海外事業展開とIFRSによるグループ経営管理と業績の向上

佐々木 宏氏 (Terry's&Company 代表取締役)
Terry's&Company様はNetSuiteの「リファーラル プログラム」参加企業です。

はじめに

IFRSの導入が日本でもほぼ決まり、最近では具体的な対応方法や自社への適用方法について議論の中心が移ってきています。

一方で、日本市場の縮小傾向とアジアの経済成長に伴う市場拡大という現状に於いて、最近ではアジア市場への進出を進めている企業が多くなっています。

今回のコラムでは、IFRS導入を契機として、特にアジアを中心とした海外現地法人(以下、現法)を中心としたグループ企業の管理品質を向上させ、業績拡大に寄与するIFRS対応とは何か?を考えてみたいと思います。

IFRSとは何か?

IFRSとは国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)のことで、国際会計基準審議会(IASB)によって設定される会計基準です。日本では、2007年8月に企業会計基準委員会がIASBと会計基準の全面共通化を合意し、2011年6月までに日本基準と国際会計基準の違いを解消することを合意したことを正式に発表しました。

2009年6月に金融庁が設置している企業会計審議会は「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を取りまとめ、一定の要件を満たす企業に対し2010年3月期の年度から国際会計基準による連結財務諸表の作成を容認する方針を示しました。これを踏まえて、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」の公布が2009年内に実施されたことにより、日本にもIFRSの導入に向けた動きが一気に加速しました。

アメリカの条文主義の会計基準を基礎とした日本と違い、国際財務報告基準はイギリスの原理原則主義を基礎としています。また、原則に沿う限り各社で会計方針や会計処理が異なることも許されています。会計方針およびその取り扱いの説明の情報公開が義務付けされますが、条文に沿う形であれば「公正で適切」な会計表記の「原則」から遊離すると会計士が判断する場合は条文からの遊離も認められるなど、柔軟性を一定程度認めている点にも特徴があります。

IFRS対応の基礎的要件

技術的な会計処理方法については専門書が多く出ていますので、会計の技術的な解説はそちらに譲るとして、ここでは海外事業展開をしている場合にIFRSに対応するために必要な基礎的要件を考えてみましょう。

海外現法を持つ企業グループ管理の基礎的要件としては以下のものが挙げられます。

  • 即時性
  • 正確性
  • 同一基準処理
  • 検証可能性

即時性とは、報告数値の上がってくるスピードである。リアルタイムである必要性は必ずしもないが、報告数値が1週間後や2週間後に上がってくる、という形では本社側でのグループ企業の統制や意志決定スピード、リスク管理に影響が出てしまいます。少なくとも、日次での報告は必要であると考えられます。

正確性とは、報告数値が正しいことをいうが、過失で間違った数値を報告する、ということだけでなく、正しい数値をきちんと報告してくる各社が把握している、ということも前提となります。

同一基準処理とは、これがIFRSを導入する最も効果が見込める部分ですが、報告してくるグループ企業がすべて同一基準で会計処理されていることを指します。これは、正確性にもつながります。特に、アジア各国では、隣の国でも会計基準が全く違ったりすることも珍しくありません。現地の会計事務所などに任せっぱなしにしていると、こうした差異そのものに気付かずに、各社バラバラの基準で上げてきた報告数値で業績評価や意志決定をしてしまうことになってしまいます。

検証可能性とは、報告してきた数値が正しいことを客観的に証明できることをいいます。これは会計処理の大原則ですが、各国により証憑書類が異なったりします。これも正確性につながることですが、常に正しい数値が何に基づいたものか、ということを本社側でも検証できる状態にしておくことは、コンプライアンスの観点からも大変重要です。

海外現法管理のケーススタディ

それでは、特に工場や支社などが海外にある場合のグループ会社管理の現状を実例をもとに考えてみたいと思います。

(通信会社のケース)

ここでは某通信会社の、特にアジアでの現法管理の実際を見てみましょう。

ケースの対象となる通信会社は、アジア各国に現法を持っています。通信事業は国によっては外資の参入が制限されているところもありますので、100%子会社の現法もあれば、国や現地企業との合弁という形をとっている現法もあり、いろいろです。

この会社では、会計処理は自社の経理担当社員が担当しています。経理担当社員は、大体現地の会計処理に詳しい人が、現地採用されています。会計処理は、会計システムをエクセルを活用して行われています。会計システムは、本社からERPパッケージが各現法に提供されており、各現法は本社から提供されたERPパッケージに会計数値を登録することで、会計処理の結果や業績報告を行います。本社への会計報告は月一回で、月末処理から1週間後から2週間後に確定数値を報告します。

ただし、会計処理に関する細かい部分はエクセル管理です。債権・債務管理や経費処理は、各担当者がそれぞれ専用のエクセルフォーマットを使って処理をしています。また、国によっては支店などのオフィスが複数ある場合もありますが、その場合は各支店などのオフィスで処理をした上で、月次で会計数値の取り纏め結果を各現法のヘッドオフィスに報告して、取り纏めています。

会計処理は各国の会計処理基準が違いますが、そうした差異は報告の際に考慮されていません。また、各現法毎に会計処理方法が統一されておらず、会計基準は各現法任せになってしまっているのが現状です。ERPパッケージも、各現法が自社の要件に合わせてカスタマイズして使っていますので、同一パッケージを利用していると言っても、その内容はまちまちとなってしまっています。さらに、一部の会計処理を各担当者がエクセル処理していますので、検証可能性という点でも課題があります。

こうしたことが起こってしまう背景としては、業績報告数値と各現法が必要とする現地での税務処理を中心とした会計処理を同じシステムや会計システムで処理していることが原因として挙げられます。

対応方法としては、基本的な処理と本社へ報告するための業績管理(管理会計)は自社で行い、現地対応で必要な会計処理(財務会計)は現地の会計事務所に任せる、というやり方などが考えられます。ただし、この方法は、会計処理した結果を、業績評価の観点と現地の会計基準に則って処理をした結果の2つの数値を同時に管理できることが必要となります。そうしないと、2重管理が必要となり、会計処理の負荷が大変大きくなってしまいます。

IFRS導入については、ヨーロッパでは、IFRSへの関心が高く現地の会計士・税理士にIFRS対応を依頼すればある程度の導入を進めることができます。しかし、アジアではIFRSへの関心そのものが低い場合が多く、IFRS対応を現地で進めようとしてもなかなか導入が進められないケースが多いようです。こうした状況では、IFRSが各国の状況に合わせた会計処理の柔軟性をある程度認めていることもあり、標準化された会計処理による業績報告という観点からのIFRSの導入について、ローカルスタッフを中心とした導入作業が本社の想定通りに進められることはあまり期待できません。ここは、やはり本社主導で各現法のIFRS対応を進めてゆくべきでしょう。

SaaSを活用した現法管理

では、こうした課題を解決しつつIFRS対応を進め、各現法の管理品質と経営の高度化を実現するためには、どうしたらよいでしょう?

会計処理は、現在、高度にシステム化されており、会計ソフトや専用のシステムを使うのが一般的です。同一基準処理という観点からは、各現法がバラバラに会計ソフトを導入することはお薦めできません。ただし、上記の事例で見たようなERPパッケージをグループ全体で導入する、というのは投資規模の観点からも、多くの企業にとっては一般的ではないでしょう。

投資規模が適性で、且つ各国の現法が使いやすい環境を構築する観点からは、SaaSによる会計システムの導入が選択肢として考えられます。SaaSによる会計システムの導入は安価で済みますし(一般的なシステムと比較したSaaSの投資対効果については、小生の過去のコラムをご参照ください)、また各現法の会計処理方法の設定を本社で一括で管理することもできます。

この場合、導入する会計SaaSには、業績管理(管理会計)と現地会計処理(財務会計)を同時にできる機能が求められますが、実は、こうした管理が可能な会計SaaSはあまり一般的ではありません。というより、業績管理(管理会計)と現地会計処理(財務会計)を同時にできる市販の会計ソフトそのものが多くはありません。SAP社のR/3やオラクル社のPeopleSoftであれば財務会計と管理会計を同時に処理できますが、この場合も、2つの会計処理を同時に行う、とすると運用に工夫が求められます。これまで議論したように、IFRS対応による現法管理には、2つの会計処理を同時に取り扱える機能が求められますが、この機能は一般的ではないため、導入対象となる会計SaaSを選択する際には注意が必要です。

最後に

IFRS導入を契機にして、特にアジア現法を中心としたグループ会社管理の管理品質と業績管理の管理品質向上について考えてきました。アジア各国に現法に対するSaaSによるIFRS導入に際しては、各国のインターネット利用環境の安定性や信頼性など、考慮すべき項目がいくつかありますが、それでも投資対効果を考えると会計SaaSの導入を検討する価値は充分にありそうです。

アジア地域は、文化的にも市場としても非常に多様性に富んでいます。アジア地域は、リーマンショック以降の世界不況からいち早く脱却し、再び活気を取り戻しつつあります。IFRS対応を契機として、多様性に富むアジアの活気を日本企業もいち早く取り込み、多くの日本企業がアジアの成長に貢献できるようになることを願っております。

Terry's&Company 社について

04年設立。ITを活用した経営基盤構築や新規事業支援、資金調達支援など企業が抱える経営課題に直接的に応える課題解決型のコンサルティングに特化したコンサルティングファーム。継続的なクライアントとの関係を重視し、経営課題の早期発見と予防措置を重視した方法論である「Value Management Methodology」を構築している。最近では、環境・CSR分野のコンサルティングにもサービス領域を拡大し、企業価値向上に寄与する環境対応のコンサルティングなども手掛けている。

会社住所 : 〒104-0051 東京都中央区佃 2-2-10 イーストタワーズ 37 階
HP : www.terry-s.com

著者について

佐々木 宏 (Terry's&Company 代表取締役)
株式会社富士総合研究所、中央 Coopers&Lybrand Consulting 株式会社、Accenture にて多数のコンサルティングプロジェクトに従事。その後、ミロク情報サービスにて会計サービス事業の立ち上げを行う。2004 年、Terry's&Company 設立。会計及び IT 領域を中心として、経営の現場に真に役に立つコンサルティングを多数実施している。近年では、環境と IT、CSR の有機的な連携による企業価値向上についての研究も進めている。早稲田大学生産情報システム研究科博士課程後期中退。

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