシュボード

需要予測から在庫管理まで、AIは、ニッチなテクノロジーから、最新のサプライチェーン・マネジメント(SCM)を支える中核的な機能へと進化しつつあります。その主な目的は、不確実性が高まる環境のなかで、混乱を予測し、市場機会を捉えることができる、優れた予測能力や効率性、レジリエンスを備えたサプライチェーンを構築することにあります。プロジェクトの複雑さやデータ整備、ユーザーへの定着といった課題は依然として残されていますが、段階的かつ戦略的に導入を進めることで、より自律的で自己調整型のサプライチェーンの実現につなげることができるでしょう。

サプライチェーン・マネジメント(SCM)におけるAIに関するFAQ

サプライチェーンにおけるAIとは何ですか?

サプライチェーンにおけるAIとは、機械学習、予測分析、コンピュータ・ビジョン、生成AI、AIエージェントなどを活用し、調達・生産・物流・在庫管理などの業務を支援する技術です。需要予測、在庫最適化、配送計画、リスク検知、定型業務の自動化などに活用されます。

サプライチェーンにAIを導入するには、どのくらいの費用がかかりますか。

事前学習済みモデルを活用したレコメンデーション・システムなど、比較的シンプルなAIソリューションの導入費用は、2万ドル~8万ドル程度となる場合があります。一方、リスク管理システムなどのより高度なソリューションでは、最大15万ドルの費用がかかることもあります。さらに、自社向けに開発するカスタムAIプロジェクトでは、より高額な投資が必要になる可能性があります。

サプライチェーンにおけるAIのメリットと課題は何ですか。

サプライチェーンにおけるAIの主なメリットとしては、在庫管理や物流の最適化によるコスト削減、ネットワーク全体の可視性向上、リスクや機会を予測することによる意思決定の高度化・迅速化などが挙げられます。一方で、導入コストの高さや、レガシー・システムとの統合の複雑さは大きな課題です。また、データが不完全であったり、複数のシステムに分散されている場合には、AIの効果が十分に発揮されない可能性があります。さらに、従業員のスキル不足やAI活用への理解・賛同が十分に得られない場合には、現場への定着が進まないことも課題となります。

NetSuiteでは、企業の生産性向上やデータ分析の高速化、より深いインサイトの獲得を支援するため、スイート全体にAI(人工知能)が組み込まれています。詳細については以下のデモンストレーションをご覧ください。